1-12 磊々落々
日間ランキングに載っててビックリしました。
皆様ありがとうございます。
「うわ暗っ」
重たい扉をなんとか開けて入ると、文字通りの一寸先は闇状態。これまで頼りないながらも道行を照らしてくれた苔も見当たりません。
あ、そうだ。魔法、使ってみましょう。
「【点火】」
「おぉ、かっけー。魔法使いみたい」
「『みたい』ってなんだ、そのものでしょうが」
炎魔法スキルの基礎魔法、【点火】です。スキル説明によると、これを何度も使って習熟度を上げると、より上位の魔法が使えるようになるそうです。
効果は指先に小さく火が灯るだけ。
正しく点火か着火用の魔法といったところですが、今はこのちょっとの灯りが有難い場面です。
そういえば、『どうだ明るくなつたろう』なんて風刺画もありましたね。燃やさずに渡してくれた方が気分も未来も明るくなると思うのですが。しかし灯りには燃料が必要なのもまた、動かせぬ事実な訳で……
「なんか燃やせるものない?MP勿体無いんだけど」
「んー、良さげなのはゼリーどもが落とした油しかないにゃあ」
「じゃあそれ燃やすから両手で器作って」
「そのツノは龍じゃなくて鬼の証だったかぁ」
「磁器でしょ?いけるいける」
「間違いなく服が燃えるんよなぁ……」
「むぅ、いい考えだと思ったのに」
などとくだらないことをしゃべっているとーー
きゅるるる…と不思議な音が。
「なにトワ、霊体なのにお腹空いたの?」
「つれないこと言うなよぅ。そういう気分の時もきっとあるのさ……だけど今のはあたしじゃない。多分、なんかいる」
しかしかなり広い空間らしく、目を懲らせど先には闇が広がるばかり。
とりあえず壁沿いに歩いて空間の把握をしようかと歩き始めるとーー
バタン、という音と共に入り口の存在を主張してくれていた薄明かりが消えてしまいました。
あぁ、この演出はほぼ間違いないでしょう。
「「ボス戦だ」」
そして視界上部に表示される長大なHPバー。残念ながらこれまでの木っ端Mobと違って、トワの石落としで終わるような相手ではなさそうです。
「しゃーない、一瞬だけでも明るくすっかぁ。ミサっち、火ぃくれー」
びぃ、という音と共に差し出されたのはフリルのあしらわれた服の袖。オイルを吸わせたのか、ぬらりと炎を反射しています。
「いいの?」
「ちぎっちゃってから言うなよぅ。まあボロ服がボロ切れにジョブチェンジしただけだ。きーにしなさんなーって」
次のスキル、裁縫取ろう。
「じゃあ、いくよ」
「おぅさ!」
灯りのついた指先をフリルに近づけると、バチバチと激しく一気に燃え上がり、周囲を明るく照らします。さらにーー
「そぉれとーんでけぇ!」
トワが燃え盛る布をポルターガイストの謎パワーで部屋の奥へと投げ込み、その軌跡が一瞬だけボスの姿を照らし出しました。
こちらへ今まさに飛びかかって来ている、巨大なコウモリの姿を。
「っ」
「げぇっ」
咄嗟にトワの襟をひっつかんで横にダイブ。そして私たちが立っていたあたりから轟音と振動が伝わってきます。壁に激突したのでしょう、HPバーも少し減少しています。
私のHPも今のダイブで1/4ほど減ってしまいました。くそぅ、紙装甲め。ポーションを飲んで回復します。
ん、メッセージに着信?
『助かったぜー、さんくー』
『ボスがここまでちょくちょく出て来たアイツらの親玉っぽいから』
『極力音出さずにいこう』
急いで内容伝えたいからか途切れ途切れのメッセージが三通。とりあえずトワは無事みたいですね。そしてその提案にも賛成です。わざわざ居場所を知らせる必要もないですからね。
『りょかい』
『さーてどーすっかね』
結局暗闇に元どおりですしね。出来ることといえば……
『今のみたいに壁に当てられないかな?』
『ふむ、ちと怖いがやってみっかー』
『試してる間に、なんか無いか部屋の探索してくる』
『おっけ。せいぜい気を引いとくから頼んだぜー』
メッセージを読み終わると同時、
「オラァこっち来いやデカコウモリ!」
トワの声が響きます。ガラ悪いなぁ。
さてこの隙に私も仕事をせねば……
小さく【点火】を唱え、マップの闇を晴らしにかかります。
【抜き足差し足】と【消音】もよろしくお願いしますね?信じてますからね?
壁に突撃させる作戦はトワが上手いことやってくれているようで、現状3割ほどHPを削ることに成功しています。このまま終わってくれればいいのですが……
部屋の把握は壁伝いに外周が終わり、残りは中央周辺を残すのみとなりました。
しかしボスのHPが半分を切ったぐらいで、これまで聞こえていた衝突音が聞こえなくなりました。相方の挑発する声や壁を叩く音は聞こえるのですが、それに反応する気配が全くありません。
『あー、行動パターン変化する系かー』
やはりあのまま楽に終わるということはないようです。
ボスのマーカーが部屋の中央付近まで移動したかと思うと、
キィィィィィィィィィンーーと金属音のような耳障りな音が部屋中に響き渡り、私は思わず耳を塞いでしましました。そしてそれはトワも同じだったらしくーー
「ぐへぁ!」
その後に続く突進を受けてしまったようです。トワのHPがゴッソリと無くなっています。全損こそ免れましたが完全にレッドゾーンです。次に掠りでもしたら今度こそ噴水送りでしょう。
『あはは超いてぇ』
『ポーションは?』
『あっしはポルターガイストだぜ?そんなナマモノ用の飲み物は効かねーのよ』
なんということでしょう。ここに来て意外な弱点が発覚するとは……そして追い討ちをかけるようにボスのマーカーが部屋の中央へ。またアレですか……トワは上手く避けられるでしょうか。
再び甲高い金属音。そしてーー
ボスが私に向かって突っ込んで来ました。
「へっ!?」
転がるようにしてなんとか回避を成功。しかしなんでこっちに……あとやはり学習したのか、壁にぶつかった気配がしません。
『あー多分、あの事前動作でこの部屋内のあたし達の位置を探ってるっぽい。狙いもかなり正確だし』
こちらの動きを制限するだけじゃなかったと。急に厄介になりましたね!
『音立てなくても気配が薄くても、アレの後は目の前にいるのと同じと考えて良さそう』
『なんて面倒な』
『ミサのAGIなら躱せるみたいだし、一旦集合』
『ん』
どっちに攻撃がいくのかわからないなら、いっそ合流してしまえということでしょう。そしてトワを抱えて避けろと。
ボスが次の準備に入る前に、一気に中央を走り抜けて反対側にいる相方と合流します。
そして響く三度目の金属音。
トワを抱えて岩肌に躰をあちこちぶつけながらなんとか回避。そして何事もなく戻って行く気配。
『やっぱ壁はもう無理っぽいなぁ』
『どうする?』
『うーむ、キツい。せめてもうちょい明るければ投げられるもの探すんだが。松明とかないしなぁ』
私に有効打はなく、トワには準備する時間がない。そもそも暗すぎてほとんど何も見えない。
何か、何かないですか……ここまでやって来たこと出来ること……せめて明るくなれば……?
……!
『あった』
『お?』
『次、避けたらやってみる。勘違いかもしれないけど、いい?』
『どっちみちジリ貧じゃい。好きにやんな』
『ん、ありがと』
ポーションを飲んで今さっき受けたダメージを回復し、備えます。
そして、ついにその時が来ました。
響く四度目の金属音。
トワを抱えて回避。色々ぶつけてダメージを受けましたがその程度織り込み済み、死ななければ安いものです。
トワを下ろして素早く起き上がり、ボスが戻って来る前に部屋の中央へ全力疾走します。そしてーー
「【採掘】!」
目の前の採掘スポット目がけて、ツルハシを振りぬきました。
感じる手応えは予想どおり。私の勘も捨てたものじゃありませんね。後はまたダッシュで退避です。
直後、さっきまで天井だったものが、轟音とともに降り注ぎます。次の攻撃をするために戻ってきた、ボスを巻き込みながら。
戦闘描写というのは本当に難しいですね。しかもなんでこんな面倒なステージにしたんだ。
次話あたりで苔岩の洞穴編が終わります。いい加減生産したいなぁ。もうちょっとかかりますが。
磊々落々…らいらいらくらく。豪放磊落の後ろ二文字を重ねただけで、意味合いも一緒。別に岩石系必殺技の名前ではない。




