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方向音痴の勇者と音痴の吟遊詩人がへっぽこパーティを組みました  作者: アルル 名前なんてただの記号
勇者の剣編
9/72

方向音痴のコンス

「待ちに待った冒険!」


 アルルは浮かれていた。初めての冒険が楽しみで仕方なかったのだ。まるで、遠足を楽しみにしている小学生のようだ。


「アルル~? そんなに~いいものじゃ~ないわよ~?」


 マールがやんわり釘を刺していた。現実と理想のギャップに苦しまないか心配しているのだ。


「どんな出来事が待ち受けてるか楽しみだな~♪」


「別に何もないと思うけどな」


 コンスが呆れたように言った。

 だいぶ歩いて、はじまりの街はもう見えない。永遠と森が広がる道だった。


「それならいいけど……」


 ヘルンがこっそりつぶやいていた。


「あ~ら~? ずいぶ~ん~歩いたけど~誰が先頭だった~?」


 珍しく、マールが早口で言う。正しくは早口ではない。普通の人よりちょっと遅いくらいだが。


「え? ずっとコンスが先頭だったよ?」


 なんでもないようにアルルが言った。全員の顔が強張った。


「アルルは知らないのである……」


 ヘルンが頭をがっくりと下げた。


「もう終わったな。いつ帰れるかわからないな。一週間で戻れるといいけどな。バイトに間に合わないのはまずい」


 ゲイルが遠い目になった。


「え? どうしたの? リーダーだから前歩くのは当たり前じゃないの?」


「あ~の~ね~」


 マールがアルルを憐れみの目で見ていた。マールが言う前にコンスが自ら言うようだ。


「まあ、なんていうか認めたくないけど、産まれた時からだからだし、治らないから言うけど方向音痴なんだ。もう救えないらい」


 コンスが気まずそうに言った。


「わかってるなら、前を歩くなよ」

 

 ゲイルはため息をついた後、頭を抱えている。

 

「久しぶりの冒険だったから、ちょっと忘れてた。ごめん」


「謝っても済まないのである! 帰れなかったらどうすのであるか!」


 ヘルンは半泣きだった。そんなに酷い状況が過去にあったのだろうか。アルルは皆の反応をみて冷汗が出てくるのを感じた。


「無事に~帰れ~る~か~し~ら~?」


「運次第だな。とりあえず、生命の泉は今回は諦めた方がいい」


 一週間で帰れないな、とゲイルは遠い目をしていた。


「そんなに?!」


「じきにわかるのである。ガチ呪いのような方向音痴が解けるには、それなりの代償が必要なのである」


 その呪いのような方向音痴の洗礼をアルルも受けてしまうのだろうか。


「ここ、どこなの?!」


「わかるわけないだろう」


「ワープでもしたの? 来た時と同じくらい歩いたのに、はじまりの街がいつまでたっても見えないよ」


「ガチ呪いといったであろう」


「そりゃそうだけど!」


「地図があっても、どちらから来たかわからなければ意味がない」


「た~ぶ~ん~、コンス~には~そもそも~地図なんて~必要~ない~わ~ね~」


 一度迷うとどうしようもないのだ。例えば、太陽の向きなどで方角がわかったとしても、どちらからきたかわからなければ、目的の位置などわからないのだ。まず、迷ったと判明した場所に石や目立つ物を置く。目印だ。その方向から東西南北に歩くのだ。もちろん、目印の方向は覚えておく。半日程度歩いたので、その時間を歩いて、はじまりの街が見えればその方向が正解だ。ただし、見えなければ別の方向だったということだ。


「こんなの、いつまで繰り返すの?!」


「目的地がみえるまで」


 疲れ果てたアルルが言うと、ゲイルが冷静に答えた。彼にはあまり疲れがみえない。


「機械みたい。無機物男め」


 アルルはぼそっとつぶやいた。


「何か言ったか?」


「言ったけど、ゲイルには教えない!」


「斬新な受け答えしてるな……」


 アルルとゲイルの会話を聞いていたコンスが呆れたようにため息をついた。


「誰のせいでこんなことになってるか理解してる?」


 アルルの顔はめちゃくちゃ怖い。


「すいません、僕です」


「コンスが迷わなければ、こんな会話しなかったよね?」


 アルルは今回の目的である生命の泉に行けずに、かなりご立腹のようだ。


「ごめん」


 コンスは、本当に申し訳なさそうだった。


「言い過ぎたよ。ボクこそごめん、と反省はしたけど、どうにかしないと……か」


 アルルは風に向けて、なにかわからない言葉で話しかけているようだった。


 突風が吹き、近くにあった木の葉が揺れて空高く舞い上がる。


 そして、アルルの身体が浮き上がった。


「アルル?!」


 アルルの身体は空高くまで舞い上がった。


「みえた!」


 ふわりと戻ってきた。


「あっちの方角に街があった! はじまりの街かはわからないけど、行ってみれば少なくとも方向はわかるんじゃない?」


 と言った瞬間、アルルは糸の切れた人形のように倒れた。地面に倒れる前にコンスがアルルを抱き止めた。顔が真っ青で、脱力しているようだ。


「きっと力の使いすぎた。ごめん。僕のせいだ」


 悲痛な顔をしたコンスは、アルルをお姫様だっこした。


「このまま街へ行こう」


「コ~ン~ス~大丈夫~な~の~?」


 たぶん、マールの心の中では、きゃー何?!ラブ?!BL?!という言葉が飛び交っていただろう。


「疲れたら、代わる」


 ゲインがコンスに言っていたが、彼は首を振った。


「僕のせいだから、僕がやる」


 コンスがそう言って格好良く笑うと、なぜかヘルンの頬が赤く染まった。


 マールがまた、心の中できゃー何?!ラブ?!BL?!という言葉が飛び交っていた。

 ここがなぜか大事な布石になるやも……もしかしたら、あと2編くらい飛んだ先の布石になるかもしれない、ヘルンの顔が赤くなったのは。


 アルルが見た街は、はじまりの街ではなかったけど、方向や道順はわかり、一週間かからずに、一行は始まりの街に戻れた。


 コンスに謝り倒され泣き抱きつかれ(これは、ちょっとうざそうだった)アルルは皆に褒められて労われて、嬉しそうだった。



生命の泉に全然辿りつかない(笑)次こそは(笑)

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