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方向音痴の勇者と音痴の吟遊詩人がへっぽこパーティを組みました  作者: アルル 名前なんてただの記号
魔王の花嫁編
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コンスからアルルが吸い取った話3

「あ、そうだった。コンスとのこと忘れてた」


 アルルはお気に入り大木の上で頭を抱えていた。


「感覚が共有された。対価をコンスが払った」


 それは、アルルにとって大問題だった。吟遊詩人の自分の秘密が白日に晒されることになってしまう。


「秘密が明らかになることより、吟遊詩人として、この力を使えなくなる方がつらい」


「アルルー!」


 悩んでいるアルルをコンスが木の下から呼んでいた。


「え、なんで居場所わかったの。こわい」


「いつもこの木の上にいるだろう。特に悩むとアルルは」


 コンスは軽やかに木の上に上ってきた。重力って仕事しないの?とアルルは思った。そして、魔王と神の話を思い出して赤面してしまった。アルルはなぜかガルラとの感覚共有が為されていたのだ。


「俺、ずっとイシュの目線だったんだ。勇者なのに。魔王の心境が痛いほどわかって。これから倒さなきゃいけないのに」


「僕の中に物語が入ってきた時、ずっとガルラの気持ちだった。ずっとずっと、ガルラはイシュのこと大事に思ってた。ずっとずっと許していて、ずっとずっと純粋に愛おしく思ってた。剣になってからは何も感じなくなっちゃったけど」


「聞いてるか?」


 コンスは剣に向けて話す。


『……』


「もしかして、昔のこと思い出してきたの?」


 アルルが優しく剣に向かって話す。勇者の剣は無言のままだった。


「俺は、世界を壊したいほど憎んでいる気持ちを共有してしまった。勇者としては致命的だよな。魔王の肩を持つなんて。魔王が世界を滅ぼす理由に納得したなんて」


 それが、コンスが今まで一人抱えていたことで、憔悴していた理由だった。アルルが吸い出したことによって、まるで憑き物が落ちたようだった。


「皆にも話そうか。特に、ヘルンに」


「そうだな。それがいいと思う。きっと俺じゃ、うまく説明できなかっただろうから。納得はできたけど、受け入れられなかった。魔王が世界を滅ぼす理由が。だって、俺の祖先のせいなんだもん」


 コンスはアルルの肩に頭を乗せた。自然な動作だった。


「もうひとつ、アルルの力のこと、話したんだけど」


「それは、魔王のことが片付いてからにしよう」


 アルルが立ち上がろうとするのをコンスは強引に止めた。


「もう少し、このままでいてよ」


 それは、不思議な感覚だった。出会った頃の幸せなイシュとガルラがそこにいるような感覚だった。


そのまま日が沈むまで二人は何も言わずにそのままでいた。



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