はじめての×××
「ねぇ、ティトリー、マールは起きてる?」
『いいえ、マールは私の意識が外に出ている時は完全に寝ているわ』
「じゃ、ここには3人きりだよね?」
『間違いないわ』
神殿だった。はじまりの街にある、とっても小さな風の精霊を祀る神殿。小屋と言っても差し支えがない。教会のような作りになっていた。
「アルル?」
「コンス、君の物語をもらうよ。はじめてやるから、上手くいくかわからないけど」
『初元の物語、魔王と神の話ね。恋愛要素多めね』
「恋愛要素なんていう綺麗なものじゃなくて、ドロドロしたものの気がするけどね。ティトリーには、コンスの記憶を引き出すのを手伝ってもらいたい。なくなるわけじゃないけど、少しは楽になるはず。どうすればいい?」
マールの顔でにっこり笑い唇を指差した。
「え?」
『キ・スよ』
「きっキス?!」
『粘液接触で効果的な場所はそこしかないわ』
「嘘だよね?」
『早くしないと人がきちゃうかもしれないわよ』
「さっきから何を言い合ってるんだ?」
コンスが不思議そうな顔をして二人に近づく。マールの中のティトリーがコンスのおでこにデコピンを喰らわせた。
「がふっ!」
『ほ~らどうぞ~』
あれ、なんかマール起きてね?
めっちゃ笑顔で床に眠るコンスのほうへアルルを誘導する。
それは、十字架の前だった。
まるで、美しい劇のようだった。
緑色の長い髪の女性が重なって見えた。精霊のようだ。少年の姿に重なる。違和感はない。
『本質ね。彼女の』
最初照れていたアルルだが、覚悟を決めたようだ。
「はじめて、なのに……」
意を決したように唇をつける。黒い靄のような文字がアルルの中に入る。
ティトリーはそれに合わせて力を使う。
『あら、ちょっと失敗して混じっちゃた』
てへぺろ、みたいな反応をした女神様、それ、確信犯?
アルルの前に本が登場した。
緑色の髪の長い女性の瞳と本が金色に光る。その中に黒い靄がかかった文字が消えていく。
本はアルルの目の前で浮き、パラパラとめくれる。しばらくして、光も収まる。緑色の髪の長い幻影も、本も消えた。
「なんとかできたみたい」
アルルは安堵のため息をついた。
「アルル!」
がばっと起きたコンスに、アルルは乱暴に腕を掴まれた。
「うわっ! ゾンビみたいな起き方しないでよ!」
「その力は二度と使わないでほしい! なんで使い続けるんだ!」
アルルも乱暴にコンスの手を払った。それは、明らかな拒絶だった。コンスは傷ついた顔をした。
「ティトリー?!」
『ちょっと混じっちゃったみたい。記憶っていうか、感覚が? 代償はコンスにも払ってもらった感じかしら? あと、全部見えてたわよ、コンスには。今あったこと全部ね』
誤魔化すようにウィンクして突然、マールに戻った。逃げたようだ。
「う~ん~? 私~なに~して~たの~か~し~ら~?」
アルルも脱兎のごとく逃げた。顔は真っ赤に染まっていた。そして、コンスを傷つけたことに、自身も傷ついていた。だが、これは、自分の問題で、絶対に誰にもばれたくなかった。拒絶しても、隠していたかったのだ。
コンスは追わなかった。何がなんだかわからないマールを立たせて、そのまま宿屋に戻った。
その瞳には怒りなのか、真剣な炎が宿っていた。
次の吟遊詩人編への布石……布石というほどでもない気がしますが。次回、魔王と神の話入ります。




