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方向音痴の勇者と音痴の吟遊詩人がへっぽこパーティを組みました  作者: アルル 名前なんてただの記号
魔王の花嫁編
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コンスの思うこと

「この剣がしゃべるようになってから、夢で見るんだ。過去の二人のことを。あ、魔王と勇者の剣だから、二人っていうのは違うかもしれないけど」


 夢で睡眠を妨害され眠れないようだ。コンスは疲れ切った声で言う。


「元から、勇者の剣には精神を汚染されているような感覚はあったんだけど、ここまでじゃなかった。害悪だよ」


『私のせいではない。仕方ないだろう。神族だから、人間と相容れないのだ。それなのに力を使うのだから。魔物をああも簡単に倒せているのは誰のおかげだと思っているんだ』


 魔王が復活して、今まで大人しかった魔物が活性化して暴れている。その対処に追われて忙しい上に、バイトも休めないという悲しい負の連鎖があった。コンスの精神は擦り切れるほど摩耗している。


「コンス、二人について話をして。そして、休もう。コンスは休んだほうがいいよ」


 アルルがコンスに抱き着いている。昨日からずっと怒り出すときにそういう行動をしている。そうしていてもコンスを止めたり、状況をよくすることができないとわかっていても身体が動いてしまうのだ。元から二人のパーソナルスペースはゼロだ。兄弟のような仲の良さ、だったはず。少なくとも現在のコンスはもっと違う感情があると思うが、それどころではない。


「放してくれ! もう我慢できない! こんな剣捨ててやる!」


「コンスマジで落ち着いて」


 見かねて、ゲイルが首根っこを捕まえて、持ち上げた。まるで親猫に咥えられる子猫のようだ。


「ここ数日ずっとうなされてる。ロクに寝れていないんだ」


「……魔王と勇者の剣はずっと戦ってきた、今まで何代かの犠牲を経て」


 絞り出すような声でコンスは言う。ゲイルに降ろされて椅子に座っていた。


「犠牲?」


「そう、イシュとガルラの戦いごっこに付き合わされている人間の犠牲の話だ」


 不思議そうな顔をして聞いている皆に、コンスが付け足す。


「イシュが魔王の名前でガルラが勇者の剣の意思の名前。二人は悠久の時を生きている。存在自体が滅ぶことはない。魔王は器となる人間に寄生する。勇者の剣は勇者の意思に介入し、魔王と戦うための道具となる」


「勇者~の~意思~に~介入と~は~?」


「勇者が戦いたくなくても、強制的に戦わせる。それでどんなに不幸になる人がいてもだ。神族、勇者の血族の血を引いていることが勇者の剣を扱う条件だ。反対に言えば、勇者の血を引いて入れば、誰でもこの剣を使うことができる。剣の適正がなくとも、ガルラが選べば、勇者となる」


「それで無駄に犠牲になった人もいた!」


 コンスが暴れだし、アルルが止めていた。


「コンス、落ち着いて」


『勇者の剣の意思に介入されているわね』


 マールの姿をした泉の精霊、ティトリーが淡い水色の光を纏って登場した。コンスの額に手を当てると、まるで糸の切れた人形のように倒れた。


『こんなことをする理由はなんですか。人間に介入しすぎではありませんか』


 立てかけてある勇者の剣に、ティトリーは諫めるような口調で言う。


『ふん、神族の血を引いた者をどうしようと、私の勝手だろう。私の道具だ』


『命は、そのようなものではありません。あなたがそのような心持であれば、神族の血を引くものは、皆、不幸せでしょう。そのような介入を神であったものがしていいわけがありません』


『魔物を倒さなくてはいけなくてもか?』


『原因は、あなたにもあると思いますが。私は水です。水鏡のように、水が存在していれば、どこでも見えます。私も最古の精霊の一人です。何があったか見ていました』


『忌々しい。全て魔王が悪いのだ』


『その驕りが、神である証なのかもしれませんが、過去を未来に持ち込むのは間違っています。コンスの怒りは正当です。あなたの口から、皆に過去、何があったか話していただけませんか』


『……わかった』


 勇者の剣は語りだす。

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