夢の中で
『ヘルン』
そこは、不思議な空間だった。ヘルンは確か、寝たはずだった。アシュリーが消えたことを悲しみながら、泣きつかれて寝てしまったのだ。
「教会……であるか?」
立っているところは、廃墟の教会だった。夢の中だからか、思考に靄がかかっていた。思考だけでなく、見渡す限りも靄がかかっていた。霧というのだろうか。辺りは真っ白だった。
『ヘルン……ヘルン?』
ヘルンを呼ぶ声が聞こえた。
「アシュリー!!!!!!」
ヘルンは無我夢中でアシュリーらしき影に飛びついた。
『また会えてよかったのじゃ』
アシュリーは神様のように慈悲深い笑みを浮かべていた。死を覚悟している顔だった。
「アシュリーは、死んでしまったのであるか?」
『直球じゃの。死んではまだないようじゃ。意識はあるようじゃからのぅ』
「よかったのである!」
『ただ、いつ妾が消えるかはわからんのじゃ』
「そんな……」
ヘルンは泣いていた。彼女は声もなく静かに泣くようだ。
『肉体があるうちは、消えんかもしれないが、それもわかんのう。魔王に妾の身体が乗っ取られた、というのは聞いたかのう?』
「聞いたのである」
『ずっと、戦っておったのじゃ、妾の中で、魔王を発現させぬためにな。ずっとは無理じゃった。あのクソ魔王、自我が強すぎるんじゃ』
アシュリーが少し悔しそうに明るく言うとヘルンは泣きながら笑っていた。二人は離れるのが惜しいのでずっと抱き合ったままだった。温もりはない。夢だからだろうか。
『会える時間は少ない。また、会えるようにするが、準備が必要でな。意識しかないと、なかなか難しいのじゃ。また、会おう、ヘルン」
靄が晴れていく。
「アシュリー!!!!!!!」
ヘルンは自分がベッドの上にいて、飛び起きたことに気づいた。
「ヘルン?! どうしたの?!」
「ひ~どい~顔色~よ~」
アルルとマールが心配してヘルンの顔を覗き込んだ。マールがヘルンの頭に手を当てていた。治癒魔法を使っているのだ。泉の精霊ティトリーがマールの胸の宝石に入ってから、治癒魔法を惜しみなく使えるようになったのだ。泉のように力が補充されるのをマールはずっと感じていた。生命の代償という対価を支払う必要がなくなったのだ。
「魔王を倒すのである! そして、アシュリーを取り戻す!」
「急にどうしたの、いったい?」
魔王を倒したからといって、アシュリーが戻ってくるとは限らない。でも、今はそれをするしかない。
「大事な人を取り戻したいのである。だから、我は、魔王を倒す」
ヘルンも魔王打倒を決意した瞬間だった。




