しゃべる勇者の剣
「魔王が復活した!」
突然、コンスが頭を抱える。いつもの常設宿屋で皆が寝る準備をしている時だった。
「どうした?!」
「わからない、頭が割れるように痛い」
近くにいたゲイルが倒れていたコンスを支えた。
「なんかすごい音したけど?!」
コンスの倒れる音を聞いたアルルたち三人がが女子部屋から駆け付ける。
『今度の勇者は弱くてかなわないな』
剣から響いてくるのだろうか、この声は。
『勇者一行。魔王が復活した。討伐せなければならないな』
「君は誰?」
アルルがあまり似合わない真剣な声を出していた。
『勇者の剣だ。見ればわかるだろう。音痴の吟遊詩人』
「なにこの嫌味なやつは。その設定は忘れてる約束じゃない?」
「なんででてきた」
コンスが怒りに満ちた瞳で勇者の剣を睨みつけていた。
『これは、これはご挨拶だね、コンス。君が勇者の剣の力を使えるのは、誰のおかげだい』
「え、めちゃくちゃ性格悪くない? 何この剣。折れない?」
アルルの目は据わっている。
『折る?! 馬鹿なのか?!』
「この剣、よくしゃべるな。うるさい」
ゲイルが本気で勇者の剣を窓から放り投げようとしていた。拳闘士なので腕っぷしは強い。さぞ遠くまで飛ぶだろう。
『いやいやいや、ちょっと待て。私がいないと魔王は倒せないぞ!』
「倒されなくてもいいんじゃないか」
ゲイルはいつも通り、感情のない声で言う。
「そうだね、こんな剣と一緒にいるよりはいいかも」
『お前ら、勇者の一行としての矜持とか、誇りとか、そういうのないのか?』
「勇者の一行?」
今まで傍観していたヘルンが怪訝そうな顔をした。
「え、そんな設定あったの?」
アルルは、我知らずという顔をしてマールに聞く。
「知~らな~い~わ~」
『は? なんで勇者として認定とかされてないんだ? 見れば、こんなに最強のパーティはいないだろう?』
剣技に優れた勇者(方向音痴)、風使いの吟遊詩人(音痴)、全属性を使える稀有な魔法使い(剣士になりたい)、火竜の守護を持つ剣闘士(半機械のため心無い)、泉の精霊の加護を持つ僧侶。うん、()の中読まなきゃ最強。
「王都とか行ったことないし。王都でまず認定受けるんでしょ」
「あ、でもまず冒険者レベルLv1から上がってないからなぁ」
「はじまりの街からほとんど出てないよね。バイトあるし」
『(ダメだこいつら)』
「? なんか、うるさいな。何か感じる」
ゲイルがまた勇者の剣を窓から投げ捨てようとしていた。
「やっぱりこの剣捨てる?」
「ああ、捨てよう」
『わかった、もう好きにしていいから、魔王だけは倒してくれ!』
「魔王が復活? 初期に倒されてから何回か復活してるよね、魔王。倒さないとどうなるの? 倒されなかったことなかったよね」
『この世界が滅ぶだろうな。正しい意味で』
「この世界が滅ぶって言われても、実感がわかないな」
ゲイルの無機質な声が多い。いつも無口なゲイルがしゃべっているのは、コンスが頭痛で横でうずくまっているからだ。ゲイルなりに気をつかっているのだろう。
『まず、魔物が活性化するだろうな。もう、人間を襲っているかもしれない。そして、人間がいなくなったら、魔物が共食いをするであろう。そして、共食いの後、一匹になる……魔物や魔族はな。強い者が残る』
「それは、呪いみたいな滅びだね……コンス、大丈夫? どうする?」
「……人間を滅ぼさせないよ。魔王を倒そう」
やっとのことで立ち上がったコンスは宣言する。




