バイト決まった
「ところで、生命の泉ってどこにあるの?」
コンスが近くの森から帰りがてら、アルルに聞いた。
「知らないよ」
「知らない?」
「うん、伝承でしか知らない。どこにあるかはわからないよ。勇者の剣を打ちなおすことができる鍛冶師が生きてるかもわかんない」
「えー? じゃあ、どうやって行くの? 無駄足にならない?」
「図書館とかない?」
「あるけど、もう夕方だから閉まっているよ」
「じゃあ、明日行く! ダメだったら、その時はその時ってことで」
アルルは、コンスの瞳をまっすぐ見た。
「でも、その剣は絶対に錆びたままじゃダメ」
うっすらと緑の瞳が金色を帯びている。コンスはその瞳から目が離せなくなる。不思議な色だ。
「どんなことをしても、その剣は甦らせないといけないの!」
「どうしてそんなにこだわるの?」
「ボクが吟遊詩人だからだよ」
「なんかアルルの話を聞いてると、吟遊詩人が職業じゃなくてまるで使命みたい」
「使命だよ! その剣は、君を英雄にしてくれるよ、コンス」
コンスはびっくりした顔をした後、曇り一つないいつもの笑顔になった。
「英雄なんてならなくていいよ。僕は、ただ、困っている人を助けたいだけ。この剣のままでも十分だし、どんな剣でも、大事な相棒だっていうことは変わらない」
「ふう~ん」
アルルは一切、興味がないようだ。
「ボクが興味あるのは、コンスが英雄になった時だけ。綺麗なだけのコンスには興味ありません」
「綺麗なコンスってなんだよ」
「綺麗なだけ、だよ」
「大きな違いないだろ?」
「いや、大違いだから。自覚しといた方がいいよ」
「アルルの言ってることは良くわからないよ」
コンスは肩をすくめた。第三者的にみれば、コンスはイケメンっぽいし背も高いし好青年だ。だが、中身が綺麗なだけで魅力をあまり感じないのだ。騙されやすいのも欠点だ。人が良すぎる。
「なんか、モテなさそうなんだよね。憧れは多いかもだけど。モテたいとかも思ってなさそうだし」
アルルがぶつぶつ言っていると、コンスが足を止めた。
「あれ? まんじゅう屋さんの女将さん、どうしたんだろう?」
話しながら歩いていたので、気づくとはじまりの街の城門を通り抜けていた。
「妊娠中のおばさんのこと?」
「ほら、大将はいつも作る専属なのに、売り子もしてる」
「おぉ! お前らか! うちのかみさんが出産してなぁ、かわいい女の子だったんだけど、しばらく売り子はできなくてなぁ。困ってたことろだ」
アルルの髪の一部がピーンと反応した(気がした)。
「ボクを女将さんが休んでいる間だけバイトとして雇ってもらえないかな?!」
食いつかんばかりの勢いに、まんじゅう屋さんの大将も押され気味だった。
「ああ、かみさんが帰ってくるまでの期間限定だしあんまり賃金は高くないけどいいのか?」
「ぜひ!」
「願ってもねぇ話だ。助かる」
「まずは、小さな一歩から」
コンスのパーティに入ったこともそうだ。小さなことを積み重ねていこう。そうして、振り返れば大きな歩みになればいい。
「バイト決まって良かったね!」
「うん! こんな可愛い金髪美少女が売り子なんて贅沢だね!」
『え?』
コンスと大将の声が綺麗にハモった。
「アルルって女の子だったの?」
「見たまんま、女の子でしょう?!」
「ボクって言ってるし、髪もショートだし、服も男の子のじゃないか?!」
「性別は女なんだけど……」
「俺が言うのもなんだけど、ちゃんとした格好をした方がいいよ」
「綺麗なだけのコンスには言われたくない!」
「それ意味わかんないから」
「意味わかるように言うと、女の一人旅って危ないから、吟遊詩人の女性は全員男装する決まりなんだよ。それで、吟遊詩人は男しかいないって都市伝説みたくなっちゃったみたいなとこもあるかも」
とりあえず、アルルのバイトは決まった。
「なんにせよ、よかった~」
可愛く言っているが、男の子がぶりっ子しているようにしか見えない。
「さ、宿屋に帰ろ」
「あ、待ってよコンス! 大将、明日の朝来るからね!」
「おうよ!」
二人は夕焼けの中、宿屋に戻った。
さー次はどこだかわからない生命の泉への道へ。