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方向音痴の勇者と音痴の吟遊詩人がへっぽこパーティを組みました  作者: アルル 名前なんてただの記号
魔王の花嫁編
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ヘルンとアシュリーのデートイベント

「買い物に付き合ってくれんかの?」


 上目遣いでアシュリーがヘルンに頼む。


「かまわないのである」


「この街で買い物をしたことがないのじゃ、教えてほしいのと、お礼にご飯でもどうじゃ?」


 可愛く上目遣いでお願いされたヘルンは、勢いよくうなづいた。アシュリーには、抗い難い魅力があるのだ、可愛いという武器。魅了の魔法が自然とかかっているのかもしれない。たぶん、効果があるのはヘルンにだけな気もするけれど。


「ありがとなのじゃ」


「そんなに感謝されることじゃないのである」


 ヘルン、君、なんか乙女ゲームの誘われて照れる男の子みたい。アシュリーは、女主人公。(ヘルンとアシュリーの性別が事実とは異なりますが)


「では、いくのじゃ~♪」


 上機嫌のアシュリーにヘルンも嬉しくなって歩き出した。路面にお店が出ている。よく晴れていて買い物日和だ。


「ヘルンはどこで産まれたのじゃ?」


「……それは……」


 ヘルンは言い淀んだ。


「どうかしたのか?」


「我は、母親を殺して生まれてきたのである」


「母親を?」


「母は、我が産まれた時、死んだのである。父は、それを許さなかった。母を愛していたからなのである。この世界は、別に一夫一妻性ではないのであるが、父は母しか妻がいなかったのである。父は、それから、おかしくなってしまったのである。父は母の死を受け入れられず死んだ、とそれは後で聞いたことなのである。我は、父の姉に育てられた」


 かつてヘルンがこんなにしゃべったことがあっただろうか。


「育ての親は、我の師であり、母親だったのである。今も、森の奥で暮らしているのである。厳しくて優しい良い母なのである」


「むぅ……お返しといってはなんじゃが、妾の話もしてもよいか?」


 アシュリーは可愛い仕草で悩んでいる。


「もちろんなのである」


「妾は、たくさんの兄弟の中の一人じゃったのだ。父は、力の強い魔族でな、たくさんの妻がおった。ヘルンの父親のように一人を愛さんかったのじゃ」


「辛くなかったのであるか?」


「よくある話だとは思うのじゃが、母親は父からの極悪非道で気を病んでしまってな。妾、ちょっとやんちゃしてしまって、父のことサクッと倒してしまったのじゃ。若気の至りなのじゃが」


「え、サクッと倒せるのであるか?」


「父より強い力を持っていたみたいじゃのぅ。まさか倒せるとは思わなくてびっくりしたんじゃ」


「……」


 ヘルンは、とんでもない者に魔法を教えていたんではないかと、今更怖くなる。


「まあ、妾は、父を滅ぼせてよかったと思っておるのじゃ。極悪非道な悪魔の中の悪魔じゃったからのぅ」


「辛いのである」


 なんともなさそうに言うアシュリーにヘルンは眉をひそめた。自分の父を殺さなければならない状況というは、最悪な状況だろう。


「過去は過去なのじゃ。妾たちは、これからを生きていかねばなんのじゃ」


 下を向いているヘルンをのぞき込むようにアシュリーは笑顔を向けた。なんせヘルンは身長170cmを超えている。アシュリーはそれよりも小さい。=かわいい。それがイコールになるとは限らないが。


「この青い指輪、ヘルンに似合わないかのう?」


 アシュリーがヘルンの右手薬指に指輪を嵌めた。


「ほんとうは、左のほうが良かったじゃがな」


 いたずらっ子のようにアシュリーが笑う。辛そうな顔をしていたヘルンも笑った。


「お買い上げじゃ」


 路面のお店にちゃんとお金を払う魔族アシュリーだった。

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