君の頼み
「それで、なんで我を探してたのであるか?」
“君”はじっとヘルンの顔をみていた。
「えっと、それがじゃな……どこかで座って話さんか?」
「そうであるな」
「あ、少し歩いてもいいかのう? 服がびしょ濡れなんじゃった」
ヘルンは”君”の服に手を触れた。両手で肩に触れるようにだ。ヘルンは常人が聞き取れないような呪文を口にした。
『乾け』
風の魔法で服を乾かした。
「風邪を引いたら困るのである」
「うぅう〜」
顔を赤く染めた“君”がヘルンに抱きついた。
「うれしいのじゃ〜」
ヘルンはとても困った顔をしていた。抱きつかれて目を白黒させていた。
「妾に魔法を教えてくれんか? 妾ができるのは、街をひとつ吹っ飛ばすとか、でっかくて使い勝手が悪い魔法ばかりなのじゃ」
「それは、それでいいのではないであるか? 逆に我は、街を吹き飛ばすことはできないのである」
「妾は、いろんな魔法を使いたいのじゃ! 家庭教師を依頼する! それなら受けてくれるじゃろ? 冒険者ギルドを通してもいいぞ!」
「そこまで言うなら……」
「お主の魔法の腕前は、噂になるほどなのじゃ! 期待しておるのじゃ!」
「はぁ……」
反応は薄いが照れているようだ。ちなみに、勇者パーティという噂は一個も流れていないので、ただ単にヘルンの魔法使いとしての実績がちゃんと評価されているようだ。
「ああ、そうじゃ、妾の名前はアシュリーという! よろしくなのじゃ」
「我はヘルンなのである」
ここから始まる異世界生活……じゃなくて、たぶん、ここもう異世界だから。異世界だけど、ヘルン達にとったら普通に本世界だから。
と、まあ、これから二人の話がはじまります。




