レンタル冒険編Ⅳ
「雪山さむっ!」
アルルが息を白くしながら走り回っている。まるで、初めて雪をみた犬だ。嬉しくてぴょんぴょん跳ねている。
「若い者は元気すぎる。アタシもう帰りたい」
レティはあまり寒いところが好きじゃないみたいだ。雪山に来ると毎度同じことを言っている。
「アルル、飛ばしすぎると後でバテるよ。寒さは体力を奪ってるからね。気をつけて」
お前はアルルのお父さんか! とツッコミたくなるほどの保護者ぶりのコンスだ。年的には、お兄さんか。
「はーい」
アルルも全く気にせず、それが当たり前だと思ってる節がある。兄弟のようだ。
「マンモスはその辺にいるから、最後に狩る。先に花を見つける」
「花ってどこにあるの?」
「わかってたら、誰でも取れるだろ!」
「ひぃー! アルミーこわいー」
「アルミーはアタシより寒いの苦手だから気が立ってんだ。許してやってくれ」
「うっさいぞ、レティ。前に見つかったっていう場所に行く。それでいいか?」
「了解です。早く先に進みましょう」
コンスがアルルの頭を撫でながら言う。寒くてイライラしてて……。
ちょっと声を荒げたことはちょっと悪かったと思ってる。
「アルミー、口に出てるよ。ちょっとしか悪くないの?」
「バルトは余計なこと言うな」
「アルミーはいつもあんな感じだから、怖がらないであげて。頼まれたら、俺が後で仕返ししといてあげるよ」
バルトの言葉にアルルは笑った。ナイスフォローすぎんだろ、バルト。バルトのくせに。
「じゃ、お願いします。コテンパンで」
「わかったよ」
バルトは力こぶをつくる。
仕返しにきたとしても、返り討ちにしてやる!
「だから、声にでてるよ、アルミー。大人げなさすぎ」
レティが呆れたように言った。
「暖かさが持続して、持ち歩けるようなものがあればいいな」
俺は考える。そうしたら、このイライラも少しは和らぐはずだ。
「火の精霊に助けを借りたらどうかな?」
アルルはなんてことなく言う。
「俺は精霊が見えないから無理だ」
「見えなくても使うことはできるでしょ? 火を着けるみたいに。火の精霊の好きな物を瓶の中にいれて持ち歩いてみたら? 暖かいと思うよ。うちの一族はやってる人がいる。火の精霊と仲のいい人もいるから」
それは考えたことがなかった。目から鱗だ。だいぶ後の話だが、俺がその瓶を『火持かじくん』として寒い場所で売り出すこととなる。それは、がっぽり儲けた。寒がりな自分の為だったが、こんなこともあるんだな。
「ねぇ、あれ、なに?」
アルルが震えながら言った。
「マンモスが巨大化してる?! あれは、塙はにわの魔物?!」
コンスが叫んだ。塙なんてなんで知ってるんだ、というツッコミは置いておこう。ちなみに、これは作者からの余談だが、青森で片足がない塙が発掘されたそうだ。本物は売ったそうだが、駅に巨大な塙があって、電車が通ると目が赤く発光するらしい。それにそっくりの魔物だ。著作権上ヤバかったらボカシてほしいと、のたまってる作者はおいておこう。その塙っぽいものだ。二匹も出てくるとは予想外だ。
「あんな魔物みたことない!」
「アルミー、どう戦う?」
「相手のことわかんなきゃ、戦い方を決めるのは難しい、難しいが、どうにかしないといけない! 基本陣形でいこう。コンスとレティが前線。中衛がバルト、後衛はアルルと俺だ。死ぬなよ!」
『了解!』
状況は硬直していた。塙をコンスひとりで止めていたが、硬くてあの良く切れる(勇者の)剣でも切ることができない。アルルが補助しているが、倒すまでには至っていない。巨大なマンモスにはレティとバルトが二人で応戦している。だが、決定打がない。
「よし、マンモスのほうならいけるはず」
俺は荷物からあるものを取り出して、思いっきり投げた。レティとバルトは、それに気づいていて待っていただろう。爆音と共にマンモスの足が吹っ飛んだ。そう、俺様お得意の爆弾だ。マンモスは巨体だ。起き上がれなくなれば、こっちのものだ。巨体ゆえに立て直すことはできない。
「ダメだ! 三本脚で立ち続けてる! もしかして、普通のマンモスと違って足を走行不能にするほどの威力がないのかも! 決定打がないと!」
バルトが叫んでいる。かなりヤバい状況だ。
「僕が代わる! レティ!」
「アタシじゃ、あの塙を止められないよ!」
「アルルの補助があれば大丈夫! バルトもレティと一緒に!」
「コンス、ひとりでいけるか?」
「なんとかする!」
「一瞬待て!」
そう言って俺は爆弾を投げた。風で投げる位置が流れるのも計算済みだ。右前脚が吹っ飛んでいたが、右後脚をぶっ飛ばした。ふっ飛んだといっても足が焦げたぐらいだ。普通のマンモスならふっ飛んでいるはずだ。さすが巨大化マンモス! 俺渾身の爆弾も隙を作ったくらいだ。
「雪が強くて視界が悪くなってきた!」
アルルの風は、命中してこそだ。この雪山とは相性が悪い。山の強風とアルルの作り出す風が相反している。
「このくらいなんだ!」
コンスは俺の爆弾で一瞬の隙が出来たマンモスの心臓を正確に剣で貫いた。かっこいいじゃないか、コンス。男の俺でも惚れそうたぜ!
「ダメだ! 心臓は一つじゃないのかもしれない!」
コンスが悲痛な叫びを上げる。絶体絶命じゃないか。
「コンス動かないで!」
バルトがマンモスに炎の矢を射る。魔法で炎を纏わせているのだ。巨大化マンモスの目に命中した。なんで放った?!
「俺はこれを打つと動けないくらい消耗する。魔法を使うのは得意じゃないんだ。悪いね、アルミー。俺のことはもう勘定に入れないで」
ここまでさせたのは、俺の責任だ。マンモスは両目を潰されて、暴れ狂っている。
「つぶされる~!!!」
アルルが逃げ惑っている。ある意味、囮になっている。
「あっ! 思い出した!」
アルルが素っ頓狂な声を出した。俺は怒鳴る。
「何を?!」
「この二体の弱点だよ!」
「それ、早く言えよー!」
「今思い出したんだよ!」
絶体絶命なのは変わりないけれど、希望がみえたかもしれない。次の話で、ぽっくりいくバッドエンドじゃないことだけを祈ってるぜ、俺は。




