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方向音痴の勇者と音痴の吟遊詩人がへっぽこパーティを組みました  作者: アルル 名前なんてただの記号
森の泉の女神編
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その思いだけでは

 その子はとっても健気な子だった。癒しの力を持つ石を胸に嵌め込まれ、たぶん、石と体質が合わないせいで痩せ細って、今にも死にそうだった。


 そこには、マールと少女が一人いた。二人とも十歳ぐらいだろうか。

 教会だった。マールの育った場所。ステンドグラスが太陽を透して二人をキラキラ照らしていた。


 司教がミサをしている中、痩せ細った少女は、いつも言っていた。


「マールぅ。あたしぃ、立派な僧侶になるんだぁ」


 言っている本人も、マールもたぶん、そんな未来が来ないことを薄々気づいていた。


 舌ったらずな口調で、甘えん坊な子だった。どこか憎めなくて、かわいい。マールと同年代で唯一、ここまで、生き残った子だった。生き残る子はどんどん減っていく。


「みぃんなぁいなくなっちゃう。なんでなんだろうねぇ」


「アリシア……」


 その子の名前はアリシアといった。ピンク色の髪のかわいい女の子だった。生命力を石に奪われているのか、痩せ細っているだけでなく小柄だった。


 マールはいつも考えていた。この子に石が嵌め込まれなければ、きっと、ちゃんと健康に生きていただろう。大きくなって子供を産んで子供や孫に囲まれて幸せに死んだだろう、と。


 癒しの力を持つ石を嵌め込まれる子供は、貧乏すぎて売られた子供や、見込みのありそうな血筋から攫われてくる。盗賊から買うというのもある。非合法な方法によってしか育成が出来ないのだ。何故なら、成長してから石を嵌め込むと、100%死ぬからだ。一瞬にして全身の生命力を奪われる。赤ん坊のうちに石を嵌め込んでおくしかないのだ。だが、死ぬ確率が高いのに、子供に石を嵌め込む親がいるだろうか。しかも、庇護が必要な赤ん坊に。

 

「マールぅ、あたしぃ生きてたかったよぉ。でもわかるんだぁ。この石に命を奪われていってること。たぶん、もうだめだよぉ」


 泣きながらアリシアは言った。十五歳になっていた。ベッドから起き上がることができないのだ。もう、ほとんど骨と皮の手を握りながらマールは滝のように涙を流していた。


「アリシア、私は、この僧侶という制度を許せない。必ずどうにかしてみせる!」


「じゃぁ、あたしはぁ、先にいって待ってるよぉ」


 アリシアは目を閉じた。その瞳が二度と開くことはなかった。


 思い出は靄になって消えた。


『マール。私も考えたわ。赤ん坊だけではなく、大人も適合できること、適応範囲を広げること。不適合でも命を奪われないこと。これをするために、宝石を改良しましょう!』


「でき〜ます〜か〜?」


『できるようにしなければ、たくさんの命がその石によって奪われるでしょう。しなければなりません』


「私も〜できる〜限り〜お手伝い〜し〜ま〜す〜」


『やることがあるのは、とてもいいことですね。私は、ただ、存在していただけでした』


 水の精霊だから、当たり前だと思うけど。マールは、うーん、と唸って、その後言った。


「旅が〜終わっ〜たら〜、教会〜に〜戻〜り〜、宝石を〜変えて〜いく〜努力を〜し〜ましょ〜う!」


 マールは後に、奇跡の聖女と呼ばれるようになる。僧侶という職業が、適応すれば、いつ、誰でもなれる職業になるのは、もう少し経ってからだ。

森の泉編は、だいたい、これで終わりですが、もう一話、間話的なものを予定してから次章に入りたいと思います。悲劇と喜劇は表裏一体ですからねぇ!次の章はギャグで埋め尽くしたい…。

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