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方向音痴の勇者と音痴の吟遊詩人がへっぽこパーティを組みました  作者: アルル 名前なんてただの記号
森の泉の女神編
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あなただけの罪じゃない

『マール、言っておかなければならないことがあるの』


 ティトリーがマールの胸の宝石の中で話しかけてきている。寝ている時だ。


『あなただけの罪じゃないの。私の罪をマール、あなただけ話すわ。皆の前ではとても言えないわ。寝てる時にごめんなさい』


 ティトリーの目には涙が溜まっていた。


「どう〜いう〜こと〜です〜か〜?」


『この宝石の話よ』


「宝石〜?」


『命をためられる石がそう簡単に作れると思う?』


『そして、私がこの中にいれるということは、私の力がこの石の源なんだわ。入れたことによって確信したわ』


『この石は、私の泉から取られていた石のようね。意図していなかったけど、最初の僧侶を作ったのは私なんだわ』


 ティトリーの声は震えていた。


『僧侶の罪は私の罪でもあったんだわ。マール、あなたの生い立ち、あなたの幼馴染のこと、この宝石に記憶してあることを見てしまった。無断でごめんなさい』


 それは、ティトリーの懺悔だった。


 初代の勇者の活躍する時代。今から何百年前もの話。森の泉の近くで襲われていた少年と少女がいた。


 少女は、魔物に襲われて負傷しており、虫の息だった。


 少年はなす術もなく、自分も死を覚悟した。


 そこで、ティトリーは、水の魔法で魔物を蹴散らしたが、少女を治癒する方法を持たなかった。いちかばちかと思い、近くにあった石に力を注ぎ込んだ。


 少年の胸にその宝石を埋め込んだ。少年は聖なる力を手に入れて、少女の傷を癒した。


 それが、僧侶の始まりだった。その少年は、初代勇者と共に魔王を倒した僧侶だった。


 少女の傷を癒したその石は、ティトリーの力を失ったが、生命力をためる器になった。


 幸か不幸か、この泉の近くにある石は、ティトリーの力を帯びて、生命力をためる器となった。僧侶という職業が広まったのは、この石がたくさんあったからだ。泉の精霊はティトリーだけではない。水の精霊の力を帯びている泉の石ならば、生命力をためることができた。


「アルルが〜聞い〜たら、喜び勇ん〜で前のめり〜で話を〜聞く〜でしょう〜ね〜」


 マールはさほど気にした様子もなくティトリーの話を聞いていた。


「ティトリー様が〜悪いわけ〜では〜ありません〜。悪いのは〜自分達に〜都合よく〜その石〜を利用し〜た人間です〜」


 そう、私の一番の友達が死んでしまったのも、ティトリー様のせいじゃない、と付け足した。


『でも、マール。僧侶の罪は、私の罪でもあるの。あなただけの罪じゃない。だから、あなた一人で抱え込むようなことはしないで。約束して。その命で罪を(あら)がったりしないと』


「わ~か~って~い~ま~すわ~、ティトリー様~」


 マールは優しそうに笑っていた。だが、ティトリーは不安だった。マールがその罪を抱えて、一人で暴走してしまうのではないかと。

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