僕?俺? ちょっとだけ間話
簡単に言うなら、ゲイルはハイパーミラクルスーパー強くなっていた。
「ゲイル、どうしちゃったの?」
「火竜の加護のせいなのか?」
「同一人物とは思えないのである!」
アルル、コンス、ヘルンが口々に言っていた。
「ゲイルに任せとけばいいな」
コンスはため息をついた。
「コンスはこのままでいいの? 強さを求めず、現状維持で」
アルルの瞳は金色に輝いていた。
「アルル! その瞳をやめてくれ!」
珍しくコンスは声を荒立てた。
「どうして?」
「不吉な予感がするんだ。勘とでもいうのか」
勇者としての部分が警報を鳴らすのだ。
「これは、ボクの性なんだ。やめることはできないよ」
不穏な空気を感じ取ったマールが二人に声をかける。
「早く~いき~ましょ~う~?」
「僕は、どうなりたいんだ……」
コンスは落ち込んでいた。アルルは問うてくる。吟遊詩人という職業柄の好奇心で。このままでいいのか、と。ゲイルは強くなった。元々から持っている資質もあり、今回の火竜討伐の功績でもある。コンスはどうだろう? 勇者の剣を手にして、強くなっただろうか? 目覚めさせた邪悪な勇者の剣に振り回され、あまり使いこなせているとは言えない状況だ。
「次の街は結構大き目だし、少し気分転換したらどうだ?」
ゲイルはコンスと一番付き合いが長い。悩んでいる様を見て助言したようだ。
「あ~ら~私~一度~やって~みた~いこ~とが~あった~の~」
マールの瞳がいたずらっ子のようになっていた。
「へ? アルル?」
そこにいたのは、女性だった。そう、忘れている人も多いと思うが、アルルはいつもは男装しているのだ。女性の一人旅の安全のためにだ。パーティになっても、それを変えることはなかった。
街に着き、コンスはマールから噴水の前で待つように言われていた。
「似合う…かな?」
照れたように言うアルルは格好に引きずられているようで、スカートを両手の指で少し引き上げる女性のような仕草をしていた。化粧もしているようだ。美少女といって遜色のない美しい姿だった。
「いっいつもと違って緊張する」
コンスの声が裏返っていた。いつもの弟のようなアルルと違うと、別人といるようだ。
「似合うって言ってよ」
「にっにあうよ!」
アルルはコンスを不思議そうな顔で見ていた。
「なんでそんなに緊張してるの?」
コンスは顔を赤らめたまま、何も言わなかった。
二人は買い物をしたり、ご飯を食べたりした。それは、普段の二人からしたら普通のことだ。アルルの格好がこの格好でなければ。
アルルが履き慣れない靴に足が痛いと言って、街のはずれの原っぱで二人で並んで座って休んでいた。
この機会に、アルルはコンスに改めて聞きたいことを訪ねた。
「コンスは強くなりたいの?」
いつもとは違う女装……いや本来の姿にコンスは戸惑う。綺麗に化粧され、おめかししたアルルが美少女だからだ。
「皆を守れるくらい強くなりたい。でも、それはどれくらいなんだろう?」
コンスのそれは、迷いだ。迷えば剣筋は乱れ、切れ味が鈍る。一瞬の迷いは、敵を倒せないことに繋がる。それにより守れるものも守れなくなるだろう。
「どのくらいかはわかんないけど、そんな風に迷ってたら、強くはないよね」
綺麗な女の子の純粋な視線がコンスに突き刺さる。正しくて、強くて、迷いのない瞳だった。
コンスは胸を押さえた。
急激に思ったのだ。
この女の子を、アルルを守りたいと。
アルルの期待に応えたいと。
純粋に湧き上がってくる想いだった。
「コンスどうしたの? 胸が痛いの?」
「僕……」
「ボク?」
コンスの胸に愛しさと切なさが込み上げてくる。それが、恋なのか、愛なのかわからない。
『ガルルルッ』
突然狼型の魔物が飛びかかってきた。
「はぁ!」
コンスは迷いなく魔物を叩き切った。
「僕は……俺はもう、迷わない。アルルを守るために」
決意に満ちた強い言葉だった。
アルルはいつも着ないスカートに引っかかって転んでいた。
「えへへ、恥ずかしい。ありがとう、コンス」
照れたアルルはいつもの姿が信じられないほど可愛く微笑んでいた。格好によって、人は変わることもある。外見に引きずられることもある。
コンスの心は熱くなる。
「俺はアルルを守よ。君を苦しめる全部から」
「ボクは守られるほど、弱くないよ」
アルルは不思議そうな顔をしていた。
「今はね。これからは、わからないだろう? 今みたいに」
コンスに前のような迷いはなかった。決意と自信に満ちた顔は格好良かった。
「そうだね」
アルルは、はにかむ。二人はまるで恋人同士のようにお似合いだった。いつもの兄弟のうな雰囲気はない。
アルルは変わらない。
コンスはここから、少しだけ変わる。僕という一人称から俺という一人称に変わったこと。アルルを守りたいと強く思ったことで、彼の心は変わる、と思いたい。




