初源の生命体パグ
『ようこそ。この世界の勇者たち☆』
水色の髪を二つ結びにした赤い目の少女だった。半透明の身体を浮かせていた。幽体のようだ。そこは、鎮魂の塔だったので墓のような墓標がある。その上に座っていた。一際大きな墓標は初源の生命体の墓標のようだ。
『君らのような人間がぼくの楽園にくることは興味深いね☆特にそこの魔法使いとか』
ふわりと一回転してヘルンの前に立った。
「近いのである!」
『そんなに怯えることはないではないじゃないか☆ぼくは長く生きているけど、君らと同じ場所で生きているんだよ?』
「ボクと若干キャラかぶってない? ヘルンに喧嘩売ってるし」
アルルは真剣に気分を害している。
「いや、今そこは問題じゃないから」
コンスがアルルをたしなめていた。
『この世界の勇者は話がわかるね☆』
初源の生命体はコンスの肩に乗る。幽体なので、実際に乗っていないし、重さもないが、アルルの逆鱗に触れたようだ。
「なんなのこの幽霊! 悪霊?! 亡霊め!」
「こら、アルル! そんな言い方するな」
「もう、コンスとは口きかない!」
「アルル?! 何したの?!」
「そこの亡霊といちゃついてればいいよ!」
『失礼だよ☆ぼくはパグっていうちゃんとした名前があるんだよ☆』
「かわ~い~く~言っ~ても~貴方~の~本性~は~見え~て~る~わ~」
マールがゆったり言う。敵を見るような目だ。
「貴方~の~本性~は~赤黒~い~力~を持っ~た精神体~だ~わ~。か~な~り~邪悪~」
『そういう君はまるで純白だね。一切の穢れを知らない綺麗な人、ってとこかな☆ちょっと滅ぼされそうでこわいね☆』
霊体なので汗はかけないが、汗をかいているような動作をパグはしている。マールは僧侶なので、こういうことに強いようだ。
「滅~ぼ~し~て~ほ~し~い~の~か~し~ら~?」
『滅相もないよ☆』
「この邪悪な生命体の存在がなくなったら、この都市は壊滅するのではないのであるか?」
『まあ、すぐに滅びるってことはないけど、ゆるやかに消滅するかもね☆』
ヘルンの魔法使いとしての勘が、この都市の中心がこの生命体だといっているようだ。
「この都市にとって害がないなら、滅ぼすのはやめたほうがいいのである。安定しているのに、わざわざそれを不安定にするのは、理に反しているのである」
「理ね~ぇ~……こ~の~パグ~と~い~う~存在~が理~に~反して~いる気~が~す~る~け~ど~」
『そりゃもう何百年も前から反してるんだから、今どうこうしたらその分の余波が来ると思わない? だから、滅ぼさせないでね☆もうだいぶ弱ってるんだよ。存在の力もほとんどないこんな可愛い女の子を消滅させるの? 放っておいたってどうせ消えるのに☆』
泣きマネのようにかわいこぶりっ子していた。
「こいつは、消えない。しぶとく生き残り続けるだろう。これまでもそうだったし、これからもそうだ」
ゲイルだった。
「もう、メンテナンスはいいの?」
コンスが自然に聞く。いつものやりとりだ。
「ああ、問題ない。早く行こう」
『ちょっとーぼくに感謝の言葉は?』
「お前にかけるような感謝の言葉はない」
『ひどーい☆あんなことやこんなことしてあげたのに☆』
マールのゲイルに対しての視線が怖かった。まるで汚物を見るような顔だった。ゲイルは、内心はそんなマールの反応に焦っていたかもしれないが、その表情は機械のように変わることはなかった。
「お前が俺を機械の身体にしたことなら、頼んでない。あのままにしていれば良かったんだ」
『ま、余計なことしたのは認めるよ。でもさ、君が構築したセキュリティの維持をしてもらわないといけいないからね☆絶対に必要なことだったのさ、ぼくにとってはね』
そうして、ふふふと微笑むパグの真意を読み取ることはできない。
「何百年も生きている化け物に勝てるわけないか。ましてやゲイルの関係者だしね」
アルルが溜息をついた。
「たぶん、勇者であるコンスや魔法使いであるヘルンには倒す必要のない邪悪さで、というか、倒せない邪悪さで、ボクやマールには滅ぼすべき邪悪に見えるんだよね。実際、滅ぼせそうだし」
『滅ぼさないでよ☆』
ほっぺに人差し指を当てて可愛く言うパグは邪悪な何百年も生きる悪霊には見えない。
「どうしてもイラっとするんだよね。マール法術使ってさくっと滅ぼしちゃう?」
「そ~れが~い~い~か~し~ら~?」
「そんな奴に構うな。もうここに用はないから行くぞ」
『ゲイルってば、ツレナイな☆』
「実際、俺にとっては害悪以外の何物でもない」
『機械の身体にならなかったら、天才科学者って感じだったのにね☆残念☆』
「うざい。なんでこんなに気に障るんだろう。存在がうざい」
「本当~よ~。困っ~た~わ~ね~」
アルルはパグに会ってからずっと不機嫌だ。マールも困ったようには見えないように言っているが、内心はすごく嫌悪感と戦っているようだ。
「では、お暇させていただきます。初源の生命体」
コンスが改まって言った。この二人の不機嫌がマックスになる前に立ち去りたかったのだろう。
『また来てね☆』
「もう、来たくない」
「ね~」
アルルの顔は真剣そのものだった。本当に心底嫌そうだ。いつものアルルの態度ではない。同意したマールもいつもの優し気で思いやりのある態度とは違っていた。
「邪悪で害悪な存在なんだ。昔から。あいつは」
表情がほとんどないはずのゲイルが憎々し気な表情をしていた。声にも怒気が入っているようだ。相当の遺恨があるようだ。
「ゲ~イ~ル~。憎し~み~は~憎し~み~し~か~生ま~な~いわ~。あま~り~怒~らな~い~で~」
邪悪な気配がする塔から出ていたため、マールはいつも通りになったようだ。ゲイルはそれに頷いただけだった。
こうして5人は東の隠れ都市に別れを告げた。




