ゲイルの故郷
そこは、何の変哲もない場所だった。
「ここにこれをかざしてくれ」
ゲイルが肩を借りているコンスに首から下げていたペンダントの飾りを渡した。コンスはそれを木のくぼみにかざした。
何もないところから突然扉が出現した。
「これは、噂に聞く東の隠れ都市! ものすごい科学が発達してるけど、その存在は隠されているって! ボクが初めてきた吟遊詩人だ!」
アルルの興奮は絶頂だ。
「発達はしている。しすぎている。だからこそ、未来が停滞している」
「ゲ~イ~ル~?」
「とにかく、ここは、絶対に秘密にしてほしい。門外不出だ。発展した後は滅びしかないからな」
「なんか、初っぱなから不穏なことゲイルが言い出してるんだけど~」
「なん~なの~か~し~ら~ね。感情~的~な~の~は~ゲイ~ル~らし~く~は~な~い~わ~ね~」
「人目につかないうちに早く入るぞ!」
こうしてゲイルと仲間の4人は東の隠れ都市に入った。
隠れ里に4人も入るのは異例の出来事だった。そこはまるで、未来の光景だった。電気で自動走行する車。ロボットが買い物を代行し、人の歩いている姿は見えない。継ぎ目がわからないほどの近代的な作りの建物が並んでいた。お掃除ロボットがそこらじゅうを歩きゴミひとつ落ちていない。
「え、すごすぎて何の言葉も出てこないよ。ここは本当にボクらが住む世界なの?」
所在なさ気に歩くアルル。
「まるで、別の世界だ。ゲイルはここの出身なのか」
コンスがゲイルをみるが、ゲイルは無反応だ。
「……」
彼は、無言で、ある建物に入っていった。厳重に施錠されていたようだが、ゲイルの持っているペンダントで簡単に開錠できていた。
しばらく進むと研究室のような機材に囲まれた部屋があった。迷いなくゲイルはそこに入る。
「よお、ゲイル。久しぶり」
明るい茶髪の青年がいた。軽い感じのしゃべり方だ。
「アルワナ、メンテナンスを頼む。自分でできるところはやる」
「お安い御用だよ。誰でもない、ゲイルの頼みだからね」
「悪いな。しばらく時間がかかるから、4人は他の部屋で待っていてくれ。退屈しないように、ロボットがいる」
「先進技術っていうのかな? なんでここだけこんなに発達してるんだろう?!」
アルルの疑問は止まらない。
「それは、あっちの部屋のロボットに聞いてくれ」
「これだけ! ね! 二人はどういう関係?!」
「おれとゲイルは幼馴染だよ。この都市で産まれて育ったんだ。おれはゲイルみたいに才能を発揮することはできなかったけど」
「ゲイルが才能を発揮?」
「もういいだろう。早くメンテに入りたい」
「ケチ~」
「アルル、行くぞ」
「知りたいだけなのに」
「アルルの知的好奇心は時に行き過ぎだよ」
「吟遊詩人の性だよ!」
「全部の吟遊詩人がそんなんじゃないと信じたいよ」
コンスは溜息をついた。
「あ、あそこがゲイルの言ってた部屋かな?」
アルルとコンスは明るく振舞っているが、ヘルンの落ち込みようは酷く、全くしゃべらなかった。そんなヘルンを気遣い、マールも大人しい。
『ハジメマシテ。ワタクシがおしゃべりロボットのレイアと申シマス。なんなりとお申し付けクダサイ』
出迎えてくれたのは、綺麗な女性だった。そう、ロボットなどには全く見えなかった。
「ここの技術どうなってんの?! どこの世界にトリップしてきたの?!」
アルルの叫びは響いてコンスに人様の家でうるさいと言われて終わった。




