残された者の戦い
「領主よ、クレアが子供を産むために死んだ」
領主の屋敷でカリュは口を開いた。
「……どういうことだ。私をたばかろうとでも言うのか」
「貴様の孫だ。そして、私の娘だ」
手に大事そうに抱いている赤ん坊を見せた。
「お前の正体は知っている。火竜ではないか。お前を殺せば、力が解放され、この辺り一帯が火山の噴火によって滅ぶ、と調べはついている」
領主の瞳は怒りに燃えていた。
「火竜が義理の息子などと笑えない。クレアはどこだ?」
「クレアさんは、死にました。子供を生むために」
コンスが平常心を保ちながら言った。目には涙が浮かんでいた。
「君は、勇者?! 話は本当か?」
領主はさすがに狼狽していた。コンスが勇者と名乗ることはない。領主はコンスが勇者であると裏で調べていたに違いない。
「本当だよ。あなたはどうするの? 娘を奪った火竜倒し、火山を噴火させてこの辺り一帯を火の海にする? 孫から父親を奪う?」
アルルが責めるように言った。
「なぜ、こんなことに」
「一度でもクレアの話を聞いてあげたことあるの? あなたが招いたことでしょ?!」
「アルル、言い過ぎだ」
コンスが止めるがアルルは止まらない。涙を流していた。
「だって! クレアはあんなにカリュのこと好きで、わかってもらおうとしてたのに!」
アルルを止めたのは、カリュの冷静な声だった。
「火竜と人間では生態が違う。なるべく人間として育ててやりたい、この子は」
「愛した妻も死に、娘も死んだ。なぜこんな目にあう」
領主は頭を抱えていた。
「自業自得であろう。お主、何をしてきた。言い訳のしようもないではないか」
全てを見てきた火竜の声は重い。街を維持するためにしてきた悪事を擁護するすもりもないようだ。だが、彼には孫がいる。自分と血のつながった。
「孫がいるであろう? 抱いてみてはくれんか。お主も育てるのじゃ。クレアとは違い、な」
「私はクレアにも愛情をかけていたつもりだが?」
「ちゃんとかけていたら、クレアはわしと番になることはなかったであろうな」
「何を言う!」
「普通にお主の言うとりに普通の結婚をしておったであろうな。お主がクレアにちゃんと愛情をかけていればな。こうしてわしの子を産み死ぬこともなかった!」
カリュの恫喝だった。空気がビリビリと震えた。
「お主には、ちゃんとこの子を見てほしい」
彼は冷静な声に戻り、静かに言った。
「あうー」
カリュは、領主に赤ん坊を渡した。
彼女は領主の娘にも妻にもよく似ていた。
領主の目には涙が浮かんでいた。
こうして、領主と火竜とその娘は、三人で生きていくことになった。
残されたカリュの戦いはこれからだ。子育てと、領主との関係。問題はたくさんある。
「その機械仕掛けのゲイルといったか。言って許されるとは思っておらんが、すまんかったな」
五人は火竜の街を後にする。見送りはカリュ一人だ。
「いい。そろそろメンテナンスが必要だった」
カリュに別れを告げるとゲイルは通信機を取り出した。カリュとはあっさりとした別れだった。また、生まれたばかりの娘が大きくなったら会いに来る約束をしていた。
「おい、聞こえるか」
『…ガッ……ガガッ……やっと連絡してきたかと思ったら、相変わらずだな』
明るい男性の声が聞こえた。
「今から行きたい。準備をしておいてくれ」
『そろそろだと思ってたよ! 誰か一緒にくるのかい?』
「仲間と行く」
『仲間! そうか。ゲイルにもできたのか』
ゲイルはブチッと通信機を切った。
「俺の故郷に行く。じゃないと俺は死ぬことになるだろう」
おっと、深刻なギャグ不足に陥っております……。




