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方向音痴の勇者と音痴の吟遊詩人がへっぽこパーティを組みました  作者: アルル 名前なんてただの記号
炎の竜編
27/72

領主とクレアの母の恋

「わしも吟遊詩人から聞いただけじゃが」


 アルルがげんなりした感じで話そうとしたカリュを止めた。カリュは、話すのはやぶさかでなくとも、内容には興味がなかったので、結果、嫌そうになってしまっていた。


「ああ、それならボクが話すよ。その話はどえらいドラマチックに語られてるからね。はじめにいっとくけど、これ、ボクのアレンジじゃないからね。この演出やるの面倒くさいから嫌なんだけど、人気あるんだよねぇ」


 アルルの瞳が金色に輝き出す。確かにそこは森の中の道だった。だが、情景が変わる。目に見える形で話が始まったのだ。微かに歌声が聞こえる。この光景は幻覚なのか。心に直接響いてくるような情景だった。


『あんた何してんの?』


 そこにいたのは、スラム街で馬が怪我をして立ち往生していた青年だった。少し目つきが悪い。


『君は誰だ?』


『お偉い貴族っぽくみえるけど、礼儀なってなくなーい? 名乗るなら自分からっしょ』


 ボロボロの服を着ていて、どこもかしこも汚れているが、美しい少女だった。


『私の名はボルグ』


『ふうん? あーしはミシャ。物心ついた頃からここにいんの』


『こんな不衛生な場所に?』


『不衛生って失礼じゃね? ボルグって次の領主の名前じゃね? あんたの父親がここを生み出したんだろ。お前にだって責任あるくね?』


『それは、知らなかった』


『知らなかったって言って自分の罪が消える訳ないっしょ!』


『君は頭がいいな』


『なんか嫌味~。あんたは? どうしたいの?』


 試すような瞳だった。


『君のような子供が生まれない街にしたいな』


 それは、ミシャが満足いく答えだった。




 場面が変わる。前領主と現領主だった。


『父上は、この街がこのままでいいと思うのですか?』


『いいも悪いも王都からかけられる関税は重すぎる。拒否すれば、この街は潰される。どうしろというのだ!』


『正攻法では、この街は貧困したままだ』


 領主は考えた。彼には妹がいた。


『王都へ嫁に行ってほしい。王の寵愛を。この街を優遇してもらえるように』


 彼女は何も言わずに、嫁に行った。元々、嫁に行くことは覚悟していたようで、王ということで、喜んでいた。かなり苛烈な性格だったからか、向上心があったからか、よほど肌に合ったのだろう。正妃の座に収まり、次期国王を産んだ。その生活に満足していたようだ。時々、文のやりとりをしていた。


『自分の街以外の物質ルートを潰す』


 盗賊を雇ったり、海賊を雇ったりして、この街を通る以外の道を危険にし、使えなくした。


 妹のおかげで税の負担も減り、貿易の要にもなり、街は栄えた。


『ダーリン』


 美しい笑顔があった。反対を押し切って、領主とスラム街の少女は結婚した。そうして、可愛い娘が一人産まれた。


めでたしめでたし。




「めっちゃ疲れたーーー」


 アルルがダウンしていた。話自体はたいしたことがないのだが、幻影スキルを使うため、吟遊詩人に多大なる負担をもたらす話だ。


「吟遊詩人~っ~て~す~ご~い~の~ね~! お~疲~れ~様~!」


「本当にすごい。お疲れ」


「何の魔法なのであるか?!」


「ボクに魔法は使えないよ。吟遊詩人はこれが使えないと吟遊詩人とは呼ばないんだけど、ボクは疲れるから好きじゃないんだよね~」


「魔法じゃないのに、幻覚がみせられるのであるか?! 幻影は水魔法なのである! でも、アルルは風使いだから関係してないはず。とにかくすごいのである!」


 ヘルンが珍しく興奮していた。それだけ夢みたいな情景だったのだ。アルルは水の精霊の力は借りれない。風の精霊の力だけでやっているので、ぼんやりとしか見えないのだ。だが、本来、物語を語るのに使うようなものではない。


「アルル、それは、本当に使っていい能力なのか?」


 コンスの顔はずっと不安そうだった。


「なんで? 吟遊詩人なんだから当たり前じゃん」


 アルルの顔色は悪かった。よろけたアルルをコンスが抱きとめた。


「すいません、カリュさん。どこか休む場所はありますか?」


「わしの屋敷が近いな。前に会った時も思ったが、まったく、吟遊詩人というのはわからないな」


 吟遊詩人には大きな秘密がある。それは、アルルの生命を脅かすほどの。だが、吟遊詩人の本能で、本人が止めることはできないのだ。













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