勇者の剣と鍛冶師
「ただいま」
速足で寄ってきてファルクを抱きしめる男性がいた。
「今、客が来てるんだ。挨拶してくれ」
慣れた動作でその男性を引き剥がし、ファルクは言った。
「はじめまして」
そこには、金髪碧眼の優美な男性が、立っていた。
「エルフィンと申します」
「お噂の旦那様だね! ボクは吟遊詩人のアルルだよ!」
「僕は剣士のコンスです。あちらから拳闘士のゲイル、僧侶のマール、魔法剣士のヘルンです」
アルルが元気いっぱいに挨拶し、コンスは丁寧に挨拶していた。
「ファルク、客ってどういうことだい。どこにも宣伝なんてしていないのに、なんでここがわかったのかな」
「エルフィン、めぐりあわせだ。逃れられない、な。勇者の剣を打ちなおす」
「勇者の剣?! それは、行方不明になっている剣のこと?」
「本物かはわからない。だが、この剣を打ちなおすと約束した。報酬はもらっている」
「誰の剣?」
「僕のです」
コンスがおずおずと手を挙げた。
「君の出自は?」
「辺境の村出身です」
「どうやって剣を手に入れたの?」
「父の形見です」
「そうか、形見か……その剣について何か聞いているかい?」
「父の家に代々伝わってるということしか。錆び付いている古い剣ですから」
「私にも、その剣をみせてほしい」
「ほら。何をそんなに気にしてるんだ?」
ファルクが預かっていた剣をエルフィンに渡した。
「もし、勇者の剣が本物なら、私は見過ごすことはできなくなってしまうかもしれない」
「お前が王都の騎士だからか?」
「それもあるし、個人的な話でもある」
「個人的な話?」
「勇者の剣が本物であれば、話をするよ。ファルクは何も心配することはないよ」
エルフィンがファルクを抱きしめる。
「心配はしてないけど、本物だったら、俺じゃ役者不足だな。エクルは?」
「エルクは一緒に帰ってきてたけど、私が一秒でも早くファルクに会いたいから馬を繋いでくれているよ」
「ファルフィンは王都に残ったか?」
「双子のお兄ちゃんは、騎士見習いの研修中だから、当分帰ってこれないよ」
「だよな。エクルがいれば大丈夫だ」
「何? 呼んだ?」
ファルクとエルフィンを二で足して割ったような顔をしていた。
「鍛冶屋としてお前も研修だ。その天才の名に恥じぬ働きをしてもらうぞ」
ファルクは、エルクに言う。
「え~、オレは天才じゃないよ~」
エルクは、バカと天才は紙一重という言葉を体現しているようだ。
「勇者の剣を打ちなおしてもらう」
「え? それって行方不明の? なんであるの?」
「まだ真偽はわからないが、お前が打て。本物ならば俺が打つよりいいはずだ」
「それって、父さんの血筋の関係で?」
「そうだな。昔、勇者だった者は初代王になったという言い伝えだからな」
ファルクとエルクの話にエルフィンが入ってきた。
「私では遠縁すぎないかい? 先代の王の弟からの分家なんだよ?」
エルフィンが困ったように言うと、ファルクが何でもないという顔をした。
「親和性の問題だ。勇者の血は神の血と言われている。それに反応するかもしれない。憶測だけどな」
「まるで勇者の剣は神の剣だね」
エルフィンが肩をすくめた。
「めぐりあわせだ。エルク、お前がいたから、ここに辿りついたのかもしれないな」
ファルクがエルクの肩を叩く。結構な勢いだ。
「げふっ……母さんが言うことはよくわかんないけどさ、この錆び錆びの剣を打ちなおすのはいい経験になりそ」
肩を叩く勢いにむせたエルクだったが、前向きに捉えたようだ。
その日の夜遅くまでカーンカーンという鉄を打つ音が響き続けていた。
つまり、ファルク(鍛冶師の妻)♡エルフィン(王国の騎士の夫)→エルク・ファルフィン(双子の子供)で父のエルフィンは王家の遠縁。エルクはその血を引いた天才鍛冶師。
運命めいたものを感じるけれど、ファルクは運命とか気にしなそうで、エルフィンは、例え運命だとしても、ファルクと出会えてよかったって惚気そう。




