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方向音痴の勇者と音痴の吟遊詩人がへっぽこパーティを組みました  作者: アルル 名前なんてただの記号
勇者の剣編
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音痴のアルル、鍛冶屋の恋

「鋼鉄の魔物の殻、助かった。余った分は報酬としてもらう」


 ファルクは笑顔で受け取った。


「勇者の剣を打つのは少しだけ待ってほしい」


「行く前に言ってた息子さんが戻ってくるまで?」


 アルルは意味あり気にファルクを見ていた。


「そうだ。……見つめすぎじゃないか? どうしたんだ?」


「ファルクの過去の話を聞かせて! ボクは吟遊詩人だから、集めることもしてるんだよ」


「集める?」


「そう。詩うには、過去の伝承が必要でしょ?」


「まず、歌ってくれないか?」


 俺に話すような内容があっただろうか。考えておく、とファルクは付け足した。


「吟遊詩人として初公演だね!」


「アルル、歌うの?」


 コンスたちが集まってきた。


「歌うよ! 王都の成り立ちの話から」


 ヘルンを除くパーティーとファルク、彼女の父親が集まっていた。


 アルルは口を開き息を大きく吸い込んだ。


「ほげ~~♪」


 期待していた全ての人が耳を押さえる。あまりの音痴な騒音ぶりに。まるでジャ●アンのリサイタルだ。全く内容が入ってこない。


「うるさい! ヘタクソ!」


 マジ激怒したヘルンが寝ていた部屋から飛び込んできた。中二病のようなしゃべり方さえ忘れている。


「この音痴ぶりで吟遊詩人なんて務まるの?」


 コンスが最もなことを言った。


「ボクは専ら、伝承を集めるの専用なんだ。この音痴だから、詩うなって言われてたんだけど」


『何で歌ったんだよ』


 いろんな人のツッコミが入った。


「だって~! ボクだって歌いたい!」


 アルルがただをこねた。確かにアルルはものすごく音痴だ。手のつけようがないくらい。ただ、一つだけ歌える奇跡のような詩がある。あるにはあるのだが、今、詩うようなものではない。


「わかった。俺が話をしよう。伝承といえるかわからないが、アルルに歌い続けられるよりマシだろう」


「よ! ファルク! 待ってました!」


 アルルの瞳が金色に輝いていく。




「どうかあなたと恋に落ちさせてください」


 こうやって毎回、求愛してくるのは、この国の騎士をしている金髪青目の美しい男だった。


「私は、貴女と結婚したい」


「身分違いで無理だろう。俺は刀を打つしか能がない。お前の妻にはなれない」


「では、私のこの気持ちはどうしらいいのですか」


「知るか。無理難題を押し付けてきてるのは、お前だ」


「騎士の妻になる必要はありません。貴女と愛し合いたいだけなのです」


「それって愛人ってことか?!」


「恋人です! そもそも私は未婚ですよ!」


「だとしても、いつか妻が必要だろう? そこまでの関係ってことか?」


「違います! 貴女が恋人になってくれるなら、私は妻などいりません!」


「そんな口だけのこと信用できないな。現にうちの母親はおとうちゃんのことを捨てて他の男と出て行った。しかも、俺は生命の泉の近くに引っ越すことになった。この国にいなくなれば、忘れる程度の女だろう?」


「そんな!」


「お前は騎士としてこの国を捨てられない。生命の泉はどこの国にも属していない。王都からも遠い。行き来できない距離という訳じゃないが、お前にそこまでする理由がない」


「では、私が騎士としての職務を全うしながら、貴女のところに通えば、信じてもらえますか?」


「ああ、もちろん。二言はない」


 もちろん、本当にそうなれば、ファルクに断る理由はない。この美しい幼なじみの男に心惹かれない訳がないのだから。


 初めての出会いはとても小さい時だった。騎士である父に連れられたら子供が工房に訪れることは不思議ではない。騎士は剣の手入れを鍛冶屋に頼む。


 ファルクと騎士の彼は、まるで子犬二匹が転がるように遊んだ。この時、騎士の彼はファルクのことを男の子だと思っていた。成長するに従って、だんだんおかしいと気づいて、ファルクを女扱いするようになっていた。こそばゆかったが、幼なじみ故の気安さがあった。騎士の彼に剣を打ったりした。剣で彼を護れるのは、とても誇らしい気がした。


「これで信じてくれましたか?」


 幼なじみの男は、休みのたびに馬を走らせファルクのところにきてくれた。


「信じないわけにはいかない」


 ファルクは男の愛の深さに驚かされた。

 元々、騎士という職業柄もあるだろうが、彼が言葉を違えることなどなかった。身分違いなど、感じさせられなかった。ファルクが生命の泉に王都から離れて暮らしていたからかもしれないが。


 翌年、ファルクは男の子の双子を出産した。


「うちの息子はひとりは騎士見習い、ひとりは鍛冶屋見習いだ。今、父親と王都に行っている。ちょうどいいから、うちの息子に勇者の剣とやらを打ち直しさせてほしい。経験させたい。もちろん、私が最終的に打とう。知名度がほしいからね、生命の泉では、勇者の剣をも打てるっていうね」


「商売上手!」


 その話を聞いている間、ずっとアルルの瞳は金色に光っていた。


「そうでもしないと、ここで鍛冶屋として生き残れないからね」


 ファルクは剣を打つためのとんかちをかっこよく勇者の剣に向けた。


「ソレ、何ポーズ?」


 アルルが少し冷たい目でみていた。


 照れているファルクは普通の女性のようだった。


「これは、勇者の剣に挑むポーズだよ。手強そうだからね」




音痴のタイトルを回収しました(笑)

次こそは、勇者の剣復活するはず(笑)

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