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第62話 人によってそれぞれ違うけどそれが良い法則について

 魂は人によって違う。

 天使には清らかな魂を持っているか否かを確認することが出来る。無論、それはリリエルにも出来ることで蓮を見た時には目を疑ったという。

 清らかな魂だったからではなく、複雑でありながら芯のあるものだったからだ。

 母親が大天使カマエルということもあるがそれは幼馴染を幸せにしたいという確固たる目標があったからに他ならない。

 それを知ったリリエルはそれを手助けしたいと心底思った。そして本人の魂に侵入して感嘆する。

「これが蓮さんの魂……」

 まるで巨大な白色のキャンパスに子どもが好きなように物をばら撒いたような光景だった。

「まるで宇宙の中にいるみたいだな。何か地面に立ってるのか浮いてるのか分からない不思議な気分だぜ」

「人によってここは変化しますから。これは蓮さんの器の大きさが表れているのでしょう」

「いや、それはねえ。あいつ結構ケチだぞ。昔一緒に駄菓子屋に行った時に奢ってくれなかったしよ」

「蓮さんの子どもの頃……ですか。そういえばここは魂の中ですから記憶も保存されています。閲覧することも可能ですが今はそれどころではありません」

「めっちゃウズウズしてんじゃん。でもまあ、俺も見てみたいな。昔の知り合いとはいってもたった一ヶ月の間だけだったからあの二人には敵わないし」

 記憶はシャボン玉のようなものに包まれている。それに触れるとそこに保管されている記憶が再生されるという仕組みとなっていてこれを主としてこの能力は使われることが多いという。

「だ、駄目です。この能力は危険なものですから遊んでいる暇はありません。もっと神威として自覚を持った立ち振る舞いを心掛けてください」

 特に記憶への干渉は拒絶反応の原因になりやすく、今回は無意識の確認をするために先に急ぐことにした。

「へいへい。しかし、思ってたより広いな。やっぱり広さも人によって違うのか?」

「はい。広さはその人の思い出の量を表しています。つまり蓮さんは色々と経験されているようですね。トラウマになるような記憶の付近では暗い色になっているのですが明るい色が多くて安心しました。これもカマエル様の加護のおかげですね」

「あの人の話はするな。正直、苦手なんだ」

「カマエル様と面識があったのですね」

「昔に一度だけな。初めて本物の殺気ってのを感じたよ。それで俺たちは何処に迎えば良いんだ?」

「夢や願いのある方はそれが具現化しています。他よりも強い気を発していますのでそれを辿れば自ずと見つけることが出来ます。これから私が先導しますので付いてきてください」

 様々なものが漂う不思議な世界を歩き、少しずつ無意識の願望へと近づく。

「少し質問をしてもよろしいですか?」

「俺に答えられることなら何でもどうぞ」

「蓮さんについてですが私は今の蓮さんしか知りません。なので参考までに昔の蓮さんはどんな子だったのかを聞きたいのですけど」

「それは俺よりかも幼馴染の方に聞いた方が良いと思うぜ」

「いえ、西条さんではないと聞けないこともあると思いまして。幼馴染以外の方とはどのように接していたのか気になります」

「……まあ、答えるけどあいつは俺のこと男だと勘違いしてたからあんまり参考にはならないと思うけどあいつは壁を作らない奴だよ」

「壁……ですか?」

「そっ。大抵の奴は人によって態度を変えるがあいつはそうじゃねえ。誰にでも優しくなれる変わった奴だ。除け者にされてた俺にすら声掛けてくるからな」

 楽しげに話す潤香を見て、リリエルは確信した。

「なるほど。それで西条さんは蓮さんのことが好きになったのですね」

「ち、ち、ち、ちげえよ! どうしてその結論に行き着くんだよ」

 赤面しながら否定するがリリエルは無表情のまま首を傾げる。

「西条さんはいつも蓮さんの方を見ていたのでそうなのかと」

「用心棒として勝手にいなくならないように監視してただけだ。それにどっちかと言うと俺はお前の方が怪しいと思うけどな」

 その一言でようやくリリエルの表情が崩れな た。

「ああ、今日の話を断片的に聞いただけでももしかしてこいつ恋してるんじゃねえかって思うぜ」

 ここぞとばかりに言い返すとリリエルは顔色を変えずにただ逃げるように下を見た。

「わ、分かりません。私には分かりません」

 彼女は恋愛とは無縁の世界で日々を過ごしていた。蓮と出会い変わりつつあるが自分が天使ということもあってその一歩を歩み出せないでいる。

「はぁ……悪かったよ。まさかそこまでとは。まあ、これから分かっていけば良いんだからさ。ほら、見えて来たぜ」

 他の物より輝きを放つそれこそが蓮が無意識の内に抱いていた願い。それを確認しようとした瞬間、世界が大きく揺れた。

「これは……拒絶反応か⁉︎」

 少し触った程度で今にも崩壊しそうになるほどの反応を見せるということはそれは彼にとって重要なものだったのだろう。

 隅々まで確認したいがそんな時間はない。

「このままでは閉じ込められてしまいます。その前に脱出をしましょう」

「そうだな。得られるもんも得たし、もうここに用はねえ。けど、この様子だと走っても間に合わなさそうだな」

 潤香はそっと竹刀の柄に手をやる。

「な、何を?」

「ちょっと、斬るだけさ」

 目が琥珀色に変わると竹刀を目にとまらぬ早さで横薙ぎにして空間を切り裂いた。

 これこそが神威の力。彼女はどんなものでも切り裂くことができるのだ。

「ほら、さっさと帰るぞ。あいつが待ってる」

「はい。行きましょう」

 不安はあったが、リリエルは潤香の後に続いてその裂け目の中へ飛び込んだ。

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