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第59話 異性と同棲しているとあのイベントが発生するのを期待してしまう法則について

 最近は幼馴染からのモーニングコールがない。

 二人とも部活やら生徒会やらで忙しいから仕方がない。しかし、母さんに襲われるかよりは数十倍マシだ。あの時は本当に身の危険を感じた。

 それとリリエルは料理がマイブームらしく、朝食を用意してくれるようになった。いつもは適当に買ったパンと牛乳という何とも味気ないものだったが目玉焼きやスクランブルエッグといったものが出てくるようになっている。

 まだ卵料理から抜け出さないのは難点だが作ってもらってるから文句は言えない。

 母さんが「それだけでは栄養が不足してしまいます。何なら朝食だけでも作っていってあげます」からと言い出したがこれによりその蛮行が行われていないのだから尚更だ。

「おはようございます蓮さん。私は日直があるので先に登校していますね」

「ああ、気をつけろよ」

 台所には朝食が用意されていたのでそれを食べた蓮は準備を済まして登校しようかと思ったが風呂場から音が聞こえた。リリエルが止め忘れたのかと思い入ってみるとそこには裸の潤香がいた。

「おっす、蓮。風呂借りてるぞ」

「ふ、服を着ろ!」

 咄嗟に風呂場から出て扉を閉じる蓮。

 だが潤香は声色を変えることなく冗談を言ってみせた。

「何だ? お前も一緒に入らないのかよ」

「入らねえよ。てか何で俺の家で風呂に入ってるんだよ」

「おばさんから聞いてなかったか? これからここに住むことになったんだよ。用心棒としては長く一緒にいないとだからな」

「聞いてねえよ。ったく、不用心にもほどがあるだろ」

 腕が一人前なのはこの身をもって確認しているが、それでは先が思いやられる。

 それにしてもあの頃と比べて随分と成長したものだ。いや、何がとは具体的には言わないけど。

「今更お前に裸見られたくらいじゃ何にも困らねえよ。あの頃にあんなことやそんなことをされたからな」

「それ、恵たちの前では絶対に言うなよ」

 次は不機嫌な顔で質問責めなんて生温いことでは済まされない。

「とにかく、着替えたらすぐに行くぞ。俺は玄関で待ってるから」

「へいへい。秒で終わらせるから」

 いつもの男らしい口調で返していた潤香だったがその顔が真っ赤に染まっていたことは誰も知らない。




***




 まるでラブコメみたいなハプニングがあったが二人は何事もなかったように一緒に登校することになった。

「にしても剣道部は良いか?」

「それがまだ道着が届いてなくてさ。それにああは言ったけどお前の用心棒だから学園長に部活は最低限だけで良いってことになってるんだよ」

「それはまた職権乱用だな。別に用心棒なんて必要ないとは思うけどな」

 実際、まだ危険な目に遭ってはいない。

 それ以前に美嘉がこの秘宝は人に害を与えるものではないと言っていた。こいつは俺の監視役といったところだろう。それも天使ではなく神から遣わされた方の。

「そう言うなって。また俺と一緒にいられて楽しい学園生活を送れるだから文句はないだろ」

「それが秘宝のおかげじゃないのならな」

 ついでに言うと幼馴染が幸せという点が抜けている。まあ、そんな敷かれたレールを走らされるような感じは真っ平御免だが。

「ふてくされるなよ。それと昨日の夜に学園長からメール来たけど俺たちのクラスに教育実習生が来るんだって」

「へえ、うちに教育実習とはそれまた災難な人もいたもんだ」

 けど問題児が多いせいで忘れがちだがうちはそれなりに有名な進学校だ。恵が入学できたのは奇跡と言えよう。

「おいおい、どうしてそんなに他人事なんだよ。タイミング的に怪しむところだろうがよ」

「確かに怪しいけど敵ではないだろ」

 美嘉はあれ以降、リリエルが呼んだ天使たちと強力な結界を張って悪しき者が入れないとようになっているらしい。

「それはそうだろ。もし敵だとしても俺が斬り刻んでやるから安心しろ。問題なのはお前の危機感のなさだよ。サリエルの件聞いてるぜ。普通はやらないだろ」

「幼馴染が酷い目に遭ったんだ。仕返してやりたいって思うのは当然だろ」

 結局、最後母さんに全部持っていかれて仕返しし損ねたけどな。

「あっそ……。もしもだけどよ。それが俺だったらどうした?」

「は? もちろん、同じことしてたさ」

「だよな! お前はそういう奴だよな」

「何だあいつ?」

 とにかく、その可哀想な教育実習生に会ってみよう。

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