第55話 一難去ったらまた一難やってくる法則について
葵のあれは堕天使とか関係ないのが分かった今朝。蓮は「いや〜、こんなに付き合いが長いのにまだ新しい発見があるなんて俺の幼馴染は最高だぜ」と遠い目をしていた。
「相変わらず変な顔してるわね。サリエルが捕まったからって気が緩んでるんじゃない？」
「そうかもな〜」
「って生返事だし。リリエル、こいつどうなってんのよ」
「どうやら立て続きに色々と起きたため疲れているようです。少し休ませてあげてください」
「休ませるねえ……。でもその前にあんた権限とかちゃんと返したの？」
「ん？ ああ、そういえばまだだったな。これ食べたら行くさ」
最後の一口をスプーンで運ぶ途中で名指しで学園長室に来るようにという放送が流れた。
「噂をすればよ。多分、あっちの仕事は終わったようね。私も気になるから一緒について行くわ」
「では蓮さんのことはお任せします。私は用事があるので失礼します」
二人は財布を握りしめ購買戦争に赴いたリリエルを余所に学園長へと足を運んだ。
＊＊＊
「さて、わざわざ呼び出してすまんの。お主には二つ報告があったのじゃ。それにしてもそなたも来るとは随分と小僧が気に入ったと見えるの」
「別にそんなのじゃないわよ。あんたが動けるってことはサリエルの件が片付いたってことだから当事者として審判の結果が知りたいだけ」
「ふむ。そういことにしておくかの。ではそちらの方から話すとしよう。サリエルは大天使の資格を剥奪して彼女に協力していた堕天使と一緒に牢獄へ監禁することになった。あそこなら二度と出てはこれまいて」
「そうか。ならひと安心だな」
「安心するのはまだ早いんじゃない？ だってまだもう一つ報告が残ってるんだもの」
「ああ、そういえば言ってたな。じゃあ、とっとと残りを聞かせてくれ」
「そのつもりじゃが覚悟して聞くことじゃ。これは小僧の学園生活に大きく関わって来ることじゃからの」
「お、俺の学園生活？」
「そうじゃ。小僧はどんな学園生活を望んでいる」
「突然なんだよ」
「必要なことじゃ。思ったことを包み隠さずに言えば良い」
学園長としてというよりも何か意味があっての質問らしい。ここで嘘をつく必要もないし、蓮は正直な気持ちを打ち明けた。
「……幼馴染と楽しく、平和に過ごして二人に幸せになってもらう。ただそれだけだ」
そう。俺の目的は昔から変わらない。純粋にあの二人に幸せになって欲しい。出会ったあの頃からこの気持ちは日々強まる一方だというのは最近は天使だとか堕天使だとかに巻き込まれて……もう疲れた。
「そう……か。それが小僧の願いか。では報告に移るが以前言っていた秘宝が暴走をした。願望を叶えるという能力で対象は何故か小僧になっておった」
「どいうことだよそれ」
「儂が聞きたいくらいじゃよ。秘宝は神が創造したものじゃからの。しかし、これは人に害を与えるものではない。小僧が願い主なら尚更じゃ」
「解除することは出来ないのかよ」
「出来たらとっくにしとるわい。上に報告はしたがそのままで良いときた。どうやら小僧で実験をするつもりのようじゃ」
「実験とは穏やかじゃないわね。あんたより上ってことは相手は神なんでしょ。天界もやるようになったじゃない」
皮肉を口にするクリムに美嘉は苦笑する。
「耳が痛いの。じゃが、これは小僧にとって悪い話ではないはずじゃ。何せよ願いが叶うんじゃからの」
「いらねえ」
「なぬ？」
「いらねえって言ったんだよ！ そういうのは自分の手で叶えてこそ意味があるもんだ。与えられた幸せに意味なんかねえ」
母さんにも言ったが俺がやるのと誰かに叶えてもらうとではまるで違う。結果が同じでもその過程が大事なんだ。
「私もそう思うわ。だからこっちにつくわ」
「なんじゃ。これでは儂が悪者ではないか。いつ手伝わんと言った？ むしろ儂は小僧を応援する側じゃぞ」
「そ、そうなのか？」
「そうじゃとも。小僧には期待しておると前々から言っておろう。儂に出来ることなら何でもするつもりじゃよ」
と偉そうに踏ん反り返り、ない胸を強調させる美嘉。大天使というよりも学園長が味方というのは心強い。
「じゃあ、早速頼っちゃおうかな」
「うむ、何でも言うが良い！」
この満面の笑みが次の日は苦痛に歪むことになるとは誰もが予想だにしなかった。
