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第53話 息子は母親には敵わない法則について

 悪事を働いた大天使を捕縛に成功して学園には平和が訪れ、我が家には天然な母親が帰って来た。

「ほら、蓮くん。そろそろ起きないお遅刻しますよ」

 今朝は恵ではなく、実の母親である依莉が起こしに来た。普通の家庭と変わりないそれに少し嬉しくもあり、俺はありきたりな台詞を吐く。

「あと五分」

「そうですか……。まだ起きないのですね。では今のうちにあんな事やこんな事をしておきますか」

「起きる起きる! だから俺の何もしないでくれ!」

 まさかそんな返しをするとは計算外だ。

 このまま寝ていたら知らないうちに大人の階段を登っていたかもしれない。それは年齢がとか問題ではなく、親子としてどうなんだ?

 だがあの母さんだ。突然道を踏み外して……何てこともあり得る。幼馴染が不良に絡まれた時のために多少鍛えているが相手が相手だから抵抗も無駄だろう。

「あら、それは残念」

「本気なのが怖いわ。でも母さんはいつまでここにいられるんだ?」

「審判の結果が出次第、すぐに出発するつもりですが蓮くんが行くなと言うならずっとここにいても良いですよ」

「俺はもう子供じゃないからそんな我儘言わないよ。母さんは大天使しての役目があるんだろ? 一人暮らしは慣れてるし、気にせずそれを全うしてくれ」

 その言葉を聞き、依莉は嬉し涙を流す。

「成長しましたね。ですが今回のように困った事があったら母を頼ってください。そのための母なのですから」

「はいはい。それじゃあ、今日も学校行ってくるよ」

「はいは一回。それと朝ごはんはちゃんと食べて行きなさい。じゃないとお昼まで保ちませんから」

「間に合わないからパンだけで良いよ。そういえばリリエルたちは? あいつらここに住み着いてたのに」

 クリムは宣言通り、依頼が終わったからなのかもしれないがリリエルはもはや何処ぞの猫型ロボットのように居候生活をしていたはずなのに急にいなくなると調子が狂う。

「ミカエルの事後処理を手伝っているそうよ。そんなに時間はかからないなら心配しなくても大丈夫」

「別に心配なんてしてないって。むしろ、いなくなってくれた方が助かるし。それよりも聞きたいことがあるんだけどリリエルに命令してたのは母さんか?」

「どうしてそう思ったの?」

「あいつは俺の計画を知っていた。となると秘密を暴くみたいな能力を持ってる奴か俺に近い存在の二択になる。前者はミカエルに聞いて確認したがそんな奴はいないって断定してた」

 そうなると怪しいのは後者だ。

 今のところ俺にとって身近な存在でリリエルに命令できる立場にある人物といったら目の前にいる最強の母親しかいない。

「まあ、ここまで来て隠す必要はなさそうですね。そうです。私が命令しました」

「まだ俺の監視をさせるつもりか?」

「監視だなんてそんな……私はただ母として息子の手伝いが出来ればと」

「気持ちは嬉しいけど俺の計画は自分で成功させないと意味がないんだ」

 大天使としての力があれば二人を幸せに出来るかもしれない。でも、それは幼馴染としてではない。この計画は幼馴染として幸せにしなくてはいけないのだ。

 最近、衝撃的な事実が明かされて計画が破綻しかけているがそれは今後解決していくとしよう。

「そこまで言うのなら邪魔はしません。しかし、今回のように危険だと判断した場合は否が応でも助けに来ますのでそのつもりでいてくださいね」

「はいはい。その時は頼むよ母さん」

 せいぜい母さんの拳が必要になる時が来ないように神様に願っておくとしよう。

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