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第34話 トイレには良い思い出がない法則について

 学園の七不思議で場所が女子トイレとなると思いつくのは一つしかない。

 そうトイレの花子さんだ。

 あまりそういったことには詳しくないが、いじめられていた花子さんがトイレに閉じ込められてその時に火事が起きてしまって……という話だった気がする。

 まあ、諸説あるから何が正しいとかはわからないが可哀想な女の子の霊であるという認識でいいだろう。

「花子さん? いいえ、ドヤ顔しているところ悪いのだけど違うわよ。トイレの花子さんではなくてトイレの天子さん。それがこの学園の七不思議よ」

「いや、ドヤ顔してねえよ……って天子さん?」

「驚くのも無理ないわね。私も驚いたけど別にからかってるわけじゃないのよ」

「それにしても天子って……何というか無理やり感があるがそこはまあ触れないで置いてやるか。それで、トイレの天子さんは花子さんとどう違うだ」

「基本は同じよ。何故かいつも故障中の個室トイレ。その前に立って一緒に遊ぶように誘うの」

「すると誰もいないはずのトイレから返事がするか? それはまた随分と古典的だな」

「人の話はちゃんと最後まで聞きなさい。基本は同じとは言ったけど、普通の七不思議とは違うのよ。誘ってみると実際に遊ぶことになったの。ただしここからは出られないからしりとりで遊ぶことになるのだけど、問題はこのしりとり。天子さんにしで返すと……」

「ああ、何となく想像はついた。もう言わなくていい」

「あら、怖いのかしら?」

「そんなわけないだろ。けど、場所が場所だからな今回俺たちは廊下で待ってるとするぜ」

 当たり前のことだが女子トイレに入ったことはない。常識的にというのもあるが、陰口を吐き出される場所という勝手な印象があってどんな理由があっても入りづらい。

 その案に啓も賛成のようで首を縦に振っている。

「誰か入っているわけでもないのだからそんなに遠慮することはないのよ。あ〜、そうね。そうだったわね。天子さんが入っているから入れないのよね」

「別に天子さんなんて怖くねえよ。お前がそこまで言うなら行ってやる!」

 初めての女子トイレへの潜入。

 大勢かつ正当?な理由があるので背徳感はなかったが、右から二番目の扉に『使用禁止』と大きく赤で書かれたのを見つけると急に冷や汗がが出てきた。

「こ、ここだな。それじゃあ言うぞ」

 少し恥ずかしいが今はそんなことは言ってられない。

「て〜んこさん遊びましょ」

「はい。ですが、ここから出られないのでしりとりを提案します」

 意外と普通の返事だった。

 悪そうな奴ではなさそうだ。しりとりが開始され、淡々と返してくるから自分で提案してきた割に楽しんでいるようには思えない。

 そしてその時は来た。

「割り箸」

 新堂が『し』で天子さんに返した。もちろん、例の七不思議の真偽を確認するためだ。そして天子はんは言葉に詰まりながらもその一言を発した。

「し、し、し……新幹線」

「んがついたな」

 あまりにも呆気ない終わり方で一同戸惑っていた。ただ天子さんだけを除いては。

「はい。私の負けです。今回はありがとうございました」

 しりとりも終わり、その場にいるをなくした蓮たちはそのまま廊下へと出る。

「せ、先輩。これって解決ってことで良いんですか?」

「まあ、悪い奴ではなかったし放っておいて良いだろ。別に俺たちの目的は七不思議を解決することじゃないし」

「それもそうですね。では気持ちを切り替えて次に行きましょう先輩」

「ああ、ごめん。ちょっと用事あるから先に行っててくれないか?」

「で、でも……」

「次の目的地は第二職員室の近くよ。それじゃあ、先に行ってるから」

 みんながいなくなったのを確認して蓮は再び女子トイレに入り、扉の前に立つ。

「おい、天子。じゃなくてリリエル。そんなところで何してるんだ?」

「その声はやはり蓮さんですね。いえ、定期連絡をしていました。ここは何故か人が少ないので都合が良いのです」

「家でやれよそんなの」

「それは出来ません。蓮さんに聞かれては困る内容のものですので」

「そうかよ。どうでも良いけどここはやめとけ」

「何故ですか? 先程のように気さくに話しかけてくる方がいますが、天使であることは誰にも気づかれていません。きちんと偽名も使っていますし」

「どうしてもだ」

 これでトレイの天子さんの真相も明らかとなった。ただ単にリリエルがまたやらかしていたというだけなのだが、これでは先が思いやられる。

 蓮はその重たい腰を上げて新堂たちのいる第二職員室の方へと歩き出した。


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