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第30話 再会は案外早めにやってくる法則について

 あの一件から被害を受けたという者はおらず、結局黒い羽事件は未解決で捜査が終了した。

 被害者である王子様は納得していないようだが、あれから誰も被害に遭っていないし警察も証拠がないし怪我をしたわけでもないので動くことはなかった。それが堕天使による攻撃だとも知らずに。

「それにしても堕天使がこの街に来てるってことは結構ヤバい状況じゃないか?」

「そうですね。狙いが私たちであるかは定かではありませんが、堕天使の多くは天使を少なからず憎んでいますから襲われるかもしれません。ですがその際は私を囮にすれば蓮さんだけでも助かるかもしれません」

「そんなことしたら二人に叱られる。それだけは勘弁だ」

「堕天使よりも幼馴染の叱責を恐れるとは蓮さんらしいですね。しかし、私の代わりはいますが蓮さんの代わりはいません。いざとなったら私を犠牲にしてでも生き残ってください」

「それは命令か?」

「いいえ。これは私の意思です」

 その答えに少しだけホッとした。いつも他人事のように淡々語る彼女に自分の意思などなく、ただ上からの命令だけで動いてちるのではないのではと心配をしていたがそれは杞憂だったようだ。

「そうか。ならいざって時はそうするよ。まあ、そんな時は俺がいる限りこないだろうけどな」

「蓮さん……」

「ねえ、何のお話?」

 妙な空気が流れたが恵二人の間に割り込んで話を中断させ、一気にいつも通りに戻った。

「球技大会のことだよ。結局、うちのクラスはどれも優勝できなかったなって」

「う〜、私たちはあともう少しで優勝できたんだよ。でも五十嵐さんが強くて……」

「わかってる。あれに勝てって言うのは酷な話だ。でも来年があるさ。いつまでもクヨクヨしてるのは恵らしくないぜ」

「それもそうだね。ありがと蓮!」

「で、何か俺に用があったんじゃないか?」

「おお、流石蓮。私自身忘れていたことを当てるなんて」

「まあ、幼馴染だからな。てか忘れるなよ」

 実力と人望はあるが、これがあるから恵はリーダーには向いていない。本人曰く誰に頼まれてもやる気はないようだが。

「ごめんごめん。実は一年生の子が呼んでたからそれを伝えに来たんだ」

「一年? それはまた珍しいな」

 一年生に知り合いがいないわけではないが、あちらから来るような知り合いは思い浮かばない。

「うん。見たことのない子だったから高校の知り合いじゃないと思うよ」

「とりあえず、行ってみるよ。何処で待ってるんだ?」

「廊下だよ。すぐにわかるって言ってたから」

 すぐにわかる。

 その言葉は確かで教室を出て数秒でその一年が誰なのかわかった。しかし、同時に何故彼女がここにいるのかという疑問が浮かんだ。

「遅いわよ」

「お前は確か……」

「クリムよ。クリム・ノワール。そういえば自己紹介もしてなかったわね」

 昨日、珍妙な登場の仕方をしたあの堕天使だ。見間違えるはずもない。

「お前、一緒の学園に通ってたのか」

「身を隠すにはここが便利だから仕方なくね。私の他にも堕天使がいるかもしれないから学園でも気を抜かないことね」

「わざわざそんな忠告をしに来てくれたのか?」

「それはついでよ。本題は私と手を組んで欲しいの」

「手を組む?」

「そうよ。不本意だけど一人が限界だから協力者が必要なの」

「それならリリエルに頼んだ方が良いんじゃないか?」

 人間の俺よりもそちらの事情を知っていて、何よりクロムにとっての幼馴染。天使と堕天使という隔たりはあるがお互いそれは気にしていないようだし、俺の計画はとある問題のせいで頓挫している。

「あいつは駄目よ。堕天使相手にも慈悲をかけるし、大事な場面で重大なミスをするもの。けど、あんたは違うんでしょ」

「それで内容は?」

「流石にここでは話せないわ。放課後、場所を変えて詳しい内容はそこで」




***




「ここなら気兼ねなく話せるわね」

 秘密基地のようなものはなく、学生らしくカラオケで話し合うことにした。確かにここなら周りを気にせずに話ができる。

「大方、前言ってた他の堕天使の件か?」

「察しが早くて助かるわ。最近大胆に動くようになってきて天界も部隊を編成して迎撃に当たっているみたいだけど正直私にとっては邪魔でしかないの」

「堕天使は全員敵だと思われていそうだし、お前は動きにくくなる一方だよな。そうなるとリリエルが協力したら裏切り者だと思われるから俺に頼んだのか」

「そういうことにしておくわ。人間のあんたはどっちにも目をつけられないから丁度良いの」

「なるほど。でも俺にできることは限られてくるぜ」

「でも隠しているその指輪を使えばどうにかなるんじゃない?」

「知ってたのか」

 一応、唯一の隠し兵器だ。出会ったばかりの堕天使に教えるのは無防備だと思い、今まで黙っていたのだがそれは無駄な抵抗だったようだ。

「別にそんなの奪おうだなんてこれっぽっちも思ってないから安心しなさい。問題はあんたが私に協力するかしないか、ただそれだけよ」

「まだ聞いてなかったな。俺が協力したら何か得があるのか?」

 堕天使を相手にするとなるとリスクは高い。それなりの報酬を望むのは当たり前のことだが。

「そうね。あんたの計画、私も手伝っても良いわ。リリエル何かよりも役に立つと思うけど」

 あの認識阻害の結界といい、その他にもリリエルよりも使える能力を有していると期待しても良い。まだ何かしら力を隠しているようだが、どちらにせよ現状を打破するには手持ちのカードがなさすぎる。

「なら協力しよう。ただし、俺の幼馴染に被害が出ないようにしてくれ」

「善処するわ。それじゃあ、これで交渉成立ね」

 こうして俺は堕天使と手を組んだ。

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