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第21話 忙しい時ほど時間が経つのが早く感じる法則について

 人の噂も七十五日。

 これを長く感じるか短く感じるかは人それぞれだが、その時が過ぎ去ってもそういった噂があったという事実ら消えない。

 そして噂には二種類がある。

 自然と流れたもの。そして何者かが意図的に流したもの。

 特に厄介なのは後者だ。明らかに悪意があり、特定するのが困難を極めるが羽鳥は躍起になって今学校に流れている噂の出所を探していた。

「ふむ、最近外が騒がしいな。今度は何をやらかしたんだ?」

「何で勝手に決めつけてるんだよ。俺は何もしてないって」

 保健室で暇を潰している蓮は何のことかとシラを切る。

「何もしていない人がここに隠れるとは思えないが……あの男に協力するのも癪だから黙っておこう」

「それはどうも。まあ、少しすれば大人しくなるだろうからそれまでの辛抱さ」

 蓮が任されたのはさりげなく噂を広めること。その内容はあの騒動は羽鳥 潤が取り巻きの女子生徒を軽くあしらったからというもの。

 あの騒動は誰もが知っているのでこれに食いつく者は多い。そしてその食いついた者が更に噂を広める。

 こうして噂はねずみ算式に増えていき、たった数日で生徒たちの話題はその噂一色となった。

 もちろん、本人とその取り巻きたちは否定をしているがそれでも噂が消えることはなく今に至る。

 一人一人に弁解しても意味がないので張本人を見つけ出して責任を取らせようとしているらしいが時すでに遅し。

 ここまできたら噂を広めた張本人でさえ事態を収束させるのは不可能。

 ただ待てとしか言えない。その噂が忘れ去られるその日まで。

「それにしても随分と大きく出たものだ。最近流行っている裏サイトとやらもその話題で盛り上がっているし」

「五十嵐が裏サイトを知ってるなんて意外だな」

「嫌でも聞こえてくるのさ。今回のでかなり知名度が上がっているから管理者は今頃ほくそ笑んでいるだろうな」

「そうだな。まあ、俺はそろそろお邪魔するよ」

「ああ、治療を受けたくなったらいつでも来てくれ」

 そんな日は来ない。それだけは断言しよう。




***




 噂が学校中に広まって数日、羽鳥 潤の好感度はガクンと下がったと聞く。

 裏サイトに女たらしだのと書かれていたがそれは事実だったようで被害者たちが結託して噂の真実を追求しようと活動したからだ。

 その活動のおかげで羽鳥 潤が取り巻きの女子生徒たちを軽視している発言を録音され、サッカー部の王子の人気者は地に落ちた。

 そうなるように仕組んだ男は新聞部の部室で不敵な笑みを浮かべながら作業を進めている部長の話に耳を傾けていた。

「今頃、彼はギャフンと言っているところかしら。直接聞けないのは残念ね」

「これでお互い目的は達成したんだし、これ以上望むのは流石に相手に悪いだろ」

「それもそうね。あの子も随分と頑張ってくれたわ」

「そういえば今日はあいつ来てないんだな」

「ええ。今日は貴方に渡したいものがあっただけだからあの子は家で今も裏サイトの運営で忙しくしているわ」

「渡したいもの? そういえばそうだったな」

 メールにもそう書いてあった。

 てっきり作戦成功の余韻に浸っているだけかと思ったが、そんなことにわざわざ付き合う俺ではない。

「それでその渡したいものってのは?」

「裏サイトの管理者権限よ。といってもあの子の方がこれより上の権限を持ってるからこれで完全にサイトを掌握はできないけど情報収集には役に立つんじゃない」

 仁那から受け取ったのがあるが、それはあくまでその時のものでいつか使えなくなってしまう。

 情報は魚のように新鮮さが命なのだから。

 これは今後の計画に使えるに違いない。まあ、仁那はこういった表面上の情報ではなく誰がどう思っているかという内面的な情報収集が得意なので今後もお世話になるだろう。

「そいつは助かる。ありがたく使わせてもらうよ」

「ええ。私はこれから忙しくなるから貴方は勝手に自分の企みでも進めていなさい」

 弁解する気はないが、この学園には勘の鋭い女が多くないか?

「羽鳥の記事か? それはまたご苦労なこったな」

「それもあるけど、今は球技大会の件ね」

「球技大会……。もうすぐなんだっけ?」

「明後日には開催よ。正直、かなり遅れてるからネタ切れと思われそうで私は嫌なんだけどね……って聞いているのかしら?」

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