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第17話 プライドが高い奴は何をするかわからない法則について

 秘密兵器はどちらの能力を使ったかというと天使の力が使える二つ目の効果。

 俺でも天使の能力が使えるということだが、残念なことに天使の知り合いは一人しかいない。

 人を素直にするという弓矢。

 正直、使い勝手は悪いがこれしかないのだから仕方がない。今回はお試しを兼ねて効果を使わせてもらおう。

「ですが、どうしてあの方に私の弓矢を使ったのですか?」

「ああいうタイプは真っ正面からいっても攻略できないタイプだ。そうなると手の込んだ方法じゃないと心は動かない」

「手の込んだ方法……ですか?」

「ああ、あいつに渡した大量の原稿用紙に暗号を残しといた。ちゃんと読めば誰でも見つけられる簡単な暗号だ」

「それがあの方を説得する鍵となるのですね」

「まあな。いくら本にしか興味がなくても委員長として奴らの意見は無視はできないだろうからな。その一貫としてお前の能力を借りた」

 素直になればそれだけ他の意見を受け入れやすくなる。ただし俺のみたいなつい最近知り合った奴の意見では駄目だ。本にしか興味がないあいつでも知っている存在、それも大勢の意見でないと。

「けど、上手くいってる保証はない。といってももう打つ手はないし、次に取り掛かるか」

「風紀委員長の柊 瑛里さんの説得ですね。その方とは面識が?」

「あるにはあるけど一方的に注意されただけだし、仲が良いかって聞かれたら微妙なところだな」

 何というかあれだ。

 授業とかそういう話はするけれどプライベートな話は一切しない仲みたいな。学校内だけの仲みたいな感じだ。

 また顔を合わしたらテスト前の母親みたいにガミガミと説教されそうだが、五十嵐たちとは違いちゃんと人の話は聞いてくれる奴だ。そう考えると随分と気は楽になる。

 知り合いだし、あの図書委員長よりも簡単に終わりそうだ。




***




 風紀委員。

 印象としては生徒会の補佐的な役目かと思っていたが、本人は別にそんなつもりはないらしい。

 出会った当初にそれを聞いたらもの凄い勢いで怒られた。何かとプライドが高く、誰かの下で働いていると思われるのが嫌いらしい。

 プライドの高い奴は総じてコミュニケーションが面倒だが、そうも言っていられない。昼休みに柊 瑛里のいる教室へと足を運ぶ。

 三年生の教室ということだけあって、若干視線が気になるので廊下へと呼び出す。

 ピシッと制服を着こなした黒髪ツインテールの女子生徒。気品溢れるその姿に男子だけでなく女子にも人気のある彼女こそが風紀委員長の柊 瑛里である。

「そっちから会いに来るなんて珍しいじゃない。まあ、どうせあの女の差し金なんだろうけど」

「話が早くて助かる。球技大会の件、反対してるんだって? どうせ葵への嫌がらせだろ」

「私もそこまで我儘じゃないわよ」

「なら、何で反対したんだよ」

「矢内先生よ。私、前からあの先生が気に入らなかったの。それであの図書委員長の子が反対したから私も一緒になって困らせようとしただけ。といっても私が勝手にそうしただけだからあの子はそんなこと知らないだろうけど」

「そいつならこの前説得しに行ったよ。あとは結果待ちってところだけど」

「あっそ。ならもう反対してても何も良いことなさそうね。ほんと、貴方は仕事が早いわね。今からでも風紀委員に入らない?」

「前も言ったけど幼馴染を悪く言うような奴の下につく気はないから」

「そう。それは残念ね」

 微笑みながら教室へと帰っていく柊 瑛里。これで葵に頼まれていた仕事は終わった。

 図書委員長である松本 文華は本人に聞いてみないと分からないが一人が反対したところでどうこうなる問題はない。

 特に厄介だったのはあのプライドが高く、頭が回る先輩だ。本気で邪魔をしに来たらこの程度では済まなかった。

 つまりこれで葵に頼まれた仕事は完了と言っても過言ではない。

 そして一難去ってまた一難。

「おや、君がどうしてここに? もしかして私の治療を受けに来てくれたのかい」

 うっかりしていたが、このクラスにはあの五十嵐もいた。ナース服姿ばかり見ているせいでつい先輩だというのを忘れていた。

 今は制服姿だからいつもよりまともに見えるが中身は変わらない。

「いいえ、勘違いです!」

 風紀委員長には悪いが廊下を全速力で走り、狂気に満ちた先輩と鬼ごっこを興じた。


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