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第16話 本の虫とは意思の疎通が取りにくい法則について

 秘密兵器。

 男としてこれほど心踊る単語はあとは幼馴染くらいなものだろう。

 しかし、あのリリエルが持ってきたものだ。あまり期待はできない。

「それじゃあ、その秘密兵器ってやつを見せてくれ」

「はい。この指輪が秘密兵器です」

 机に置かれたそれは銀色の指輪。

 実際に触ってみるがとてもこの指輪が現状をどうにかしてくれるようには思えない。

「見た目は普通の指輪だな」

「この指輪は大天使様が開発した素晴らしい道具でこれには二つの効果が備わっています。一つは身につけていると大天使様の加護の恩恵を受けられるというもので二つは天使の力を人間でも使えるようになるというものです。これは対象の力を持つ天使の許可が必要ですし、重複することはできません」

「なるほど、それはお前の弓矢よりは使えそうだな」

「所詮私は蓮さんのサポートを任されただけにすぎませんから」

「前から気になってたんだが、誰に命令されてるんだ?」

 計画を知っていたということは俺と関係が深い人物が天使だったということか? いや、しかし天使ともなると俺の計画など簡単に見落とせるという可能性もあり……。

 ダメだ。これ以上考えたら頭がパンクしてしまう。本人から聞き出すのが一番だが……。

「それは言えない規則です。気になるかもしれませんが蓮さんは計画に専念してください」

「分かったよ。じゃあ、リリエルは明日から恵の方を頼む。こっちは葵からの頼みごとで手が離せねえんだ」

「了解しました。では不在していた分まで精進します」

「ほどほどにな」

 気がかりではあるが、こちらはこちらの仕事を済まさなくてはいけない。今日は眠れそうにないな。




***




 今度は秘密兵器を携えて図書館へと踏み入る。

 流石にあの送られてきたらドン引きするような量の手紙は書いておらず、図書委員長らしく本を読んでいた。

 ここで大事なのは強気に行くことだ。

 日本人は謙虚なのが長所ではあるが、ここではそんなものは役に立たない。相手は自分の意見が絶対的に正しいのだと決め込んでいやがる。

 それを叩き壊すにはインパクトが大事だ。

 鞄からそれを取り出して机の上に無造作に置く。

「ほら、言われた通り書いたぞ」

 ポカンとした表情を浮かべる松本 文華。

 それもそのはずだ。諦めさせるために言った条件を馬鹿正直にやってきたのだから。

 人は予想外の出来事が起こると正常な判断を下せなくなる。こいつだって例外ではないはず。

「まさか本当に書いてくるとは思いませんでした。昨日の今日でこれだけの量を?」

「ラノベ作家を目指してるんでな。このくらい徹夜したら楽勝だ」

 本当はかなりやばい。今日の授業は強力な眠気のせいで頭に入ってこなかった。最終的には保健室の世話になって五十嵐に怒られたが。

「この努力を無下にはできませんし、とりあえず読みますので少し待っていてください」

 今読んでいる本を閉じて原稿用紙の束を手にとってそれをパラパラとめくった。それもまるでパラパラ漫画でも見ているのかと思うくらいのスピードで何度も。

 テレビで見たことがある。速読術というやつだ。

 ものの数分で読み終え、原稿用紙の束を返された。

「で? 感想は」

「やはり反対には変わりありませんが……何故ここまでするんですか? 貴方は生徒会役員でもありませんし、私を説得する義務もないのに」

「ん〜、強いて言うなら幼馴染のためかな」

「幼馴染……ですか」

「多分、知ってるだろうけど副会長の鷺宮 葵。そいつが俺の自慢の幼馴染でさ。久しぶりに頼まれたから頑張ってみようかと思っただけ。別にお前のためじゃねえから勘違いしないでよね!」

「何ですかそれ?」

 謎ツンデレ発言に文華は顔を緩ませた。

「お、初めて笑ってくれたな。まあ俺は帰って昼寝するよ。誰かさんのせいで寝不足なんだ。気が変わったら連絡くれ」

「ええ。あの……その寝不足の原因であるこれを貰っても良いですか?」

「別に良いぜ。俺が持ってても仕方ないし」

 こうして進展がないように見える内容だったが蓮は既に秘密兵器を使っていた。


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