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第12話 忙しい時に限って用事が舞い込む法則について

「はぁ……」

 蓮は大きなため息をついていた。

 結局、あれから五十嵐に保健室で足止めを食らって授業に遅れてしまった。桐嶺先生のおかげで何とかなったがそれをするなら五十嵐の横暴を止めてほしかった。

「どうしたの蓮。なんだか元気ないよ」

「ちょっとあってな。それよりも今日の放課後も部活なんだろ。俺は先に帰ってるから頑張れよ」

 あの羽鳥は一週間、部活動には参加しない。今なら他のサッカー部員から情報を集めるにはこの期間を有効活用しなくては。

 幼馴染に嘘をつくのは心が痛むがこれも計画のためだ。既に仁那から貰ったあの資料から目ぼしい奴らは見つけている。あとはそいつらに問いただすだけーーなのだが次の恵が発した台詞が俺を迷わせる。

「うん。実は先生が急用ができたからって今日は部活お休みなんだ。だから……その……久しぶりに一緒に帰らない?」

 恥じらいながらのこの一言。

 サッカー部員から情報を聞き出す絶好の機会。今を逃したらまず球技大会まではこんな機会は訪れない。

 だが思い出せ。俺はすぐに帰宅すると発言してしまっている。今更「やっぱり用事があった」では怪しまれるし、まるで俺が恵を避けているみたいじゃないか。

 幼馴染を悲しい思いをさせてしまう行為は俺にとっては犯罪に相当する最低の行為だ。

 情報収集は大事だが優先すべきは幼馴染の笑顔。

 蓮がその結論に至るまで有した時間はたったの二秒。そこからはいつもの流れ。

「ああ、そうだな」

「やった! それじゃあ今日は駅前のクレープ屋に寄って行こ。もちろん、蓮のおごりでね」

「おかわりはなしだぞ」

「は〜い。それじゃあ行こ行こ」

 まるで子供のようにはしゃぐ恵。

 財布の中身は幼馴染を喜ばすためなら空になっても悔いはない。駅前のクレープ屋は俺たち学生にとってたまにの贅沢。女性学生が多いせいで一人では行きにくい場所の一つ。

 そしてたまにいるカップルが非常に腹が立つ。目の前で何にするかペチャクチャと喋って後ろの人に迷惑をかけるのはやめろ。

 恵だって迷う時はあるが、ちゃんと後ろに並んでいるのを察して早々に決断している。あのカップルにはこんな良く出来た幼馴染の爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。

「ご馳走様。ん〜、やっぱりあそこのクレープは格別だね。何度食べても飽きないよ。今度はみんなで一緒に来よ」

「それは財布の中身が余裕のある時にしてくれ」

「流石に私もそんなにがっつかないよ。それよりもこうして蓮と一緒に帰るなんてほんとに久し振り」

「部活で忙しいんだから仕方ないだろ。葵も生徒会活動で大変だし」

 二人とも高校に入ってからは毎日忙しそうにしている。成長した子を持つ親はこんな心情なのだろうか。

 にしても何が二人を駆り出しているんだ?

 幼馴染である俺にさえ相談もなし唐突に恵はテニス部に葵は生徒会に入った。高校生になって何か思うことがあったんだろうが……幼馴染である俺がそれを知らないというのは少し癪というか悔しいところがある。

 恵と葵を一番理解しているのは幼馴染の俺だ。胸を張ってそれは断言できる。まあ、全部を知っているわけではないが。

「いつかまた三人で一緒に帰ろうね」

 現実的に考えて生徒会で忙しい葵もとなるとそんな日が来るのはいつになるか分からないがここは迷わずに嘘をつく。

「ああ、きっとそんな日が来るさ。その時は俺の財布なんて気にせずにクレープを食べてくれ」

 優しい嘘をつく。

 それも幼馴染としての役割だ。

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