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第10話 出会いは衝撃的な法則について

 テニスは意外と体力を使う。

 恵に付き合わされて何度かやったことがあるから俺は知っている。

 あんな広いコートの中でボールの打ち合い。特に相手は嫌なところに打ってくる。取りにくいボールで相手の姿勢を崩して自分が優位に立つために。

 つまりテニスはいかに相手が嫌がることが出来るかというのがポイントになってくるが恵はそれができない。

 下手とかそういう話ではなく性格的な問題だ。

 どうも逆サイドに打つのは卑怯だと考えているみたいで相手の正面に打つのが多い。戦略もへったくれもないプレイだがそれでも勝つ。それが恵の凄いところだ。

 つまり何が言いたいかというと恵は体力馬鹿だということ。

 既に蓮は追いつくことは諦めてリリエルへ電話をかけていた。

「……ということだ。現在、恵は全力疾走で登校中。俺の予測ではあと三分で目的のポイントに着く。そっちはどうなっている?」

「羽鳥 潤、予定通りに登校中です。やはり細かい修正は必要ですが問題ないかと」

「そうか。俺はもう体力が残ってないからあとは頼む。まあ、ここまでくれば成功したようなものだな」

 この目で確かめられないのは非常に残念だが、幼馴染の俺ならスマホ越しにでもその反応で好きか否かが判断できる。

 しかし、天使の力とは便利なものだ。空が飛べるだけではなく認識阻害で他人から気づかれないようにできるとは。意外とあいつを仲間にしたのは正解かもしれない。

 激坂のゴールを見据えながらふとそんなこと思っているとその時は来た。

「蓮さん、朗報です。もうすぐ角でお二人がぶつかります。それではビデオ通話に切り替えますね」

 スマホの画面には驚きの光景が映し出された。それはもの凄い勢いで走る恵がまるで暴走したダンプカーのように羽鳥を轢いて、何事もなかったかのように学校へと向かうという光景。

「ぶつかった……な」

「はい。ぶつかりました」

 あまりにも衝撃的すぎて嫌な沈黙が流れた。

「いやいやいや! 俺が望んでたのはこんな展開じゃないって。誰もこんな衝撃映像見たくないって」

「申し訳ございません」

「この件に関してはお前が謝るようなことはないよ。計画通り、二人をぶつけることができた。問題は恵のパワーだ」

 昔から喧嘩に一度も負けたことがない恵。女子というか人間とは思えないほどのその怪力があった。

 最近になってそれが顕著になってきているが、その矛先が俺に向かないことを願うしかない。

「これからどうします?」

「まずは羽鳥の容態を見てやれ。流石に放置するのは可哀想だ」

「分かりました」

 それにしてもこれからどうしたものか。

 結局、この作戦は失敗に終わって羽鳥 潤が意中の相手かどうかも確認できていない。

 このままではラチがあかない。この始まってすらいないラブコメを早々に終わらせなくては。




***




 あの羽鳥 潤は一週間も怪我で部活を休むらしい。

 その犯人は恵なのだが、やった本人は怪我をさせたのが自分だと知らないでいつものように天真爛漫に日々を過ごしている。

 羽島の取り巻きがこの真実を知ったらとんでもないことになりそうだ。

 ちなみに羽鳥はその時の記憶は曖昧で車か何かに轢かれたのだと勘違いしているらしい。

 事故によって生じたこの一週間を有効活用しない手はない。ターゲット不在のサッカー部を調べてまずは羽鳥という男がどんな奴かを確かめる。

 そう俺は大事なことを忘れていた。

 意中の相手と付き合えたら幸せ。それは真理だがその意中の相手がクズだった場合は例外だ。

 意中の相手はいまだに定かではないが、最有力候補であるあいつを探っておいて損はない。仁那からの情報で略歴は把握しているがこれだけでは判断ができない。

 やはり足を使わなくては。

 そこで蓮が赴いたのは保健室。

 ここには二人の知り合いがいる。一人は保健医の桐嶺 唯子、そして保健委員長の五十嵐 千繪だ。

 病院にお世話になるほどの怪我ではなかったし、一番近いのは学校だったということで羽鳥はここで治療を受けているはず。

 その時の様子を聞いてから次は怪しまれない程度にサッカー部から情報を集めようと頭の中でスケジュールを組みながら保健室へと入るとガチャリという不穏な音が背後から聞こえた。

「やっと私の治療を受ける気になってくれたか東雲」

 何故かピンク色のナース服を着用しているおかっぱ頭の女子生徒。獲物を見つけた獣のような鋭い目は捉えられた者を逃さない。

「ひ、久しぶりだな五十嵐。それで治療って何の話だ? 俺はただ確認したいことがあってだな」

「そうか。治療費なら気にするな。これは私が好きでやっているんだから」

「え〜っと、俺の話聞いてる?」

 この保健室の周りには人が近づかないが、その要因は彼女にある。

 美人だが話が通じないというか会話にならないし、自分の思い通りにならないと何をしでかすか分からない狂人。

 そんな危険人物を放置しているのが保健医。面倒臭がり屋で昼休みと放課後にこの保健室を独占されているというのに奥で雑誌を読み耽っている。

 少し話をしたいだけなのにこの有り様。

 退路は絶たれ、味方が一人もいないこの状況をどう脱したものかと思案したが目の前の保健委員長からはどうしても逃げられなかったので昼休みは彼女の一方的な会話に付き合うこととなった。

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