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出会い,そして夢の始まり  作者: 柴田盟
6/25

あの子

涙が落ち着いた頃、楓ちゃんは俺から離れて、微笑んでくれた。

「ねえ、あなたの名前聞いてなかったね」

「俺は松本隆って、言うんだよ」

「じゃあ、これからは隆さんって呼べば良いかな?」

「好きにすれば良いさ」

「隆さんって、橘先生の匂いがする」

 何て言われて俺はこっぱずかしくなって、「そうかよ」と返事をして置いた。

 それはそれで良いとして、俺は、

「もう万引き何てバカな事をするなよ」

「・・・」

 返事をしない事に俺は心許なく思って、

「聞いているのかよ」

「聞いているよ」

「じゃあ約束してくれ、もうバカなまねはしないと」

「・・・」

 約束が出来ないと言わんばかりに黙り込む楓ちゃん。

 そこで橘が、

「楓ちゃんは独りぼっちだから、誰にも悩みを聞いてくれる人がいないんだ。だからその約束を守れるかどうか不安なんだと思う」

 それを聞いた俺は、

「じゃあ、もしもう一度万引きしたくなったら、すかさず俺に連絡しろ」

「でも迷惑になりそうだから」

「万引きする事事態、迷惑そのものだよ。今日の事を考えて見ろよ。俺を巻き込もうとしたじゃねえかよ」

「ごめんなさい」

 頭を下げる楓ちゃん。

 再びその瞳から涙がこぼれ落ちそうな姿を見て、俺はいたたまれなくなって、

「とにかく俺は迷惑だと思っていない。だから万引きしようとする前に俺に連絡しろ」

 すると楓ちゃんは涙をごしごしと袖で拭って、笑顔で「はい」と答えた。


 その後、楓ちゃんを送ってあげて、時計を見ると、午後六時を示していた。

 思えば、楓ちゃんの事が気になって、仕事を無断早退してしまった。

 とりあえず、今から店に電話して店長に謝るしかない。

 本当にかけづらいが、店に電話をする。

 もし首にされたらどうしようと不安だった。

 そう思うんだったら、橘の頼みを引き受けるんじゃなかったと後悔しそうになったが、先ほどの楓ちゃんの笑顔が見られて、なぜかそれ以上の代償何じゃないかと思えた。

 そして携帯で店に電話する。


 首にされる事と、無断早退を糾弾されることを覚悟して店に電話をかけたが、店長はなぜか下手に出て、俺に謝りながら、やめないでくれと連呼していた。

 どうやらいつも蔑ろにされていると思ったが、こんな俺を本当に必要としてくれている事に、俺は心底嬉かった。

 店長はいつも俺に対して冷たかったが、本当の所頼りにしているんだと思った。

 それからいつものように、弁当屋で晩飯の弁当を買って家に帰った。

 飯を食いながらテレビをつけて、今日のことを思い返すと、いつも気休めにしか聞こえなかった『生きていれば良いことある』と言う言葉を信じて良いのかもしれないと思えた。

 何か俺は今幸せな気分だ。

 こんな気持ち、スロットで大勝ちした気分とは違い、心がほっこりする。

 橘も橘で俺に感謝しているみたいだ。

「ありがとうたっ君」

 ありがとう何て、聞くといつもは何かこそばゆい気持ちに陥ったりもしたが、俺はこの時、素直な気持ちで嬉しかった。

「楓ちゃんのあの笑顔、久しぶりに見たよ」

「そうか?」

 俺もあの楓ちゃんの笑顔を思い浮かべると、何か胸が熱くなる気持ちだ。

 そういえば、こいつが経営する塾に通っていた時、何度か俺と同じようないじめを受けていた女の子の気持ちを共有して優しくして元気付けてやった時もあった。

 その時にも『ありがとう』と笑顔で言われて、ちょっと照れくさかったが嬉しかったんだ。

 それで俺は・・・・。

 そうだ。すっかり忘れる所だったが、俺は橘を許せない気持ちも存在しているのだ。

 そう思って橘の方を見ると、何か無性に憤る。

 でもそれはすんだ事だと割り切ろうとしたが、やはり許せぬ気持ちも存在して・・・もうやめよう。だから俺は橘に、

「これで楓ちゃんの笑顔を取り戻した事で、あんたは成仏するって言っていたよな」

「さあ、どうなんだろうね」

 相変わらずの暢気な笑顔を浮かべて、俺の憤りに火がつきそうになり、それは堪えて、

「困るんだけど」

「もしかしたら明日になったら成仏しているかも」

「そうなのか?」

「わからない」

 ため息がこぼれ落ちそうな時、俺は気分転換に俺が今はまっている美少女巫女奈々のDVDをつけた。

 まあ俺に気がある奴がいるとは聞いたが、でも俺は現実の女とはわかり会えないと思って、アニメの中のヒロインに俺は恋をしている。

 こんな趣味がばれたら、コンビニに来るあの子と今日わかりあえた女の子の楓ちゃんはきっとどん引きするだろう。

 そんな中橘をちらりと見てみると、橘は言う。

「やっぱりアニメって夢があって良いね」

 何か橘にそんな事を言われると無性に腹が立ったが、黙ってアニメを見ることに没頭した。


 次の日の朝、橘が「たっ君」と連呼して俺を起こしてきた。

「何だよ」

 急に起こされて俺はちょっと不快な気持ちに陥っていた。

 時計を見ると、午前六時を示している。

 もう少し眠ろうと布団に潜り込んだ俺に、「たっ君。お別れが来たみたいだ」

 それを耳にした俺は、眠気が一気に払拭されたのごとく、俺は起きあがる。

「そうなのか?」

「うん」

 にっこり笑って、橘が光に包まれ、あまりの眩しさに俺は目をそらす。

 本当に消えてしまうのかと思うと、何か寂しい気持ちになる。

 いつもはうっとうしい存在だと思っていたが、いざこうしてお別れを告げられると、何か複雑だ。だから俺は、

「おい待てよ」

 と引き留める自分が存在していた。


「おい」

 と声と共に俺は目覚めた。

 俺は夢を見ていたのか?

 と思って辺りを見渡してみると、橘は俺が目覚めたことに気がついて、「おはようたっ君」といつもの穏やかな笑顔で挨拶してくる橘が存在していることに、なぜか俺はほっとしてしまった。

「何か叫んでいたみたいだけど、怖い夢でも見ていたの?」

「いや」

 時計を見ると午前七時を回った所だった。

 携帯を確認すると、以前と同じように誰からもかけられていないみたいだ。

 きっと俺は昨日悩みを打ち明けて笑ってくれた楓ちゃんから連絡が来ないか期待していた俺自身が存在していた。

 電話がないと言うことは、きっと楓ちゃんは俺に頼らず、その自分の足で人生を歩んだと安心したが、正直俺の気持ちは頼って欲しいという気持ちでも合った。

 きっと俺は寂しいのかもしれないが、とにかくその気持ちを押し殺して、俺には美少女巫女奈々がいる事を言い聞かせた。

 確かに俺には俺を慕ってくれる、コンビニでこっそりと見てくる女子高生がいるが、俺は今はやりの美少女巫女奈々を思い、恋の妄想を膨らませていた。

 仮に俺とつきあっても、俺はあの女子高生を幸せには出来ないだろう。

 ろくに大学も行けず、ちゃんとした職にも就いていない。

 でも俺はバイトでも誠実に事を成し遂げたい。

 それに店長も俺の事を頼りにしているみたいだし。

 それとついでにこいつも俺の側にいて、認めるのはしゃくだが、一人じゃないことは確かだ。


 仕事先に到着して、店長は気持ちが悪いほど、俺に媚びを売っていた。

 昨日飛び出して無断早退を決め込んだ俺に対して、すごく不安になったみたいだ。

 俺がいなくなったら、この店は回らなくなると。

 とにかく俺は必要とされている。

 そう思える事に俺は嬉しかった。

 今日はいつもより、仕事に熱が入った。

「たっ君たっ君」

 橘の声がして、橘は外に視線を送っているようで、その視線を追うと、俺の事を慕っている女子高生が遠くで見ていた。

 俺と目が合うと、鞄で顔を隠しながら去っていってしまった。

 橘は言っていたが、俺の誠実さを見て惚れたと。

 でも現実の女は・・・なぜだろう?裏切るとは言い切れなかった。

 すると頭に昨日楓ちゃんが見せてくれた笑顔が思い浮かんだ。

 それで俺は思った。

 世の中の女性は俺が思っている最低でえげつない存在ばかりじゃないことに。

 でもあの時、橘は俺の事を裏切って、あいつの嘘を信じて俺は塾にいられなくなった存在になったのは確かだ。

 だから俺は口には出さないが、橘の事を憎んでいる俺も心の中に存在している。

 そう思うと橘は俺の前から消えた方がいいと思ったが、何か分からないが、それを拒む俺自身が存在している。


 仕事が終わって、何か今日は仕事が少しだけ楽しく思えた。

 いつもは渋々ながら仕事をしているが、今日はそうは思えず、何か楽しい。

 このコンビニのバイトも誰かの為になっている。

 そう思うと含み笑いがこぼれ落ちそうな俺は、とりあえずその気持ちを抑えて、いつものように弁当を買って帰った。

 食事も終わって、何となく楓ちゃんの事が気になって、楓ちゃんの事がまとめられたノートを見てみる。

 楓ちゃんは学校のいじめだけでなく、親にも暴力を振るわれているみたいだ。

 その真実を知った俺は、楓ちゃんは大丈夫かと心配した。

 橘がそんな俺を察したのか?橘は、

「楓ちゃんの事が心配?」

「ああ」

 と返事をする。

 何となくぼんやりとすると、楓ちゃんの昨日俺に見せてくれた笑顔が思い浮かび、その笑顔が真っ暗な闇に飲まれて行く事を想像して、何か心配だ。

 ノートを見てみると、楓ちゃんは頑張りやさんで本当に限界に至らないと、橘を頼る事はないみたいだ。

 とにかく何事もなければ良いと思う。


 また俺は夢を見ている。

 傷だらけの俺の前に立ちふさがり、

「やめなさいよ、あんた達」

 と必死に俺を守ろうとする芳山。

 すると俺をいじめていた連中はつまらなそうな顔をして去っていくのだった。

 傷だらけの俺を見つめて、「大丈夫?」と優しい声をかけて、俺に手をさしのべる。

 正直嬉しかったが、幼かった俺は素直ではなく、ひねくれていたのだろう。

 だからその差し伸べられた手を振り払って、

「余計な事をするなよ」

 と言った。

 彼女はショックを受けるどころか、笑って、

「かわいい人」

 と笑ってくれた。

 何だろう。その笑顔を見ると、堪えていた涙がどっと押し寄せてきて、俺は泣いてしまったのだ。

 芳山は優しい笑顔を保ちながら、俺を抱きしめてくれた。

「泣かないの。男の子でしょ」

 彼女の胸の中で俺は泣いている。

 何だろうこの気持ち、俺は初めて人の優しさを感じる事が出来た。

 その後、芳山は俺に何かあると、飛んできて俺を守ってくれた。

 俺は芳山に聞いたよ。

「どうしてこんな俺を守ってくれるんだ」

 って。すると、芳山は、

「何かほおっておけないのかな?」

 とろけるような笑顔でそう答えてくれた。

 芳山はそこそこ優秀だが、そんなかわいいとまではいかない。でも笑うとすごくかわいくて胸がドキドキして、気がつかぬうちに俺の心を奪って行くのだ。

 俺に構えば、蔑ろにされると言うのに、それでも俺の近くにいてくれた。

 そんな彼女に「バカ」と罵ったことも合ったが、彼女は笑顔で「バカだよ」と答える。

 それで芳山と友達になったんだよな。


 ブルルっと振動がして、気がついて目覚めると、俺の携帯が鳴っていたみたいだ。

 着信画面を見ると、楓ちゃんからだった。

 とりあえず、「もしもし」と出てみると、受話器から涙をすする鳴き声が聞こえた。

 気が気でなく俺は楓ちゃんに「どうした」と聞いてみる。

 俺の側でふわふわと浮いている橘も気が気でない感じで身を寄せる。

「ごめんなさい。迷惑はかけたくなかったんだけど・・・」

「迷惑だなんて思ってないよ。とにかくどうしたんだよ」

 楓ちゃんの鳴き声を聞いていると、あまりいい気分にはなれない。けれど俺を頼ってくれて嬉しい気持ちも存在していた。

 それはそれで良いとして、楓ちゃんは泣きながら話してくれた。

 それは学校でのいじめとか、親に虐待を受けているとか。

 いじめの内容を聞いたが、心に黒い何かを注がれるように俺の気持ちは曇った。

 それ以外にも親からの虐待の話も。

 話からして、楓ちゃんは学校にも家にも心休まる所はないみたいだ。

 どうにかしてやりたいが、俺には干渉する余地すらない。

 でも楓ちゃんは俺にこうして打ち明けた事で、何とか気持ちは落ち着いて、収まったみたいだ。

 橘が言うには楓ちゃんは自分の悩み事や困っていることを話すことで、そのストレスを解消しているみたいだ。

 電話が終わる頃、楓ちゃんは泣きながら言うんだ。

「ありがとう。話を聞いてくれて。また今日から頑張れそう」

 と。だから俺は、

「俺でよければいつでも話を聞いてやるよ」

 と言って置いて通話を切った。


 バイトに向かう途中、橘と俺で先ほど泣きながら電話をしてきた楓ちゃんの事を語り合った。

「話を聞くだけでストレスを解消できるって言うけど、本当に楓ちゃん大丈夫なのかな?」

「口には出さないけど、本当は誰かに助けて欲しいと思っているよ」

「でも俺にはその事に関して、干渉する事は出来ない」

「まあ、そうだけど、とりあえず彼女もその事を承知しているよ。まあ僕はホッとしているんだよ。僕以外の他に悩み事を聞いてあげられるたっ君がいて」

 何となく空を見上げると、空は灰色の雲で覆われていた。

 今日は天気予報で午後から雨が降ると。

 だから今日は、折りたたみの傘を鞄に入れて置いた。


 お昼頃になって、憂鬱な雨が降り注いでいた。

 その時、俺はバイト中で今日も誇りを持って励んでいた。

 夕方までには止むと言っていた雨はおさまらなかった。

 仕事が終わり、外に出ると、俺に気持ちを寄せているいつもの女の子は店で雨宿りしていた。

 彼女は俺に気がついていたみたいなので、俺に顔を見合わせはしなかった。

 横目でその女の子の後ろ姿を見ていると、心なしか何か深刻な悩みでもあるんじゃないかとも思ってしまう。だからつい俺は、

「おい」

 と声をかけると女の子はビクッと反応して、おもむろに俺の方を振り向いた。

 その顔はまるで真っ赤なタコのような顔だった。

 声をかけたものの、この後何を話せば良いのか互いに黙り込んでしまい、緊迫した空気が俺と女の子の間に訪れてしまって、何か互いに気まずいという感じだった。

 すると女の子の口から、

「雨宿りしています」

 と礼儀正しくお辞儀をする。

 雨宿りと聞いて俺は鞄に入っている折りたたみの傘を差しだした。

「そういうつもりじゃ」

 女の子は困惑しながら言っていたが、俺は、

「良いから」

 俺は無理矢理のように女の子に傘を貸してあげて、とっさに雨の中を走って行った。

 そこで橘が、

「かっこいいよたっ君」

 何てちゃかすように言われて俺は、

「うるせー」

 と小声で一喝した。


 帰宅してシャワーを浴びながら、俺は俺の事を気にしてくれる女の子の事が気になった。

 あの弱々しい後ろ姿は何か庇護したくなるような気持ちにさせられる。

 何だろう?最初はそのようなつもりはないのだが、あの女の子の事が気になってしまう。

 でも俺は大学にも行っていないし、まともな仕事にも就いていない。

 だから俺が恋人なんて妄想全快で甚だしい。

 そんな時、橘が、

「あの女の子の事が気になるかい?」

 先ほどの行為と俺の今の表情で見抜いたみたいで、何か無性にいらついたが、とりあえず黙り込んでいた。

 あの女の子、俺が思っているような、最悪な女の子ではないような気がした。

 部屋で弁当を食いながら、何となく橘の方を見ると、『たっ君があの子の事を考えている』とでも言いたそうな嫌らしい笑みを浮かべているような感じで俺を見つめる。

 まあ憤りを感じるがこれはもうこいつにとりつかれてから、いつもの事だからあまり気にすることはない。

 さてと、今日も美少女巫女奈々のDVDを見るとするかな。

 現実の女は俺に見向きはしたが、大学にもちゃんとした就職先にもついていない俺なんかを知ったらすぐにどん引きだろう。それにこんなオタクだし。

 そう思うと俺にとりついている橘が憎いがいちいち怒っていたら身が持たないし霧もない。

 だから今日も奈々のアニメでも見て、妄想を膨らまそうと思う。

 昨日橘も言っていたが、アニメは夢があって良いと思う。

 こんなくそったれな世界だが、こうして心を癒してくれるアニメや音楽なんかがある。

 だから世の中捨てたものじゃないと思う。

 明日辺り、また秋葉でも物色するかな?

 貧乏でマンガ本やグッツは買えないが物色するだけでも楽しいし、その後、物色したグッツのアニメのDVDを借りるのも良い。

 そうやって人生を楽しめれば良い。

 とにかくこんな俺を慕ってくれたコンビニに来る女の子の事はとりあえず気持ちだけ受けとっとこうと思う。

 何て考えながらソファーに寝転がりながらDVDを鑑賞している傍ら、橘をちらりと見つめると、どこか遠くを見るように窓の外を見つめている。

 外は相変わらず雨が降っている。

 いつも遠くから見つめる女の子の事が気になり、とりあえず無事に風邪をひかずに帰れたか?少しだけ心配になった。

 きっと明日あの子は多分俺の傘を返しに来るかもしれない。

 それを受け取る時、どんな態度をとれば良いのか?何か緊張してしまう。

 何だよ。だったら貸さなければ良かったんじゃないか?

 でもあのまま濡れて風邪でもひかれたら、何かわだかまってしまって気が引ける。

 複雑な気持ちだ。

 まあ良い。それは明日考えれば良いのだから、今はDVDを見て妄想でも膨らませれば良いと思う。


 次の日仕事中、あの子はやってきた。

 外から見つめていたみたいで、目が合った時、彼女もどうしたら良いのか分からないかのように、俺も何か緊張してしまった。

 何だよ。すげードキドキする。

 以前はこんな気持ちはなかったのに、何で?

 何となく橘の方を見ると、にやにやしながら、

「若いって良いねえ。たっ君も気づいているだろうと思うけど、あの子傘を返しに来たんだと思うよ。

 それであの子、大好きなたっ君にどう接すれば良いのか迷っているんだと思うよ」

「・・・」

 俺はあの子にどうすれば良いのか分からない。

「昨日から気づいていたけど、どうやら、たっ君もどうしたら良いのか分からないみたいだね」

 気づかれた事に無性に腹が立って、罵ってやりたい気持ちに陥ったが、こんな所で誰にも気づかれないこいつにそんな事をしたら、俺は周りから不審な目で見られるから、それは堪えて仕事に専念した。


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