山本大介
次の日、今日のところは申し訳ないが、店長に無理言って仕事を休ませてもらうことにした。
起きて早速楓ちゃんの実家に行こうと部屋から出ると、涙さんが制服を着た格好で、待っていた。
「松本さん。あたしも今日は学校を休んだよ。だから今日は松本さんの力にあたしはなりたい」
どう言っても、ひきそうにないので、
「ありがとう」
と引き受ける事にした。
俺には橘先生がついているが、実を言うとそれでも不安だったんだ。
それで涙さんが協力してくれる事に少し安心した感じだ。
早速、楓ちゃんの実家に行って、陰に隠れて、楓ちゃんが出て来ることを待つことにした。
楓ちゃんの家はいつ見ても立派な感じで、端から見たら、恵まれているような感じもするが、実際はそうではない。
親には虐待を受け、学校では陰湿ないじめを受けているのだ。
そんな楓ちゃんの事を思うと、心を鋭いナイフで切りつけられているような感覚に陥る。
それで俺は、あの事を重ねて・・・やめよう。今は楓ちゃんを助ける事を優先して行った方がいいだろう。
どういう経緯で楓ちゃんが親に連れて行かれたか分からないが、楓ちゃんは俺たちとの生活を幸せそうな笑顔で送っていた。
そんな楓ちゃんの幸せを奪おうとするなら、誘拐容疑をかけられたって良いと思っている。
涙さんとの作戦でとりあえず、楓ちゃんが一人になった所を助ける事を提案した。
でも時間がたつにつれ、楓ちゃんは姿を現す事はなかった。
「楓ちゃん、現れないね」
ぼそりと涙さんが言う。そこで橘先生が、
「もしかしたら楓ちゃん。何か別のトラブルに巻き込まれたかもしれないね」
(別のトラブるって)
想像もしたくないが、ここは勇気を持って橘先生に聞いてみる。
「わからない。でも楓ちゃんはニュースになるほど、二度の行方不明で有名になっている。もし見つかれば、朗報として全国に知らされていると思うんだよね」
そこで俺は考える。
じゃあ何のトラブルに巻き込まれてしまったのか?
想像もしたくないし、悪い夢でも見ていると思いたいが、これは紛れもない現実に起こっている事だ。
昨日の事を振り返ってみる。
坂下さんは楓ちゃんが言ったことをせっぱ詰まった表情で言っていた。
『心配はしなくても良いけど、そういってもみんな心配するよね』
って。
トラブルって。考えようとすると、その場で発狂してしまい思わず叫んでしまった。
その声を聞いて驚いた表情とともに心配そうな視線を送る涙さんだった。
「どうしたの松本さん」
「いや」
額からびっしりと汗をかいていて、呼吸も乱れていた。
そんな俺に対して、心配で駆け寄って涙さんは背中をさすってくれた。
「とにかく無理しない方がいいんじゃない?」
俺は一度深呼吸をして落ち着いてから、
「どうして俺はこんなに怯えているのかが分からない」
俺の彼女である涙さんに隠さず今の心境を説明した。
「無理するからよ。松本さんの気持ちは十分分かるよ。でもそれで自分の体を壊してしまったら、もともこもないと思うよ。だから今日の所はこれくらいにして、松本さんは帰った方が良いと思うよ。後は私と坂下さんでやっておくから」
時計を見ると午後一時を示していた。
確かに昨日からずっと楓ちゃんの事が心配で頭の中が破裂するほどだった。
それでちょっと無理をしてしまったのかもしれない。
だから俺は、
「もう少しだけ見張るよ」
その意見には涙さんは渋々ながら認めてくれた。
それと先ほどの橘先生の意見も気になる。
楓ちゃんが見つかったのなら、世間はその事でいっぱいになっていると。
それよりも俺は一刻も早く楓ちゃんを助けなきゃいけない。
だからこうして何時間も楓ちゃんの家の自宅前で張り込みをしている。
時事刻々と時は過ぎていき、楓ちゃんの実家から、楓ちゃんはおろか、誰も出てこなかった。
楓ちゃんが出てきてくれる事を心から祈ったが、その祈りはもろく、叶いはしない。
何だろう?妙な汗が出てきた。そんな俺を見て涙さんは、
「松本さん。後は私に任せて、とりあえず帰りなよ」
「いやもう少し」
「そんな言葉もう聞きあきたよ。とにかく帰れ」
そういわれて俺は涙さんに腹部を蹴られて、悶絶してしまう。
それは俺に対する優しさだとは分かっていたが、あまりにもひどいと思って、
「何するんだよ」
反論しようとすると、涙さんは潤んだ瞳を俺に向け、
「あなたも楓ちゃんも同じじゃん。自分よりも困っている人を優先して行くじゃん。
そんな松本さんの事大好きだよ。でもそれで本当に体を壊してしまったら、あたし達が迷惑なのよ。その事も考えて」
涙さんの俺に対する気持ちが心に突き刺さり、俺は言う通り、ここは涙さんに任せて帰る事にする。
「そうだよな。無理して俺が倒れちまったら、元も子もなくなるよな」
と帰り道、何となく橘先生に呟いた。
「・・・」
返答もしない橘先生に不審に思い、橘先生の方を見ると、その目を閉じて何か考えているような様子だった。
もしかしたら、楓ちゃんの手がかりを模索しているんじゃないかと思って、
「何かいい方法見つかった?」
「たっ君、僕は気づいたよ」
「何に?」
「ここでは何だから。とりあえず、涙さんに言われた通り帰ろう」
何だろう?どうして俺はこんなに恐れているのだろう。 橘先生は気がついたと言っていた。
何に気がついたのか、俺はそれを聞くのがなぜか怖かった。
正直橘先生の話を聞きたくないが、それは聞かなくてはいけない事だともなぜか思ってしまう。
そして家に到着して、俺は息を飲み、橘先生の気がついたことに耳を向ける。
「たっ君、ここは勇気が必要だ」
その勇気と聞いて俺はおののき恐れて、死ぬほど怖い気持ちに陥る。
そう。俺は・・・。
そう。感じていたんだ。
俺はその真実から逃げようとして、楓ちゃんが両親に連れ去られたのだと思いたかったんだ。
「俺は何て言う偽善者だ」
何て涙と共に言葉がこぼれた。
「偽善者じゃない。本当の偽善者なら、そのように苦しんだりはしない」
橘先生の言葉に少し心が潤って、気持ちがほぐれた。続けて橘先生は、
「僕が出来ることはたっ君にエールを送る事だけだ。楓ちゃんはたっ君にしか救えないと僕は思っている。そのたっ君の勇気にかかっている」
呼吸が整わず、息を乱していた。
苦しい。まるで過呼吸患者のような症状が俺を襲った。 何だろう?奴は笑っている。そいつの顔を思い出そうとすると、心が引きちぎられそうな気持ちに駆られる。
「違う。やめてくれ」
首を左右に振ったり、とにかく俺は情緒不安定な状態に陥っている。
でも死ぬほど怖くて、思い出す事すら出来ないが、思い出さなければいけないと思っている。
でなければ、楓ちゃんは真っ暗な深い闇に消えてしまうような気がする。
出来れば思い出したくない、しかし思い出さなければ、また俺は同じ過ちを犯してしまう。
そうだ。あの時、ほんの少しの勇気があれば、あんな事にはならなかった。
だから俺は思い出さなければいけないと分かっていながら、思い出したくもない。
俺の中のどんな逆境にもひるまない勇気と臆病な気持ちが葛藤している。
答えは簡単だ。
でも・・・。そんな葛藤の中、
「松本さん」
と涙さんが目の前に現れた。続けて、
「楓ちゃんの実家には坂下さんに代わってもらったよ」
涙さんは情緒不安定な俺の姿を見て、
「どうしたの松本さん」
と心配をかけてしまった。
「俺は一人じゃない」
そういって涙さんの目を見た。
「どうしたの急に?」
そこで俺ははっきりと大きな声を出して言う。
「涙さん。力を貸してくれ」
彼女は話が見えないとでも言いたいのか?きょとんとして立ち尽くしている。
そして俺は涙さんに何の断りもなく抱きしめた。
でも涙さんは俺の包容を拒む事なく、
「何があったか分からないけど、良いよ」
と穏やかな口調で呟いた。
そうだよ。俺は一人じゃないんだよ。
こうして橘先生を始め、出会った仲間がいる。
俺は楓ちゃんを助けたい。一人じゃない。
だからもう臆病な涙にかられる理由などない。
根拠などないが、この事件は奴が絡んでいると。
もしかしたら、俺の思い違いなのかもしれない。
でもなぜか奴を感じてしまう。
小学校当時の俺のかけがえのない存在であった、芳山を自殺に追い込み、陰でほくそ笑んでいた奴。
そして俺は思い出す。
心壊れそうな気持ちだが、心壊れないように支え抱きしめてくれる涙さんが俺にはいる。
だから、俺はその名を叫ぶ、
「山本大介」
と。
はっきりと脳裏に現れた時、以前から山本を感じていたのだ。
臆病な俺は思い出したくないあまり、見て見ぬ振りをしていた。
気がつけば俺は地平線を走っていた。
「ちょっと松本さん」
俺の後を追いかけてくる涙さん。
それはともかく俺は妙に激しく嫌な予感がする。
俺には分かる。そんな俺を見てほくそ笑んでいる山本の姿が。
山本は同様に狂った奴らに崇められている。
そんな奴の気持ちは分からないし俺には分かりたくもない。
奴は完全犯罪のスペシャリストとして、ネットを通じて、奴の犯罪に荷担する狂った連中がいる。
そんな奴らに楓ちゃんが自殺に追い込まれそうになっている。
もしかしたら、俺の勘違いなのかもしれないが、いや勘違いであって欲しい。とにかくその真実に向き合わなくては、楓ちゃんを救うことは出来ない。
到着したのは俺が昔通っていた小学校だった。
「ここって学校?」
涙さんはどうしてここなの?と言いたげな感じで、疑問に思っている。
「とにかく探そう」
校舎に入ろうとしたところ、校庭の隅に置かれている黒いワゴン車が気になった。
すかさず、そこに向かうと、中に気絶している楓ちゃんの姿があった。
安心したのもつかの間、この車何か臭う。
それは木炭の臭いだった。
これは楽に死ぬことの出来る木炭自殺だとわかり、
「楓ちゃん」
と叫びながら、俺の拳でドアをたたき割ろうとしていると、後ろから、涙さんの声が聞こえて、
「松本さん。どいて」
涙さんはどこから持ってきたのか、大きな金槌を降りあげて、車のガラスを破壊した。
中に入り、楓ちゃんの意識はなく、「楓ちゃん。楓ちゃん」と頬を軽くたたきながら、その意識を取り戻そうと必死だったが、意識は戻らなかった。
「楓ちゃん」
と楓ちゃんの唇に耳を寄せると、かすかだが呼吸をしている事が分かった。
とにかく楓ちゃんを車から降ろして、スマホで救急車を呼ぼうとしたが、涙さんに、
「このまま救急車に連絡したら、親権を握っている親の元に返されるわ」
「そんな事どうでも良いよ。とにかく楓ちゃんが死ぬのは嫌だ」
そういってスマホを手に取り、救急車を呼ぼうとしたところ、橘先生が。
「たっ君。涙君の言うとおりかもしれない。それに僕たちがかくまっていた事がばれて、たっ君達は社会的にも消されてしまうかもしれない」
「あんたまで何を言っているんだ。楓ちゃんの命には代えられないよ。社会的地位が何だよ。そんなのくそくらえだ」
と涙さんの存在もはばからず、橘先生に罵った。
スマホを機動させ救急車を呼ぼうとすると、何者かにスマホを取り上げられた。
「楓ちゃん。楓ちゃん」
意識を失っている楓ちゃんを呼び起こそうとしたが、呼吸はなく、またあの時と同じ事に俺はもはや叫ぶしかなかった。
そして俺の目の前に現れたのは、この事件を企てたと思われる山本だった。
あれから十年ぶりくらいか?相変わらず、一見すると女性のような顔立ちで虫一匹も殺せないと言うような感じの風貌をしているが、その奥に秘められた心はもはや見るに耐えない色に染められている。
奴は不適にその目を細めて、唇をつり上げて笑っていた。怒り狂った俺は、
「何がおかしい?」
「・・・」
俺のその悲しい涙と怒りの涙を混じりあわせながら流している俺の顔を見て変わらず不適に笑っている。
「くそやろー」
と罵りながら、奴に立ち向かおうとするが、奴の犯罪に荷担する連中に遮られて、俺は帰りうちにあい、うっすらとした意識が奴の不適な笑みを最後に俺は、
何か瞳に光にくすぶられ、目覚めると、俺は自分の部屋のベットの上で眠っていたみたいだ。
とりあえず、夢だった事にほっと安堵の吐息を漏らした。
どうして俺はこんな所で眠っているんだ。
「たっ君」
橘先生の声が聞こえて、
「俺は」
何がおかしいのか穏やかな笑顔の橘先生。
そこで俺は何か重大な事を忘れているような気がして、思いを巡らしていると、楓ちゃんの事が心配になった。
「そうだ。楓ちゃんは?」
「大丈夫だよ。楓ちゃんならさっき意識を取り戻したから」
その言葉を聞いても俺は安心できず確認しなきゃ、気が済まなかった。
「楓ちゃんはどこにいるんだよ」
「楓ちゃんなら、坂下さんの家で安静にしているよ」
体を起こして部屋を出ようとしたところ、玄関で涙さんとばったり会ってしまった。
「涙さん」
「気がついた?」
それよりも楓ちゃんの事が心配で外に出て、楓ちゃんがいると思われる坂下さんの部屋に入った。
楓ちゃんが眠っているベットの横で心配そうな表情で見つめている坂下さんの姿があった。
「坂下さん」
「あら王子様の登場ね」
こんな時にくだならい冗談を言っている坂下さんに一喝してやりたいと思ったが、そんな事よりも楓ちゃんは無事なのかこの目で確認したかった。
「楓ちゃん」
「静かにしなさいよ。王子様。楓なら大丈夫だよ」
楓ちゃんの顔を見て、呼吸を確認すると、呼吸はしていて無事だった事にとりあえず安心した。
それと同時に、頭に何か痛みを感じて「痛」と痛みの有るところをさすると、後頭部の辺りに絆創膏のようなものが張ってある感触を手で感じた。そんな時、坂下さんが、
「ごめんなさいね。あんたが妙な事をしたから、ちょっと気絶させてもらったよ」
一瞬疑問に思ったがすぐに思い出した。
俺は楓ちゃんが死んでしまうんじゃないかと気が気でなくなり、救急車を呼ぼうとしたのだった。
それで俺を気絶させた事に憤りを感じて、年輩の坂下さんに対して、
「あんたふざけんなよ。楓ちゃんの命よりも社会的に抹殺される方が怖いのか?」
と罵った。すると、坂下さんがその氷のような冷たい視線を俺に向けて、俺は催眠術をかけられているかのように動けなくなる程、ぞっとしてしまった。
「そうね。でももし仮にそうだとしても、楓の事を考えてあげないとね」
反論したいが、女に屈するなんて情けなく思うが、坂下さんに睨まれて何も言えなかった。続けて坂下さんは、
「もし楓のせいであたし達が社会的に抹殺されたら楓はどう思うだろうね」
その瞳を閉じて、どこか遠くを見るような目つきで窓の外を見上げる。
俺は坂下さんの催眠術のような呪縛を解くかのように、反論した。
「でももし死んだらどうするんだよ。俺の事はどうだって良いよ」
「王子様の為じゃないよ。あたし自身の為にやったんだよ」
「あんたは自分の事しか」『考えてないのかよ』って勢いで言おうとしたが、その気持ちは何か分かるので、思いとどまるように言わなかった。
坂下さんはそんな俺を一瞥して、たばこに火をつけて窓を開けて、ため息のようなものと共にその煙を吐き出して俺を見つめた。
「王子様だったらあたしの気持ち、分かるよね」
と妖艶に微笑んだ。
坂下さんに聞いたところ、坂下さんも楓ちゃんが親にさらわれた事に対して、疑いを感じて、問題は俺にあることに気がついたようだ。
それで俺の後を追うように、その鋭い洞察力をひらめかせ、楓ちゃんが自殺しようとしたところまでたどり着いたみたいだ。
まあとにかく楓ちゃんが無事で本当によかった。
そう思って背を向けて、出ていこうとすると、心配そうな表情をして玄関で俺たちのやりとりを見ていたと思われる涙さんがいた。
涙さんと目が合うと、その目を閉じて、言う。
「少しは頭を冷やしたらどう?」
涙さんの言う通りだ。
俺は少し頭を冷やした方が良いと思って、部屋に戻った。
俺は言われた通り、頭を冷やすかのように考え事をする。
もしあの時、俺が救急車を呼んで楓ちゃんを助けられても、俺たちは誘拐容疑で、社会的に抹殺されていたのかもしれない。
仮にそうなったら、楓ちゃんのような優しい子だったら、自分自身を攻め続け、一生その苛みから抜け出す事が出来なくなるかもしれない。
もし俺が楓ちゃんの立場だったら、俺もそうなっているのかもしれない。
そんな楓ちゃんも嫌だし俺も嫌だ。
坂下さんも同じ気持ちなのだろう。
胸に手を当てると橘先生が、
「たっ君。また一つ大人になったね」
『うるせー』と言ってやりたかったが、ここは素直に「ああ」と認めて置いた。
またバイトを一日休んだ事を店長に謝って置いた。
店長に怒られてしまったが、怒るのも無理ないと、反省させられる。
ベットの上に座り込んで、頭を伏せて考えていると。
「松本さん」
と涙さんの声が聞こえたと同時に涙さんは俺の隣に寄り添ってきた。
そんな涙さんを見ると、改めて思わされるが、本当に楓ちゃんが無事だったと言う事に、安堵してこらえようとしても止めどなく流れ落ちる涙が頬を伝って流れてきた。
俺は泣きながら、涙さんに抱きつきながら言う。
「もし、楓ちゃんが真っ暗な闇に葬られたら、俺本当にどうしようと思った。
もうあんな思いはしたくない。
もう俺のせいでかけがえのない人がいなくなるのが嫌だ」
と俺は涙さんの包容の中、小さな子供でも滅多に見せないような感じで泣きじゃくった。
涙さんはこんな俺を菩薩や聖母のように包みこんで抱きしめてくれる。
「あたしもそんな松本さんを見るのは嫌だよ。松本さんは一人じゃない」
それは気休めや、ただの言葉だけの意味じゃない。俺の求めていた嘘偽りのない真実の愛だ。
こっぱずかしい事を思ったが、今はこうして菩薩や聖母のような涙さんに抱きしめられていたい。
涙が乾いた頃、急にお腹が空いて、涙さんが簡単なパスタ料理を作ってくれるので、お言葉に甘えた。
「涙さん。学校は大丈夫なの?それと施設の子供達の世話もあるし」
「一日くらい休んでも大丈夫。それにママに事情を話したら松本さんの側にいてあげなさいって」
「そう」
涙さんには色々と迷惑をかけてしまって申し訳なく思ってしまう。
食事が終わって、楓ちゃんの様子でも見ようと、坂下さんの部屋に行く。
相変わらず、坂下さんは楓ちゃんの看病でテンテコマイって感じだ。そんな坂下さんに、
「坂下さん。楓ちゃんの様子はどうですか?」
「今の所は大丈夫だよ」
「どうして楓ちゃんはあんな事をしたんですかね?」
「今は安静にして眠っているけど、気がついたら訳を聞くことにするわ。さっき気がついた時、気が動転していて、言葉すら出せない状況だったからね」
心配そうな眼差しを健やかに眠っている楓ちゃんを見つめて言う。