良太
燦々と照りつける太陽の木漏れ日と、清々しい空気に包まれて何か気持ちがよく、まあ絶好の登山日よりだと思う。
そんな山に登りながら、何となくちらりと俺の横を歩く楓ちゃんをちらりと見て、偶然目があってしまい、楓ちゃんは先ほどと同じように申し訳なさそうに、
「ごめんなさいね。隆さん」
「どうして謝るの?」
「いや、何か私のわがままにつきあわせちゃって」
まあ、確かに今日楓ちゃんにつきあわされたのはちょっと強引だった為、その通りわがままにつきあっている。
それと楓ちゃんとこうしてつきあうのも、今日が最後にしておいた方がいいだろう。
こんな俺を好きでいるみたいだし。
それとは別に、この登山は橘先生との果たせなかった約束だったみたいだからな。
勾配な斜面が続く登山道、しばらく歩いていて、額に汗が滲んで辛くなってきた。
それに喉がカラカラで、水分補給の為に飲み物を買っておかなかった事に後悔していると、楓ちゃんが、
「隆さん。あそこのベンチで座って少し休みましょうよ」
「うん」
楓ちゃんの言う通り、登山道の脇に設置されているベンチの上で楓ちゃんと共に座る事にした。
それよりも喉がカラカラですごく辛い。
そんな俺を察したのか?楓ちゃんが、
「隆さん」
と言って、水筒を差し出して来た。
「ありがとう」
と言って俺は何のためらいもなく、飲んで喉の乾きを潤し、本当に蘇った感じだ。
はっきり言ってこんなに初心者級と言われている高尾山の登山が辛いとは思わなかった。
楓ちゃんの方を見ると、楓ちゃんも辛そうに息を切らしている感じだった。
それにベンチの前に設置されている看板を見ると、まだ半分に満たない五号目だった。
まだ続くのかよ。何て心の中で弱音を吐いていた。
少し休んで水分補給もして、立ち上がり出発した。
行きずりの歩行者に会う度に挨拶をしていたが、そんな余裕もなくなって黙り込んでいたが、楓ちゃんは疲れながらもはっきりとした声で挨拶をしていた。
何かそんな楓ちゃんと比べて俺は情けないと思ったが、疲れはてていて俺にはもう余裕などなかった。
楓ちゃんと橘先生との約束か何か知らないが、正直もう帰りたいと思っている。
でも口が裂けてもそんな情けない事は口には出来ない。
橘先生を見ると、登山者の格好して、優雅に山を満喫しているみたいだ。
そういえばこの人は幽霊だから疲れは知らないのだろう。
そんな橘先生を見ていると、何かムカついてくる。
「たっ君頑張れ。楓ちゃんも頑張れ」
何て両手に扇子を持って、応援のつもりか?何かしゃくに障られる気分だが、怒っても仕方がないし、俺にはもうそんな余裕なんてない。
疲れはてた俺は一歩一歩斜面を踏みしめながら思う。
楽しくないし、しんどいし、足が痛い、もう嫌だ、帰りたいし、何で俺は橘先生の代わりに楓ちゃんの約束を果たさなくてはいけないのか?何て心の中で愚痴を言っていた。
でも、それを楓ちゃんに言ったら、きっと悲しむだろうから、その愚痴を言わないだけの精神力は保っておきたい。
俺は初心者級の山だからと言って、甘く見ていて、その約束を軽く引き受けてしまった。
橘先生は言っていたが、物事を侮って軽く引き受けると色々な困難にぶち当たると。
言われた時は何となく分かっていたが、それは身を持って知った。
とにかく本当に辛い。
もしかしたら、楓ちゃんの約束を引き受けていなければ、今頃、久しぶりにスロットを堪能していたのだろう。
楓ちゃんは疲れていないだろうか?楓ちゃんの方に目を向けようとすると、いない。
ちょっと心配になって辺りを見ると、楓ちゃんはペースが速くいつの間にか俺より先に行っていた。
「隆さーん」
先の方で手を振る楓ちゃん。
とりあえず一歩一歩斜面を踏みしめながら、先を行った楓ちゃんのところにたどり着く。
「隆さん。疲れたでしょ」
コクリと頷いて、もはや優しい言葉も言えず、かといって愚痴をこぼしたいと思ったが、とりあえず耐えた。
「もう少しだから頑張りましょう」
楓ちゃんも汗まみれで、激しく息を切らしていたが、何か楽しそうだ。
そんな楓ちゃんを見た事と、もう少しだと言う事に心が一転して、俺は笑えるようになった。
看板を見ると、九号目に突入していた。
そしてもう少しだと自分に言い聞かせ、一歩一歩斜面を踏みしめてやっと頂上に到着した。
今日は休日だからか、頂上の広場では登山客で賑わっていた。
それはともかく、そこから見える景色は絶景だった。
透き通る青空の下に都会のビルや富士山なんかも見渡せて、俺は疲れている事なんか忘れて夢中になってしまい、思わず「すげー」何て叫んでしまった。
「本当にすごいね」
と橘先生。
それよりも、お腹がすいてしまった。
高尾山には初めて来たが、以前ニュース何か見て、出店があると知っていて、俺はあえて弁当は持参していなかったので、ここで楓ちゃんと飯にするのはどうだろうと思って楓ちゃんの方に振り向くと、楓ちゃんがいないと思ったら「隆さーん」と木で作られたテーブルの上に楓ちゃんは持参していたお弁当を広げていた。
「楓ちゃん」
と言って、行くと、
「お弁当作って来ましたので、とりあえず食べてください」
メニューを見てみると、おにぎりにサンドイッチ唐揚げにゆで卵とちょうどお腹が空いていたので、おいしそうだった。
「食べて良いの?」
と聞いてみると、楓ちゃんはにっこりと笑って、
「どうぞ召し上がってください」
「いただきます」
と言っておにぎりを摘んで食べると、それはもうどんな高級な素材を使った料理よりもおいしいと言っても過言じゃない。
それにおにぎりの中身は俺の大好物のシーチキンが入っていた。
そういえば楓ちゃんにいつかは忘れてしまったが、俺がシーチキンのおにぎりをほおばって食っていたところを見られた事があったっけ。
もう楓ちゃんには至れり尽くせりって感じで恐れ入ってしまう。
「おいしいよ」
と。俺が言うと楓ちゃんはその顔を綻ばせて嬉しそうにしていた。
食事がすんで、しばらく二人で高尾山の山頂の景色を見ていた。
そこで橘先生が、
「たっ君来て良かったでしょ」
(ああ)
まあ、山頂に向かっている時を振り返ってみると、愚痴をこぼしそうになった自分が恥ずかしく思ってしまう。
それはそれで良いとして橘先生は、
「考えて見れば分かることだけど、登山って人生そのものだと思わない?」
(ああ)
確かにそうだなって思って返事をする。
「幸せとはただそこにある山のような物だと、僕は思うんだよね」
(なるほど)
「それは決して逃げたりはぜず、辛いけど、自分から登っていけばその幸せは手にする事ができると思っているんだよね」
(それで楓ちゃんとそんな約束をしたんですか?)
「まあ、それもあるけれど、たっ君に言づてで僕が言った事を楓ちゃんに伝えておいてくれないかな?」
そう言われて橘先生の方を見ると、まじめでひたむきな顔をしていた。
それで絶景である景色を眺めながら、遠くを見ている楓ちゃんの方を見て、俺は、
(いや、その必要はないと思うよ)
すると橘先生は、
「ここはたっ君に一本とられたね。彼女もう僕が言いたいことを、もうすでに分かっているみたいだね」
(だね)
もう少しだけ、この絶景を見て幸せを感じていたかった。そんな時である。
「ねえ隆さん」
「うん」
俺が返事をすると楓ちゃんは真摯な瞳で俺を見る。
「私隆さんの事が好き」
その気持ちは知っていたが、言葉に出して言われると、心臓を握り絞められるほど鼓動が高鳴り、頭に血が上って鼻血が吹き出そうな程だ。
困惑した俺は、
「えっあっえっ」
と、しどろもどろになってしまい、そうなった場合、きっぱりと断ろうと決心したが、それが鈍ったと言うか、しばらく俺と楓ちゃんの黙りが続いて、とにかく俺は頭の中を整理して、俺は、
「ごめん。俺にはもう花里さんがいるから」
「分かっている。ただこの思いを伝えたかっただけなの」
「・・・」
「隆さん。目を閉じてくれませんか?」
言われた通りその目を閉じると、唇に何か生暖かい物を感じて、その目を開けると、楓ちゃんの唇が俺の唇に重なっていた。
俺はとっさに離れて、
「何するの?」
楓ちゃんは申し訳なさそうに、
「ごめんなさい」
と謝る。
「・・・」
こんな状況に見回れたのは生まれてこの方初めてなので、俺はどんな対応をして良いのか分からなかったので黙る他なかった。
「ごめんなさい」
再び楓ちゃんは謝って、
「こうでもしないと隆さん。私の唇を奪ってはくれないと思ったから。
もう私と隆さんは恋人関係にはなれないと分かっていた。それは花里さんが隆さんの恋人になる以前から。私には隆さんを支える力はない。
だからせめて大好きな隆さんのこの思いだけは伝えたかった。
私の体はもう親にぼろぼろにされているけど、キスだけは守るというか、親は私の体目当てで、キスはしなかった。つまりそれは私を愛しているのではなく、ただ私の体目当てで・・・」
それ以上は何かいたたまれなくて、俺は楓ちゃんの言葉を遮って、
「もう良いよ。確かに楓ちゃんの気持ちは受け取ったよ。とにかく楓ちゃんには俺よりもすてきな人が現れるよ。この高尾山を登ったように人生を歩んでいければ。
それは本当だよ。
もしそれが嘘だったら、俺の喉を切り取ってくれてやっても良い」
すると楓ちゃんはその瞳から涙を流して笑って、
「ありがとう」
って言ってくれた。
そうだよ。楓ちゃんはもう一人じゃない。
坂下さんも俺も花里さんも橘先生だっている。
だから楓ちゃんがその気になれば、その人生をどんな素敵な色にも染める事が出来る。
楓ちゃんが決めた事は、楓ちゃん自身が頑張らなきゃいけないが、俺たちはそんな楓ちゃんを応援する事だって出来る。
だからもう楓ちゃんは心配はいらないのかもしれない。
山を下った時も一苦労であり、俺と楓ちゃんは互いに形にはない生きる強さを手にした感じだった。
それは百万ドルを差し出しても手には入らない大切なものだと俺は思うし、楓ちゃんも思っている。
そう思うと俺は以前は拒んでいたが、橘先生と出会って良かったと改めて思った。
一人の出会いで、その人と絆を深めれば、たくさんの人と出会い、またその人たちとの絆も深まって行く。
そんな出会いや絆を深める事を繰り返しているうちにやがて、地球の裏側にいる人たちにも伝わるんじゃないと言うのは言い過ぎだと思うが、今はそんな気持ちだ。
まあ、それは今日のような登山のように、人生を歩む中にあるんだろうな。
だから俺も楓ちゃんも今日の登山のように、夢に向かって頑張らなくてはいけないのだろう。
それは山に登る以前から分かっていたが、こうして改めて経験して知ることによってその思いは強まるのだと勉強になった。
それに人とふれ合わなければ、自分の事も分からなかったし、色々な事を知る事は出来ないだろう。
今の時代、分からないからと言ってパソコンで検索して分かったような感じではダメなのかもしれない。
そんな人達に出会ったら、登山を勧めるのも良いのかもしれない。
まあ、人はそれぞれ違うから、すべて分かり会えるとはならないと思うけどな。
それでも俺はネットの中ではなくリアルに人と出会い歩んでいきたい。
とにかく今日充実して、明日にはまた笑える自分がいて嬉しい。
帰り電車の中、よほど疲れたのか?楓ちゃんは俺の肩に寄り添って眠っていた。
先ほどの楓ちゃんの突然の口づけには驚き、あの感触が頭から離れず、思い返して見ても、胸がドキドキする。
こんないたいけな女の子があんな大胆な事をするなんて。
この事は花里さんには言わず、俺の心の奥底にしまっておこうと思う。
いくら目ざとい花里さんでも、そこまでの洞察力はないだろう。
あれから楓ちゃんは相変わらず、坂下さんの世話になっている。
楓ちゃんはあの日以来から、活発的になり、坂下さんのところでバリバリ働き、女としての魅力が一段とあがった感じで、俺は人知れず、もったいに事をしたと、少し後悔している。
それはそれで良いとして、俺には花里さんと言う彼女がいる。
花里さんと共に俺たちは切磋琢磨して、それぞれの夢に向かって張り切っていた。
そんな中、辛い事もあるが、頑張らないと良い思いでは作れないことを知って、日々夢に向かっている。
恐れる物は何もないと言い切りたいが、一つだけ俺には悩みがある。
それは夜な夜な、思い出すと心が壊れそうな気持ちに翻弄されてしまう夢だ。
夢から覚めた俺は、汗まみれで、俺に取り憑いている橘先生に『うなされていたよ』って心配してくれる。
どうしてあんな夢を見てしまうかは分からない。
こんな事、橘先生や俺の彼女である花里さんに言っても使用がないと思っている。
いや話す事、それ以前に思い出す事すら出来ないでいるのだ。
これは俺の問題で、日々思う事だが、その忌まわしき過去の記憶を思い出さなければいけない時がくるんじゃないかと感じている。
予言とかそういった不可解な類は信じないけど、なぜかそう思ってしまう。
もしその日が来るなら、いつなのか分からないが、恐怖を感じたりもしている。
そんな日々を送りながら二週間の時が過ぎた。
バイトが終わって、今日、花里さんは用があるようなので、共に勉強はできないと言っていた。
帰りにバイト先の近くのスーパーで買い物をしていると何やら聞き慣れた声が聞こえてきて、その方向に目を向けると、小学生中学年くらいの女の子を連れた花里さんの姿だった。
偶然出会った事に声をかけようとするが、彼女の見たことのない一面を見て、しばらく声をかけずにいた。
それはその小学生の女の子に対して、見ているだけで見とれてしまうような穏やかな笑顔で接しているからだ。
そんな時、橘先生が、
「彼女いつもあんなだけど、施設で普段は優しいお姉さんであるみたいだね」
(ああ)
「花里さん」
と俺が声をかける。
そんな花里さんが俺に気がつくと、その穏やかな笑顔から一転していつも俺に接してくるきつい目で俺を見つめる。
「何であんたがこんなところにいるのよ」
そんな花里さんを見て、その連れていた小学生は、恐ろしい物を見るような目で見つめて怯えていた。
「涙お姉ちゃん?」
と。泣きそうな顔をしている。
そんな姿を見ている小学生にはっと我に返り、
「何でもないのよ瞳ちゃん」
と先ほどの穏やかな笑顔でそういった。
俺は空気を読んで、他人のふりをして立ち去ろうとしたが、花里さんに呼び止められる。
「どこへ行くのよ」
「いや俺はいない方が良いと思って」
「夕飯まだなんでしょ」
と言う事で俺は花里さんが暮らす児童養護施設に行くことになった。
その帰りに花里さんは俺に対してはいつも、きつく接する花里さんであったが、その瞳ちゃんに対しては穏やかな笑顔で接している。
表向きは俺に対する態度はきついが、施設の中では穏やかな笑顔でみんなの世話をしているみたいだ。
花里さんがこんな裏表がはっきりしている女性なんて知らなかった。
施設に到着して、その外観を見ると、民家と代わらない木造の一軒家のようなところだった。
まあさっき、いつか俺を花里さんが暮らす施設に誘いたいと言っていたっけ。
中に入ると、数えて五人の小学生、もしくは幼稚園児なんかが挙って玄関まで見送りに来た。
「お帰り涙お姉ちゃん」「今日はカレーでしょ」等々、花里さんは子供達に慕われている。
花里さんはそんな子供達に対して、いつも俺には見せてくれなかった穏やかな笑顔で、
「あんた達、今からご飯作るから、それまで宿題でもして待っていなさい」
と言うと、みんな「はーい」と返事をする。
そして俺に、きつい視線を送って、
「あんたは食堂で待っていて」
言われた通り食堂に行くと、八人くらいを囲めるテーブルの一つのイスに座って何か分からないけど落ち着かなかった。
「たっ君、どうしたのそわそわして」
「何か落ち着かなくて」
「それよりも、施設の彼女を見て僕も驚いたよ」
それを聞いて何か切なくなってくる。
彼女とつきあい始めて、まだあれはやっていないが、半年になる。
そう思うとついこんな事を口走ってしまう。
「彼女俺の事嫌いなのかな?」
って。
「どうしたら、そんな発想が出てくるの?そんな事あるわけがないじゃん」
「俺はこの半年間、彼女のあんな姿を見た事がないからな」
「まあ、それは僕も驚いたけど、詳しくは分からない。あの素直じゃない彼女自身を出せるのはたっ君しかいないと僕は思うよ」
「そうなのか?」
「多分ね」
多分なのかよ。
食堂にかけられているアナログ式の時計を見ると十九時を示していた。
子供達が隣の部屋で戯れているのか?はしゃぎ声が聞こえる。
そんな時、突然ドアが開きだして、その方向に目を向けると、男の子が俺に言う。
「兄ちゃんは涙お姉ちゃんの何だよ」
何だよって聞かれて、正直に答えようとするが、彼の顔を見て分かったが、涙さんの事が好きだと言う事にすぐに気がついて、正直に言ったら、ショックを受けそうなので、何て言ったら良いのか俺は迷う。
そんな迷っている俺に対して男の子は、
「質問に答えろよ」
俺は何て答えれば良いのか分からなくてとりあえず、話題を変えて紛らわせた。
「君名前は?」
「橋口良太九歳。将来涙お姉ちゃんと結婚する約束をしたんだよ」
そんな良太君の事を聞いて、花里さんは愛されている事に心がほっこりとしてしまって、つい笑ってしまった。
「何笑ってんだよ」
怒鳴りながら、俺は良太君に臑を思い切り蹴られて、ムカついて締めてやりたいと思ったが、子供のした事に腹を立てたって仕方がないと思ってこらえた。
思い切り臑を蹴られてもだえていると、花里さんが食堂に現れた。
「どうしたの松本さん」
俺を心配する傍らで良太君が、
「涙お姉ちゃんは俺と将来結婚するんだよな」
「良太、あなた松本さんに何かしたの?」
叱咤するような口調で少々威圧的な視線を良太君に向ける。とにかく俺は、
「大丈夫だよ。だから叱らないであげてよ」
「良太、謝りなさい」
何て言われてもふんぞり返っている良太君。
すると、花里さんはその目を細めて、
「言う事を聞かなければ、良太のお嫁さんにはなってあげない」
何て言われて、良太君は素直に、
「ごめんなさい」
と恭しく頭を下げながら俺に謝った。
「よし」
そういって良太君のおでこにキスをして、
「ご飯出来るまで、待っていなさい」
台所に戻った花里さん。
何かそんな光景を目の当たりにして、俺の知らない花里さんのまた一つの優しい一面を見て、改めて彼女とつき合えて本当に良かったと思ったが、いつも俺の前ではむっつりとしている事を考えて、俺の事が嫌いなんじゃないかと思ってしまう自分もいて、複雑な気持ちにも陥った。