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出会い,そして夢の始まり  作者: 柴田盟
14/25

たっくんと楓

夢を持った俺であったが、生きていれば良い事があるなんて言われた事もあったが、それは人事だと思って適当に気休めを言っているように聞こえたが、それは本当だった。今なら断言できる。

 俺はこれから先、たとえ残酷な真実を生み出す相手であっても、人とふれ合って生きてはいけないと思っている。

 それは今も変わらないが、変わったところと言ったら、残酷な運命ばかりだけではなく、こうして本当に生きていて良かったと思えるような出会いがある。

 それは俺の腕に包まれている花里さんとの出会いだった。

 でも坂下さんの言う通り、これからが大変だと言う事は何となく分かる。

 こうしてつきあっていて、楽しい事ばかりじゃないだろう。時には互いに鼻についてぶつかり合ってしまう時があると思う。

 まあ今はウルフルズの名曲のバンザイを熱唱したい気分である。

 本当に本当に幸せな気分である。

 俺はこの日を忘れないだろう。いや忘れてはいけないような気がする。

 まあつきあうって言っても、友達以上で恋人未満と微妙な感じで、キスはしなかった。

 熱は大分下がったみたいで、俺は彼女を家まで送ろうかと思ったが、彼女は駅までで良いと言ったので、駅まで見送った。


 つき合って次の日にトラブルは起きた。

 彼女は俺の理想になりたいと言っていたが、服装は俺が好きなアニメの美少女御子ナナの普段着を似せて着ていたが、アニメのナナは今のつんとした花里さんとは違い、『ナナはそんないつもつんとはしていないよ』何て軽々しく言ったら、その瞳に怒りをたぎらせて怒らせてしまい、そのまま帰ってしまった。

 何度も謝ったが、彼女はそのまま帰ってしまった。

 部屋の中でため息が止まらなくて、今思った事を橘先生に語る。

「何であんなんで怒るのかな?」

 不服を込めた口調で言うと先生は、

「まあ、坂本さんの言う通り、つき合ってからが大変なんだよ」

「それは分かっているよ。でもあんなんで怒る何て・・・」

 そこで俺は思ってしまう。あんな事を軽々しく言うものじゃないって。

 そんな事を思ってしまった俺に対して橘先生は、

「恋人同士の喧嘩は恋の更新だって昔の偉い人は言ったね。そうやって互いに悩んで迷ったりして、その絆を深めて行くんだよ」

 何て言っていたが、もしかしたらこのまま別れちゃうんじゃないかな?何てがっかりして鬱になってしまう。

 そんな風に考えていると、俺の携帯に電話が入った。

 着信履歴を見て分かったが、花里さんからだった。

「もしもし」

 と出てみる。

「松本さん?」

「そうだけど」

 って俺以外に誰がいるのと、つっこもうとするが、何か怒りそうなので、言わなかった。

 すると花里さんは、

「今日はご、ごめんなさい。はたいてしまって」

 謝って来た。俺もそんな彼女の緊張したような口調を聞いてつられて、「俺の方こそごめん」と謝ると開き直って。

「そうよ。あんな無神経な事を言われたら腹が立つに決まっているじゃない。あたしはあんたの好きなアニメのナナじゃないんだからね」

 と、いつもの高飛車な態度だが、復縁を求めて来た事に何か嬉しくてホッとしたりもしたし、確かに彼女の言う通り、花里さんは花里さんであって、ナナとは違う。

 だから俺はその事に気がついて改めて、

「ごめんね」

 と謝った。

「分かればいいのよ。明日はちゃんと勉強につき合いなさいよ」

「分かりました」

 となぜか敬語になってしまう。


 次の日もおかしな事が起こった。俺の仕事が終わる十五分前に彼女である花里さんはコンビニに現れた。

 まあ昨日一緒に勉強しようと約束したので、彼女は来て待っていてくれたのだ。

 仕事が終わって、彼女はまた美少女御子ナナの普段着をイメージしたような服装にどう対応して良いのやら俺は困ってしまうし、何か訳が分からなくなってくる。

「お待たせ」

 と待っている花里さんの元へと行くと、

「ま、ま、待っていないよ」

 と、ぎこちなく美少女御子ナナの口調をまねる。

 そんな花里さんがおかしくて、笑っていると、彼女は顔を真っ赤に染めて怒る寸前のところを、あわてて、

「ごめんなさい」

 と謝ると。

「何謝っているのよ。それにさっきは笑ったでしょ」

 視線を斜め下に向けて、恥ずかしそうにしている。

 そこで俺は花里さんの気持ちが分かった。

 きっと花里さんは俺の理想になりたいと言っていたが、それを言うと花里さんは怒る。だから俺は怒らせないように不思議と穏やかに笑えて、

「花里さんは花里さんで良いよ」

 と俺が言うと。

 怒らせてしまったのか?花里さんは身を乗り出して俺の元に寄ってきて、はたかれる事を覚悟して、その目を閉じたが、花里さんは俺の腕を組んだ。

「行くわよ」

 と俺を誘導する。どこに行くのか疑問に思って、

「どこに」

「一緒に勉強するんでしょ」

 と彼女に連れられた先は、勤務先であるコンビニの近くの喫茶店だった。

 中に入ると、コーヒーのほのかな香りがして、何かいい感じだった。

 お客はあまりおらず、ここなら一緒に落ち着いて勉強ができそうだ。

 そこで高齢だが品の良さそうなマスターらしき人物が、

「いらっしゃいませ。喫煙席ですか?禁煙席ですか?」

 と聞かれて俺はタバコを吸うが、花里さんは未成年で吸わないだろうから、ここは気を使って、禁煙席と言おうとしたが、花里さんの口の方が早く。

「喫煙席で」

 とそこで俺は驚いて、

「花里さんタバコ吸うの」

「吸うわけないでしょ。あんたがタバコを吸う人だから」

 と俺に気を使ってくれたみたい。

 早速、席に座って、それぞれブレンドコーヒーを頼んで、勉強を始めた。

 花里さんも大学を目指しているみたい。

 彼女は保育士という素敵な夢を持っている。

 そういえば忘れていたが、いつも勉強をする時、橘先生に見て貰っていたんだっけ。

 花里さんには、こんな不可解な事を信じてはくれないだろうと思って、橘先生の事は伏せていたんだっけ。

 まあ、それはそれで良いとして、花里さんは高校二年で俺よりも優秀で、勉強を見て貰ったりもしていた。

 そんな自分が情けなく思ってくるが、それは仕方がないのかもしれない。

 それでも俺の事を好きだと言っていたし。

 でも彼女の教え方は、厳しかった。

 たまにきつい教え方をされて泣きそうになったが、これは俺に対する思いやりだと分かっていた。

 でもそうは分かっていても、ちょっときついと思ってしまう。まあ勉強は、はかどるのだがね。

 たまにちらりと橘先生の方を見ると、そんな俺たちを優しく見守るように見ていた。

 本当に俺は幸せだった。

 俺の心は彼女で染まっている。

 彼女の心も俺で染めて上げたいと思っている。

 

 あれから喧嘩も良くしたし、相変わらず、俺の前では高飛車な態度をとっているが、たまに見せる笑顔がたまらなく好きで彼女に対する思いはさめたりはしなかった。

 まあ、そんな甘いつきあいをして、彼女の深刻な事情を俺は聞いた。

 彼女は両親はおらず公衆便所で産み落とされたみたいだ。

 それで少しでも発見が遅かったら、今の彼女はいないと。

 彼女は今孤児院で暮らしていて、高校を卒業したら、出て行かなくてはいけないみたいだ。

 だから俺は言ったんだ。

 高校を卒業したら、狭いけど俺の部屋で同棲しようと。

 俺はそんな彼女を守らなくてはいけないと肝に銘じた。

 

 そしてつき合って一ヶ月が経過して、ふと思う時がある。

 あれから連絡がないが、楓ちゃんは大丈夫だろうかと。

 そんなある日の事、仕事が終わって、その後に俺の彼女である花里さんと勉強会が終わって自宅に戻った時、お隣さんの坂下さんが俺の帰りを待っていたみたいで、

「あら、今帰り?」

「はあ」

 と返事をする。すると坂下さんが、

「あんたが言う隆さんが帰って来たわよ」

 何て言って、坂下さんの部屋から、悲しそうにうつむいている楓ちゃんが出てきた。

「楓ちゃん」

 と呼ぶと、楓ちゃんは罰が悪そうに黙ったままだった。

 そこで坂下さんが、楓ちゃんの代わりにその事情を語った。

「彼女、私が帰ったら、あんたの家の前のドアで座って待っていたのよ。だから風邪引くといけないと思って、とりあえず、あたしの家に入れておいたのよ」

「そうですか」

 と言って楓ちゃんの方を見ると、黙ってうつむいたままだった。続けて坂下さんは、

「家出した訳はあたしには話してくれなかったけど、何か深刻な事情があるみたいね」

 腕を組んで察する坂下さん。そこで楓ちゃんに話を向けて、

「とにかく楓ちゃんだっけ。松本さん彼女いるわよ」

 何て言って、

「そんな事、楓ちゃんには関係ないでしょ」

 と坂下さんに言って、楓ちゃんの方を見ると、驚いた目で俺を見て、再び罰が悪そうにうつむいてしまった。

 その楓ちゃんの仕草は意味深に見えたが、あまり気にする事はなく、とりあえず俺は、楓ちゃんに、

「とにかく事情は部屋で聞くから」

 と楓ちゃんを招くと坂下さんが、

「あらあら、この事を花里さんが聞いたら、あんた一発で誤解されるわよ」

 確かにそうだ。そこで楓ちゃんが気を使っているみたいで、

「隆さんに迷惑かかりそうだから、私帰ります」

 と渋々ながら背を向いて去ろうとしたところ、楓ちゃんの背後からその腕をつかんで、

「別に気にしなくて良いよ。とにかく話は聞いて上げられるから」


 坂下さんは去り際に、「まあ、松本さんは何を考えているか分からない痛い男だけど、信用出来る人だよ」

 何て俺を信頼してくれる気持ちは正直嬉しかった。

 楓ちゃんを部屋に入れたのは良いけど、本当にこんな子が俺の部屋にいると花里さんが聞いたら、速攻で誤解されて、俺は、・・・うわー考えるだけでも背筋が凍るほど怖い。

 とりあえずお茶を出そうと、楓ちゃんを居間で待たせて俺は台所でお湯を沸かしている。

 楓ちゃんのところを垣間見ると、橘先生も同じように心配そうな表情で見ていた。

 そこで俺にしか見えない橘先生と目があって、

「まあ、たっ君に会って、さっきよりも落ち着いた感じだね」

 そう言われて、再び楓ちゃんを見ると、本当にそう思えた。

 まあ、楓ちゃんに対して俺が出来る事はその話を聞く事だけだった。

 お湯が沸いて、紅茶を入れて、楓ちゃんの元へと歩み寄り、「ほら」と言って紅茶を差し出した。

 すると俯いていたその視線を俺に向け抱きついてきた。

「おいおい」

 と俺は困惑したが、以前もこんな感じで、彼女の鬱積している悩みを取り除いた事があったっけ。

 だから俺はそれを拒まずに、

「何があったんだよ」

「私からのお願い。しばらくこうさせて」

 だから俺は言われるがままに、彼女の抱擁を解かなかった。

 こんなところ、今つき合っている花里さんに見られたら一発で誤解され、面倒な事になるだろう。

 でもこれは俺と楓ちゃんだけの暗黙の秘密だと、楓ちゃんは解ってくれるだろう。

 そんな楓ちゃんは、

「感じるの」

「何が?」

「隆さん。私の唯一の理解者であった橘先生を」

 なるほど。と俺は心の中で思う。

 もしかしたら、橘先生にとり憑かれて、橘先生の仕草や何かが俺ににじみ出ていたのかもしれないと思った。

 まあそれはあくまで予想だが、楓ちゃんの力になれれば何でも良い。

 橘先生のおかげだが、俺もこうして楓ちゃんの力になれて本当に嬉しいんだ。

 それに楓ちゃんのおかげで、夢も持てた。

 しばらく楓ちゃんに俺の胸を貸して上げて、

「ありがとう」

 と言って先ほどの絶望的な表情から考えられない笑顔を見せてくれた。

 その笑顔を見て、俺は思う。

 それは誰もが夢を見る人に訪れる、絶望や悲しみを吹き飛ばすエネルギーに変わると。だから俺は、

「お礼が言いたいのはこっち何だけどな」

 何て口走ったら、楓ちゃんは「えっ」と先ほどの笑顔のままだが、疑問の声を示した。

 俺も口走った事に対してどんな言葉を返せば良いのか分からなくなって、

「何でもない何でもない」

 ってごまかした。

「私帰りますね」

 もてなした温くなった紅茶を一気に飲み干して、

「じゃあ」

 時計を見ると十時を回っていた。

 こんな時間に女の子を一人にさせたら、何かまずいと思って、楓ちゃんは強く遠慮したが、俺はちょっと強引だが、見送る事にする。

 楓ちゃんと歩いていて、ちらりと楓ちゃんの方を見ると、健やかな笑顔に安堵する。

 まあ楓ちゃんは俺の胸を貸して上げて、それをエネルギーにして、鬱積した何かを解消させたようだが、とりあえず、何があったのか聞いていないので聞いてみる。

「そういえば、楓ちゃん」

「はい」

「いったい何があったの」

 と。

 すると楓ちゃんの笑顔が曇っていく。

 そんな楓ちゃんを見て、気が気でなくどうして良いのか分からなくなって、

「ごめん楓ちゃん」

 と、とりあえず謝る。

「謝るのは私の方です。何の断りもなく、隆さんのところに押し掛けるような行為をしてしまって」

 また涙をこぼしそうな俯いた視線で答える。

「まあ、俺にはどうする事も出来ないかもしれないけど、とりあえず、話すだけでも、楓ちゃんの気持ちも楽になるかなと思ったんだけどな」

「そうですね。じゃあ話します」

 と、楓ちゃんの表情を見ると、その表情を俺は知っている。それは思い出したくない事を思い出そうとする表情だと。だから俺は、

「話したくないなら話さなくて良いよ」

 すると楓ちゃんは、

「ごめんなさい」

 と謝って、楓ちゃんの家の近くにたどり着いた。楓ちゃんは、恭しく丁寧にお辞儀をして、

「ありがとうございました」

 と言って、帰って行った。


 アパートに戻り、ふと考えてしまうのが楓ちゃんの事だった。

「事情くらい聞いておけば良かったですかね」

「まあ楓ちゃん。思い出すのも嫌になるほどの事があったんだろうね」

 手のひらを見つめて、ふがいない自分に多少いらだった。

「そんな顔しなくても大丈夫だよ、たっ君」

 そんな顔とはどんな顔か?どうやら俺は思った事が口には出さないが顔に出てしまう癖があるみたいだ。続けて橘先生は、

「優しいたっ君は、もっと自分を大切にした方が良いと思うんだけどね」

「それどういう意味ですか?」

 初めて言われて、その意味が分からなかったので聞いてみる。

「自分を攻めたり、相手を疑ったり、憎しんだりしていると、心が病むと僕は思うんだ。

 たしかにそれらの感情は誰にでもあるけど、自分や相手を信じて許せる気持ちを大きくすれば、気持ちが楽になって、心を楽に出来る。

 それが自分を大切にする気持ちだと僕は思うんだよね」「なるほど」

 とは言ったもののそれは難しい事何じゃないかって思う。

 だから橘先生の言うとおり、もっと気持ちを楽にして、自分を大切に出来る自分になるように努力も必要だと思った。

 そこで少しでも前に進めるように俺は勉強を始めた。

 今やっておかないと、後悔して、気持ちが病む。

 そうならないようにする事も、自分を大切にすると言うことだと思った。

 まあ、偉そうな事を言っているようだが、今の俺には何が正解なのか何が間違いなのか分からない。

 だからその答えを求めて明日に向かえば良いのかもしれない。 

 いつかその答えにたどり着ける時が来ると思う。

 そろそろ眠くなってきた。

 勉強をもっとやっておきたかったが、今日のところは夢の途中だと自分に言い聞かせ眠りについた。


 何て自分を大切にするとは言ったが、やはり楓ちゃんの事で俺は悩んでしまう。

 久しぶりに店長に会って、俺の顔を見たとたん、「優れない顔をしているけど大丈夫か」と心配され、「大丈夫です」と言っておいた。

 感情がそのまま顔に出ちゃうんだよな。

 俺の悪い癖なのかもしれない。

 このまま俺の彼女である、鋭い花里さんに見せたら、速攻で見破られてしまうだろう。

 今日も勉強会をする事になっている。

 そんな時に見破られて昨日、楓ちゃんを抱きしめたなんてばれたら、一発で誤解されてしまうだろう。

 とにかく悩み事を解消させる事が一番の先決だと思って、悩まないように自分に言い聞かせたが、俺には出来なかった。

 もし感情が表に出てしまったら適当な事を言ってごまかすしかないだろう。

 そんな事を考えて仕事をしていると、時間などあっと言う間に過ぎ去って、日は沈んでいった。

 仕事を終えて外に出ると、いつものように花里さんは待っていた。

 今日も二人で勉強会だ。


 勉強に集中している時、やはり考えてしまう。

 それは楓ちゃんの事だ。

 でも今は考えないようにしないといけないと思ったときにはもう遅かった。

 気がつけば、俺の正面で鋭い視線を向けている花里さんと目が合ってしまった。

 その目は人を見透かす時の目だと思って、とにかくそらして、やり過ごそうと思ったが、花里さんはその口を開いた。

「松本さん。何かあったんでしょ」

「いや何もないけど」

 ごまかす俺。

 するとその鋭い視線を俺の瞳にナイフを突き刺すかのごとく、その視線を逸らしたら、ばれる感じがして、その目をじっと見つめた。

 何だろう?その視線を見つめると罪悪感が生じてくる。

 だから俺は反らしてしまい。隠していた嘘がばれてしまった。

「何かあったんでしょ」

「・・・」

 俺は何て言ったら良いのか分からず、黙り込んでしまった。

「松本さん。あたしの目は節穴じゃないよ。何があったか知らないけど、あたしに対して疚しい事したと顔に書いてあるよ」

 話して良いのか悪いのか判断する余裕もなく、花里さんは机の上を叩きつけて、

「話しなさいよ」

「はい」

 と敬語口調で返事をしてしまい。昨日の事を包み隠さず話した。

 俺の話を聞いて花里さんはその目を閉じて、コーヒーを一口すすって、その目を開いて言う。

「なるほど。松本さんらしいね」

 何て俺のことを誉めているようだ。

 何だろうか、俺は花里さんに話しただけで、心なしか気持ちが楽になった感じになった。

 楓ちゃんに言ったが、話すだけでも気持ちが楽になるって、本当の事だと改めて知ったことだった。

 そして花里さんは照れくさそうに言う。

「あたしは松本さんの事を信じているからね。それと」

「それと?」

 そう聞くと、照れくさそうに反らしていた視線をとがらせて俺に念を押すように言う。

「もし松本さんが浮気なんかしたら、あたしは許さないし殺すから」

 そこで俺は女の恐ろしさを恋人である花里さんに諭された感じで正直怖かった。

 俺は密かに誓ったのだ。花里さん以外の女性を好きになってはいけないと。 

 それはそれで良いとして、話は変わり、花里さんは、

「楓ちゃんと言う女の子の事で、私にも協力させなさいよ」

 その事に対して考えさせられる。

 楓ちゃんと花里さんを会わせるのは、あまりよくない感じがしたのだ。

 黙っていると花里さんは、そのギラリと光ような視線を向けて言う。

「松本さん。あたしと楓ちゃんと言う女の子を会わせるのはよくないと思っているでしょ」

 図星をつかれて何を言えばいいのか?気持ちがあたふたとして言葉がまとまらない。

 そんな俺を見て花里さんは、

「会わせるのはまずいなら、それはそれで良いけど、とにかく一人で考えて悩むのはやめて」

 その花里さんの表情は少し悲しみを帯びた感じだった。続けて花里さんは、

「あたし、何か分からないけど、そんな松本さんを見ていると何か辛い」

「・・・」

 返す言葉もない程、俺は罪悪感に苛んだ。

 それは花里さんに心配をかけてしまったからだ。

 ここで俺は気がつく、こんな事を思っていると聡い花里に心を読まれると。

 案の定であり、花里さんは、

「あたし、松本さんが考えている事、手に取るように分かる。あたしに心配かけられた事を苛んでいるんだね」

「・・・」

 まいったと言う感じで、その目を閉じる。そんな俺を見て花里さんは、

「あたし思うんだけど、心配させたくないその優しい気持ちは分かるけど、全部一人で抱え込んで・・・」

 花里さんの大きな瞳から大粒の涙がこぼれて、その瞬間、俺の心の中で封印された記憶がよぎり、その花里さんの涙は、思い出すだけでも涙が出るほど辛い事だと分かった。

 だから俺はそんな花里さんの悲しい顔を見ていると辛くなってくるので、

「辛いなら喋らなくて良いよ」

 と言った。

 花里さんは涙を拭いながら、

「とにかく一人で抱え込まないで。あたしが言いたいのはそれだけ」

 俺は納得する。

 花里さんの涙が落ち着いて、俺達は気を取り直して勉強を再開した。


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