初 怒られ
「つまり、セール行きたさに、女装をしたと?」
「……はい、その通りです」
私は自分の部屋の居間で正座して、匠太君のお叱りを受けていた。
草食系男子のような匠太君だったが、やはり怒るときは怒るようだ。ものすごく怒っている。
「ほ、本当にごめんね。これで外に出るときはもちろんちゃんと、匠太君に了解をとるつもりだったのよ?それに、ほら、可愛いでしょう?」
私はくるりと回って、服装を見せる。
「なに言ってんですか!」
匠太君は、そんな私に顔を真っ赤にして怒る。
「そんな恰好で街を歩いて、もしオレの知り合いに見つかりでもしたら、どうするんです!?」
「匠太君だってわからないわよ、絶対!」
「わかりますよ!」
「大丈夫、ちゃんとメイクするから」
「メイクって……そうじゃなくて……新見さんは、オレが新見さんの体使っていやらしい服とか着たらどう思います?それで、自分の部屋で楽しんでたら嫌でしょう!?」
「!?」
私は匠太君の言葉に、驚いた。
「新見さんがやったことは、オレにとってはそういうことなんです!」
「…………ご、ごめん!すぐに脱ぐわ!」
私は大慌てで、スカートを脱いだ。
「そんなつもりは無かったの!本当に軽い気持ちで……本当にごめんなさい」
私は、床にこすりつけそうな勢いで頭を下げた。
「わかってくれたらいいんです……顔上げてください。僕も怒鳴ってすみません」
顔を上げると、匠太君が申し訳なさそうな顔で、私を見ていた。
「本当に、ごめんね」
「ええ、わかりました」
匠太君はそう言って、微笑んでくれた。
私は、匠太君に借りた服に着替えて、メイクも落とした。
「買い物に行きたければ、言ってくれればいいのに。それくらい時間とりますよ?なんなら、今から行きますか?」
匠太君は、もう怒っていない様子で、私の出したお茶を飲んでそう言った。
「うーん……でも……」
私は少し迷ってから、女装するしかないと思った理由を話した。
「私って、夢中になちゃうと周りが見えなくなるのね。買い物でもそう。友達と一緒に買い物に行っても、興奮して、キャーキャー言いながら服を見るのよ。匠太君の姿でそれやっちゃうと……その……」
匠太君は、その場面を想像したようで、ひきつった顔をした。
「そ、それは困りますね……」
「でしょう?うー……でも、買い物行きたいなあ……せっかくセールなのになあ……」
私がそう呟くと、匠太君は難しい顔をしてうつむいた。
「あ、女装してほしいって言っているわけじゃないのよ。ただ、このセール楽しみにしていたから……」
「……ですよね。カレンダーに花丸ついているし……でも、女装は……オネエに見られるのもちょっと……」
匠太君は、うんうんと唸っている。
そんな匠太君を見て、私は少し嬉しくなった。
「匠太君優しいのねえ。今回はあきらめろって突き放してもいいのに、私のために、悩むなんて……」
「え?」
匠太君は驚いた顔をして、私を見上げた。
「あ、いや、だって、昨日とおととい、すっごく頑張っていたし……このセールがご褒美みたいなものだったんでしょう?そう考えたら、行かせてあげたいなって……」
「うれしい。ありがとう」
私がそう言って笑うと、匠太君は照れたようにうつむいた。
「でも……ねえ、それじゃあさあ、匠太君の服を買いに行くのはどう?」
私は目を輝かせて、言った。
「え?僕の?」
匠太君は、ポカンとした顔で私を見る。
「うん、さっきメイクしてて気づいたんだけど、もうそろそろ髪切った方がよくない?服もタンスの中似たようなのしかなかったし、そろそろ買い物に行くつもりだったんじゃないの?」
「……いや、そういうわけでも……」
「私、男の人の服とかアクセサリーとかにも興味あったのよ。そういうお店にも行ってみたいし!前々から取材してみたいと思ってたのよ!」
私はそう言って、匠太君にずいと詰め寄る。
「私にご褒美頂戴!ね?ね?変なものは買わないからさ。」
「…………わ、わかりました」
匠太君は、渋い顔だったが、うなづいてくれた。