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鍋パーティー

 「えー!!匠太君来れないの!?」

 私は、携帯電話を耳に当てて、ショックを隠せない声を出す。

 電話の向こうでは、匠太君が申し訳なさそうに『すみません……』と繰り返した。

 ここは、私、新見楓の家。

 今夜は、ここで鍋パーティーならぬ、お祝いパーティーをする予定だったのだ。アシスタントの女の子たちと、あと、編集部からも何人か来ることになっている。

 もう既に、何人か集まっており、台所で準備を始めてくれているのだ。

 しかし、今になってお隣の匠太君から来れないと連絡が入った。今、実家にいるらしい。お母さんが怪我したそうだ。

 「最近見てなかったと思ったら、実家に帰ってたのね……」

 『はい……母の怪我は軽いものだったんですが、しばらくこっちに居ようと思います。年の瀬で、色々と人手がいるので……すみません』

 匠太君は、まるで言い訳でもするように、そう言った。

 「謝らなくていいわよ。お母さん孝行してきて。ただ、ちょっと残念。今夜はちょっとした報告会も兼ねてたから……」

 私がそう言うと、電話の向こうから妙な音が聞こえた。何かを潰したような音が聞こえた気がした。

 「匠太君?どうしたの?大丈夫?」

 『え?あ、はい、大丈夫です!あ、あの、すみません、父が呼んでいるので、切りますね……』

 「あ、そう?わかった。それじゃあ……」

 『本当にすみませんでした。皆さんで楽しんでください。お土産買ってきます』

 匠太君は口早にそう言うと、電話を切った。

 私は切られた電話を見ながら、首を傾げる。

 (なんか、変だなあ……)

 いつもの匠太君じゃないような気がした。

 少し声が上ずっていたし、慌てていた気がする。それに、何の報告なのかと聞き返してくれなかった。

 「……実は、お母さんの怪我の具合、結構悪かったりして……」

 いや、もしかして、怪我は大したことなかったけど、病院に行って検査してみたら、他の場所に病気が見つかって、それが深刻な病気で、入院と手術が必要になって、沢山お金が必要で、匠太君は小説家を続けるか、他の仕事をするかで選択を迫られていて……

 「楓!お客さん来たわよ!」

 「は!」

 私は、アイの声で妄想の波から引き戻された。

 慌てて玄関に走り、お客さんを出迎える。以前、アシスタントをしてくれていた子だった。

 「こんばんは、先生!おめでとうございます!!」

 「ありがとう!」

 私とその子は玄関口で抱き合い、キャーキャー言いながら「おめでとう」「ありがとう」を繰り返す。

 「連絡貰った時はびっくりしました!」

 「でしょう?私も、びっくり!」

 「今夜は近藤さん、来るんでしょう?あ、懐かしい!先生のお家」

 その子はコートを脱ぎながら、久しぶりに訪れた我が家の居間を見て、微笑む。

 「懐かしいって、まだ一年も経ってないんじゃない?」

 「そうですっけ?でも、懐かしいです!ここでよく仮眠してました」

 「あー、そのソファー好きだったもんねえ」

 懐かしい話に笑いながら、その子は、鍋の準備を手伝ってくれた。

 私もパーティーのホストとして、準備をして、皆がそろうのを待つ。

 (……さっきみたいな妄想なことにはなってないだろうけど……でも、心配だな、匠太君)

 準備をしながら、またもや考え出す。

 電話越しの声に元気がなかった。

 アドレスを交換して、連絡を取り合うようになった最初の頃は、匠太君の声は少し強張っていたが、最近はそんなことは無く、むしろ、私が電話をかけると、嬉しそうに出てくれていた。今回の鍋パーティーだって、美味しいお酒を用意しますと言って、この家に直接届くよう、宅配の手続きを取っていてくれたくらいだ。

 今日の昼、匠太君が準備してくれたお酒の段ボールが届いた。東北の方にある酒屋さんのお酒で、通販で大人気の品らしい。いろんなお酒をまとめた商品らしくて、カクテルや、チューハイ、ビールに日本酒と、色々入っているようだった。

 きっと、少し前に、いろんなお酒をちょっとずつ飲むのが楽しいと、私が言ったことを覚えてくれていたのだろう。

 私は、テーブルの上にお酒を並べながら、匠太君の事を考える。

 (そう言えば、アシスタントの皆を誤魔化す方法って、結局何だったのかしら?それも、聞けなかったわ。今日のお楽しみってことになってたし……)

 「はい、お鍋置くわよ。熱いから気を付けて!」

 アイが、アツアツの土鍋を持って、居間に入ってきた。いい香りが漂いだす。

 その時、またもやお客さんが来たのか、チャイムが鳴った。

 そろそろ、パーティー開始の時間だ。最後のお客かもしれない。

 私は、玄関へと向かいながら、匠太君には後でパーティーの様子を写真に取って、送ろうと考えた。

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