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サクラコ、ベッドに誘う

 防具屋に戻って改めて自己紹介をした。

 防具屋の店主はジャブリンさん。奥さんはマリーさんというらしい。

 500ガウルで購入したお二人の古着を早速着る。この街でよく見た簡素な服。私は半袖のワンピースみたいな服で、和也は丈の長い上着に、ゆったりとしたズボンという出で立ちだ。

 今から、マリーさんが作ってくれる夕食を食べるってことで、4人でテーブルを囲っていた。


「まあ、たいしたもんじゃねえが、量だけはある! いっぱいたべろ!」

 と言ってガハハと笑うジャブリンさんはすごく上機嫌。しかしその料理を用意してくれたマリーさんが、眉をピクリとあげて店主をねめつけた。

「ふん! たいしたもんじゃなくてわるかったねぇ!」

 マリーさんはなかなか気の強そうな奥さんで、声にも貫禄がある。ジャブリンさんは身を縮めた。


「いや! ちがうんだ、マリー! お前のつくるジャガイモ料理はいつも、最高さ! ハ、ハハ!」

 店主は、そう言って、わたわたしながら、マリーさんに取り繕う。必死なジャブリンさんだけど、奥さんはもともと本気で怒ってはいなかったみたいで、すぐに笑顔を見せて私たちの方に顔を向けた。


「まあ、実際ジャガイモばかりの料理でわるいね。私の実家が農家なんだか、腐るほどジャガイモを送ってくるんだよ。だから毎年ダメにならないように使うので必死さ。でも、まずくないはずだ。遠慮なく食べておくれよ。おかわりもたくさんある」

「ありがとうございます!」

 私はお礼を行って、奥さんが作ってくれた料理を改めてみた。

 クリームシチューのようなものと、パンにチーズ。くし刺で焼かれているソーセージ。そして、ふかしたジャガイモが大量に盛られていた。


 ものすごくおいしそう!


 よくよく考えたら、私とは和也は、今日何も食べてない。


「いただきます!」

 と声を出して、シチューを一口啜った。うん、美味しい! 牛乳にジャガイモが溶けるように煮込まれていて、少し重ためなシチューが、他の具材によく絡んでる。それに、この鼻に抜ける甘い匂いはクスクスの実を粉にしたものだ……。

……ん? あれ、何、さっきの。

 私は料理を前に、首をかしげた。

 そして、シチュー以外の料理を口に入れると、さきほどと同じように、料理の作る工程や何が使われているのかが浮かんでくる。

 おかしい。知らないはずの材料の情報もでてくるし、どういう調理をされたのかとかが、何故かわかる。


 これも、もしかしてスキル? 

 私の趣味は料理だった。モテるためという不純な動機で、始めた趣味だったけど、たまにお弟子さんとかにも振舞ったりすると、みんなすごく褒めてくれるので、調子に乗って色々作っていたら、フレンチ料理とかまで手を出したりして……。


 その時の経験が、スキルという形になってこの世界でも通用できるようになったのだろうか……。


「サクラコ。どうしたんだ?」

 食事の手を止めていた私に和也が心配そうな顔で聞いてきた。


「ううん、なんでもないよ!」

 私はそう言って、笑顔を向けて、またスプーンを口まで運んだ。


 スキルの感覚はまだ慣れなくてよくわからないけれど、悪いことじゃない。それに、異世界の料理が美味しくて良かった!

 やっぱり食べるものは美味しくないとね!

 私は、バクバクと食べているとまた周りから視線を感じた。

 え? なんで見てるの? と思って顔を上げると、マリーさんが笑った。


「そうとうお腹が空いてたんだね!そんな小さい体でいい食べっぷりだ!」

 や、やだ。私ったら、かなりの勢いで食べてしまっていたらしい。

 いや、美味しくて……で、でもだめだよね。私ったら新しい世界ではお姫様みたいなか弱い女の子になるって決めたんだから。


 あ、ソーセージの脂が口に……。

 こっそりと口元を手で拭いつつ笑顔を向ける。


「す、すみません、とっても美味しくって……」

「なーに、謝ることじゃないよ!そんなにおいしそうに食べてくれたら、作った甲斐があったってもんだよ。さあ、遠慮なく食べな!」

「はい、ありがとうございます……」

 と言って、チラリと和也の方を見れば、意地悪そうな笑顔で私のことを見ている。

 あ、これ絶対あとでからかわれる気がする。

 そのあとは、ジャブリンさんが、私たちの制服で気になるところを尋ねられたりもしたけれど、縫製技術に関しては村の年配の職人がやっているので一切分からないんです、という主張で乗り越えた。

 ジャブリンさんは特にファスナーが気になったようで、チャックを閉めたり開けたりを食事中も繰り返していてマリーさんに怒られてた。


 楽しい夕食を終えると、もともとジャブリンさんの息子さんが住んでいたという部屋に二人で向かった。


 6疊ぐらいの部屋にベッドが一つ。空の棚や椅子がある簡素な部屋だった。


「ま、ベッドは一つだよな。俺は床で寝るから、桜子はベッドで寝ていいよ」

 和也はそう言って、ベッドの上に置いてあった掛け布団を一枚引っ張ってそのまま床に寝転んだ。


「ええ!? だめだよ! 和也がベッド使いなよ。私どこでも寝れるし……和也、風邪ひいちゃうよ。私は風邪ひいたことないから大丈夫。あと、よく鍛錬で疲れて道場で寝ちゃうこともあったから、硬い床で寝るのも慣れてるし」

「いいから。俺がこっちで寝る」

「でも……」

 と言って、言葉に詰まった。和也は意外と頑固なんだよね。


 でも、今日だって、和也のおかげでこうやって一泊できたし、いろいろ和也に頼っちゃった。きっと疲れてるはずだから、夜ぐらいはゆっくりして欲しいな。

 うーん、それならいっそ……。


「ねえ、和也、じゃあ私と一緒にベッドで寝る?」

 そんなに大きなベッドじゃないけれど、二人ならギリギリいけそう。和也は小さい頃から、寝相は悪くなかったし、私は……寝てるからわからないけれど、そんなに悪くないはず!

 うん、我ながらいい提案だ!


 と思っていたのに、和也はものすっごく迷惑そうな顔をして「はあ?」と馬鹿を見るような目で私を見た。

 なんだろうあの顔。


「桜子って、馬鹿なの?」

 あ、とうとう、目だけじゃなくて口でも私を馬鹿にしてきた。なんて生意気な和也だろう。

 しかし、何とも言えない迫力がある……。


「え、えっとだから、今日和也いろいろ頑張ってくれたから、だから、床じゃなくて、ベッドで、寝よう?」

 私が、和也の迫力に怯えつつも、そう提案するとますます和也の目は険しくなった。

 和也は床から立ち上がると、私を挟むようにベッドに手を置く。ベッドに腰掛けていた私は、まるで和也に閉じ込められたような感じで、ちょうど私の目の前に和也の顔がきた。


「ねえ桜子、それ、どういう意味か、わかってるの?」

 えっ。どういう意味って……。


「だ、だから、和也にベッドでゆっくり疲れを癒して欲しいって、こと、なんだけど……?」

 今さっきまでの会話の流れでも説明したところだったんだけど……?


 一体和也が何を聞いているのかよくわからなくなってきたので、首をかしげると、和也が「はぁーーーー」って盛大にため息を吐きながら、また床に寝転んだ。


「和也、どうしたの?」

「……なんでもない。とりあえず、もう寝ろ。俺は床、桜子はベッド。またゴチャゴチャ行ってきたら、俺は出て行って地面の上で寝るから!」

 和也がなんだかご乱心だったので、私はいろいろ腑に落ちないところもあったけれども、大人しく頷いてベッドに横になった。

 やだこわい。どうしたのかしら和也。


 と思って恐る恐るベッドから和也の様子を覗き見ると、ほのかなロウソクの灯りでも和也の顔が赤くなっているのがわかった。

 あ、もしかして、照れてるの? 

 そうか、姉みたいなものだといっても、さすがに私と一緒に寝るのは、照れちゃうよね。

 ほら、小さい頃はよく二人でお風呂も入ったことだってあったから、同じようなものだと思って……そうか、そういえば和也も難しいお年頃だ。

 いつ盗んだバイクで走り出すか分からないんだった……。あの可愛かった和也が……。


「和也、ごめんね、私が悪かったね。デリカシーがなかった。反省する。だから、もし盗んだバイクで走り出したくなっても、盗む前に私に声をかけてね、お願いよ」

 和也は、ゴロンと首だけをこっちに向けて呆れたような顔をした。

 あれ? 顔さっきまで赤かった気がするのに、そうでもない? ロウソクの灯りのせいだったのかな……。


「桜子さ、次喋ったら、俺、部屋から出て言って地面で寝るから」

 あ、はい、すみません。

 なんか和也ますます怒ってるんだけど。声が怖いんだけど、私謝ったのに……。

 私は大人しく頷いて改めてベッドに横になった。

 年頃の男の子ってよくわからない……。

 もし私に彼氏ができたら、難しいお年頃の男子の対処法について相談してみよう。

 私は彼氏をゲットする決意を新たに胸に秘めて眠りについた。

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