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サクラコ、中古で服を買う


「あれ? クエスト受注窓口ってところに行かないの?」

 ギルドの建物から出て、酒場っぽいところに向かうのかと思ったら、和也はどんどん遠ざかるばかり。


「ああ、さすがに疲れた。笑顔作りすぎて頬がひきつってるし。お腹もすいた。宿も見つけないといけないし」


 やっぱりあの笑顔作るの無理してたのね。

 でも、あの笑顔のおかげで、革袋がもらえたって言っても過言じゃない。

 和也、笑顔作りご苦労様。

 ちょっと笑っちゃったけれど、うん、ダメよね、和也の頑張りを笑っちゃうだなんて、姉として失格だった。

 お礼を言って、ちゃんと褒めよう。


「和也ありがとう。それにあの笑顔、すごく、えーっと、うん、すごいなって思った! えーっと、なんていうか、すごく上手だった!……うん」

 

 思いのほかに私の語彙が貧困すぎて、褒めるのがうまくいかなかった。だって、よく考えたら何を褒めればいいのかわからなくて……今度からは見切り発車でしゃべるのはやめよう、うん。

 なんかうまくいかなかった恥ずかしさで思わず下を向くと、「ククク」と楽しそうに笑う和也の声が聞こえた。


「上手って……なにそれ」

 顔をあげると、和也が楽しそうに笑ってる。

 私も思わずおかしくなって笑った。和也ったら、あんな胡散臭い笑顔より、ずっとこっちのほうがいいのに。


「あ、そうだ、宿屋探す前に、服を売っているところ見て、相場を確認したい。さすがにこの格好は目立つからな。あとカバンも欲しいし」

「うん、そうだね。……あれ? さっそくあの看板、服屋さんじゃないかな?」

 ちょうど目の前に、服っぽい絵柄の看板を出しているお店を見つけた。

 私と和也でその店の前まで来ると、扉の前に『防具屋』と書かれている。

 

 とりあえず、お店の中に入ると、なんかちょっとカビ臭い。というか、鉄臭い。

 服屋というか……鎧? 甲冑みたいなものがある。


「いらっしゃい! 何かお探しで?」

 店の奥から店主らしきおじさんが近くにやってきた。和也はまた作り笑顔を作る。


「普段着でも着れるような服が欲しくて……ありますか?」

「普段着、ですかい?」

「ええ、僕たちはここから離れた場所にある村から来たんですけれど、このとおり服装が浮いてしまっていて。この町にいてもおかしくないような服が欲しいんです」

「ああ、なるほどねぁ。確かに変わった服だ。その村に住んでる人らは、みんなそんな服なのかい?」

「はい、そうなんです。独特でしょう? 織物が自慢の村なんです」

 私たちの架空の村、シーナナ村にそんな設定があったなんて。

 それにしても和也って、ほんと顔色一つ変えず、ペラペラ言葉が出てきて、すごい。さすが、地元で一番の進学校に通っているだけはある。


「はーなるほどねぁ、そうか、ふむふむ」

 と言いながら店主のおじさんは、私たちの服をモノすっごく凝視してきた。

 そしておじさんが、バッと顔をあげて、口を開く。

「ちなみに、欲しい服のことなんだが、防御力とかは気にするかい?」

 防御力……?


「そうですね、あるに越したことはないですが、魔物に襲われてしまってあまりガウルがないんです……」

「あーそいつは難儀だったなぁ。そうか、そうなると、防御力がある衣服は厳しいかもなぁ。ちなみに予算はどんくらいだい?」

「手持ちは15000ガウルほどで、そのガウルで数日の宿代もまかないたいんです……」

 和也がそう言うと、店主は渋い顔をした。

「うーん、そいつはちっと厳しいなぁ。最低限の防御力を持つ服ってなると、少なくとも10000ガウルはするからなぁ。そんで、ここら辺の宿代の相場は一泊3000-5000ガウルほどだ。雑魚寝でいいなら、もっと安いところはあるが、嬢ちゃんもいるとそうもいかないだろうしなぁ」

 と言って、私の方を見た。


 あ、そうか、私がいるから、雑魚寝的な安い宿はダメってことか!

 いや、でも私、そういうの気にしないよ!


「和也、私なら、だいじょ、んん!」

 と話の途中で、和也が私の口を手で塞いできて言葉を止められる。慌てる私とは違って、和也は気にせず言葉を続けた。


「それなら、防御力が無い服だとどのくらいですか?」

「ああ、それなら、500ガウルでいいさ」


 500ガウル!? 一気に安くなりすぎなような……。

 和也も驚いたようで、ちょっと目を見開いている。


「ガハハ! 何、普通の服は売ってないから、ただ俺が使ってた中古の服ってことだ。それでもいいなら、500ガウルでいいさ! 嬢ちゃんには俺のカミさんの服があるしな」


 それはありがたい! 

 和也が私に『中古でも大丈夫か?』みたいな感じでアイコンタクトを取ってきた、

 もちろん、中古とかでも気にしないので、大きく頷く。

 そうすると、和也は笑顔を作って、おじさんに向かう。


「すみません、では是非、それでお願いします!」

「いいってことよ! あーそれと、もう宿は見つけたのかい?」

「いいえ、これから探すところです」

「なら、もしよかったらよ、うちに泊まっていくかい? 普通の民家だが、このまえ倅が独り立ちしてね、ひと部屋空いてるんだ」


 ええ! それは、とってもありがたいお話だけれど、なんでそこまで!?

 和也もあまりにも親切すぎて、ちょっと戸惑っているのか、笑顔を貼り付けたまま眉をひそめるという器用な顔をしている。


「もちろん、ただってわけじゃねぇ。食事代で、そうだな、一食一人300ガウルはもらいたい。そして、ここからが肝心なんだが、二人が今着てる服を、もうちっとよく見せて欲しいんだ。じつは、ここに置いている防具、鎧関係は、鍛冶職人から仕入れてるが、ローブとかの織物関係は俺の手作りなんだ。ま、いわゆるローブ職人ってやつだ。だからその珍しい服の縫製技術が気になってる。その服をくれとはいわねぇ、それを見させて貰えるなら、部屋を貸す。どうだ!?」

 おじさんは、目を輝かせて詰め寄ってきた。その瞳の奥に熱い情熱を感じる。

 悪い人には見えない。

 私たちにとっても、ありがたいお話だし……。


「和也、どうする……?」

 私が声をかけると、和也は顎に手を置いて、少し考える素振りを見せた。


「すみません、少し外に出て考えてもいいですか?」

「ああ、そうだろうよ! わかってる! よく考えてみてくれ! 俺は待ってるよ! まあ、もしダメだとしても中古の服を500ガウルで売るっていうのをなしにするつもりはないさ。気兼ねなく言ってくれ」

 おじさんは、そう言って特にしつこく勧誘するでもなく、店を出る私たちを送り出してくれた。


「どうする? 私、あの店主のおじさんは信用出来ると思う」

「そうだな。桜子のカンは当たるし、俺も信用は出来ると思った。それにいい条件だった。服の縫製の状態を見られるぐらいなら痛くも痒くもないしね。受けてもいいと思う」

「あ、じゃあ、もどる?」

「いや、一応、あの店主が行っていたことが正しいかどうか、ほかのお店や宿屋の相場を確認しよう」

 なるほど。さすが和也。石橋を叩いて渡って行くのね! 地元で一番の進学校に通っているだけはある! 


 それから、しばらくお店を巡って、宿屋の相場や食事代の目安なんかを探り、あの店主のおじさんの話に相違がないことを確認した。それに、防御力のないただの服でも、新品だと2000円以上はするので、やっぱりただのものすごくありがたい提案だった。

 私と和也は再び防具屋に戻ると、店主さんは、私たちが条件を飲んでくれたことを、子供みたいに喜んでくれた。


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