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サクラコ、空気になる

「この魔物からでてきたこの石、魔石っていうのはお金に換金できるみたいだ。通貨の単位はガウル。換金場所は冒険者ギルド」


 町の中を歩きながら、門番の人から聞いた情報を復唱した和也は、あたりを見渡した。

 私も一緒になって改めて街の中を観察してみる。


 街の作りはヨーロッパ風? 高層ビルのようなものはもちろんない。地面は、石が敷き詰められてるところとそうでないところに別れていて、アスファルトのような塗装はどこにもない。

 当たり前だけど、日本とは全然違う。


 和也はすれ違った人に話しかけて、冒険者ギルドの場所と宿屋があるところを確認すると、まずは冒険者ギルドに向かった。

 ガウルというお金をもらわないと宿が取れないからね。


 冒険者ギルドについてみると、とても大きな建物だった。この街には珍しく3階建ての建物。

 隣には酒場のようなお店が併設してあって、その店のテラス席にはいかにも冒険好きそうな屈強な男たちがお酒を酌み交わしていた。

 たしかに、みんな強そう……。

 

 ここに私の未来の旦那様が居るかもしれない。


 や、やだ、未来の旦那様だなんて! また彼氏にもなってもらってないのに! 私ったら気が早いぞ!


 と、内心勝手に盛り上がっていると、和也は迷うことなく、ギルドに入って正面のカウンターへ向かっていった。

 いくつか窓口があるけれど、立札に「魔石 換金」とかかれているところのカウンターに立つ。

 本当は日本語で書かれているわけではないんだけど、不思議と読めるというなんともよくわからない状態。

 和也も同じ感じらしく、和也が言うにはこれが言語スキルというやつなんだろうということだった。


「すみません、僕たち初めてこの村に来たんですけど、あの、魔石をガウルに換えたくて、お願いできますか?」

 とまた和也が一人称を僕に変えて、媚を売るように受付のお姉さんに話しかけた。

 心なしか頬を赤くさせたお姉さんは、和也が差し出した魔石を受け取った。


「ええ、こちらで換金してるわ! えっと、小魔石が3つ、小魔石の粒が、1,2,3……5つ、ね。重さも、比重も、問題なし、と」

 受付のお姉さんは、ひと粒ひと粒確認するように掴むと、天秤に載せたり、液体に浮かせてみたりしながら、数を数えた。

 どうやら問題なかったようで、お姉さんは笑顔を向ける。


「それじゃあ、全部で20000ガウルよ。いいかしら?」


「はい、お願いします」

「ありがと。銀貨2枚で渡しちゃって大丈夫?」

 銀貨2枚? つまり20000ガウルは銀貨2枚分ってことで、銀貨一枚で10000ガウルの価値が有るってことかな。一応覚えておこう。


「そう、ですね。一枚は銀貨でお願いしたいんですけど、残り一枚の銀貨はできる限り細かくしてもらいたくて……」

 と言ってまた小動物みたいな顔をした和也に、受付のお姉さんは顔を赤らめた。

 私も顔が赤くなる、だって、油断すると笑っちゃいそうなんだもの。だって和也、キャラが、違いすぎて、ぷぷ!

 あ! 痛い!

 足元を見ると、和也が私の足を踏んでいた。どうやら笑いをこらえていたのはバレていたみたい。

 ごめん、だって……面白くて……!

 私と和也のカウンター下の攻防戦に気づいていない受付のお姉さんは、顔を赤らめながらも、引き出しの中をゴソゴソして、私たちの前に数枚のコインを提示した。


「じゃあ、銀貨1枚、半銀貨1枚、銅貨4枚、半銅貨1枚、鉄銭4枚、半鉄銭1枚、小鉄銭5枚、ではいかが? それとも、小鉄銭1枚もくず鉄銭10枚に変える?」

 あ、なんかいろいろ貨幣の呼び名が連呼された。

 覚えておいたほうがいいよ、ね。

 えーっとあれが、銀貨であれが銅貨で……うん、こういうのはカズヤに任せよう、うん。


「そうですね、小鉄銭は1枚だけくず鉄銭10枚に変えてもらってもいいですか?」

「わかったわ」

 お姉さんはすぐに小鉄銭を引っ込めて、引き出しからなんかくすんだ色の鉄の粒みたいなものを10個取り出した。

 あれが、クズ鉄銭ね。確かになんかすごいクズっぽい感じ。


 和也は胡散臭い微笑みで「ありがとうございます」と言いながら20000ガウル受け取ると、ハンカチに包んだ。

 でも、さすがにあの量だとポケットには入らなそう。

 小銭入れが必要かも。


「あら、もしかして革袋持っていないの?」

「はい、この町に来るまでに、魔物に追われて、落としてしまって……」

「まあ、大変だったのね。あ、じゃあ、ちょっとまってて」

 とお姉さんは言って、カウンターの奥に行くと、小さな革袋を持ってきてくれた。

「これ、よかったらあげるわ。たまに冒険者が革袋ごとアイテムを納品してくれる時があるのよ。使って」

「わあ! ありがとうございます! お姉さんは美人なだけじゃなくて、優しいだなんて……僕この街に来れて良かった」

「や、やだ、そんなことないわよぉ」

 と言ってお姉さんはふふと満更でもないような顔をしていた。

 私は必死に笑いをかみ殺していた。だって、和也、だって……。


 それにしても和也ったら、そんな、歯の浮くようなセリフまで言う子だったなんて。


「そうだ、あと、仕事を貰いたいんですけど、どうすればいいでしょうか? こんな大きな町初めてで、よくわからなくて」

「仕事? それなら、併設している酒場になっているところにクエスト受注窓口があるわ。そこの受付の子にきいてみて」

「なるほど、わかりました! 本当にいろいろありがとうございます!}

「ええ、いいのよ。また来てね!」


 受付のお姉さんは和也だけを見て、大きく手をふった。

 最初から最後まで私ったら空気だったんだけれども……。

 いや、いいけどね。



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