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サクラコとカズヤ

 私は、ルークさんが思っていたような女の子じゃない。


「サクラコさん! どこに行くんですか!?」

 ルークさんに見られたくなくて必死に逃げる私の背中を、ルークさんが追いかけてくる。


 私は、近くに倒れていた大木を持ち上げて、通せんぼするように道の真ん中に置く。


「ルークさん。ごめんなさい! それと、その、ありがとうございました!」


 私はそれだけ言うと、和也を引っ張って、駆けだした。

 ルークさんが私と和也の名前を呼ぶ声が聞こえたけれど、途中から聞こえなくなった。

 向こうにはレイラさん達を寝かせているのだから、ルークさんはあの場から離れられない。


 ルークさん、ごめん。嘘、ついてたわけじゃないけど、隠してた。


 もう、私ルークさんの顔見れない。

 もし、ルークさんが私に向けてくれる顔が、前みたいに甘い顔じゃなくて、怯えるような目で見られたら私……。


 もうルークさんが、優しい笑顔で、私のことを見なくなるのはいやだ。

 ちょっとした会話ですぐに顔を赤くするルークさん。つられて私も、照れてしまったりして……。

 私は、初めて恋のようなものができるのかもって、思っていたのに。


 普通の女の子みたいに、恋がしたくて……。できるような気がして……。


 そう恋が、したかった……。


 私は恋がしたかった。


 物語の中のものだと、私には遠いものだとそう思っていた恋というものをこの世界ならできるんじゃないかって、誰にも怯えられずに、ただの女の子みたいに扱われて、それなら恋だってできるんじゃないかって……。


 でも、恋がしたかっただけなら、それなら、相手は別にルークさんじゃなくても、良かったのでは?

 私はただ、自分の願望をかなえるために、近くにいる男の人、ルークさんを利用しただけなんじゃ?


 自分の気持ちに気付いて、私は思わず立ち止まった。


 ……よく考えたら、私、ちゃんとルークさんのこと、考えてない。


 本当にルークさんことが好きだったなら、きっと逃げたりしないんじゃないだろうか。


 私は、ただ、自分が恋をしたいために、普通の女の子みたいになりたくて、ルークさんのことを利用してるんじゃないだろうか。


 私が急に立ち止まったから、ドンと後ろを走っていた和也が私にぶつかる。


「いたたた、ちょ、桜子、急に立ち止まるなよ」


「か、和也」

 後ろを振り返ればゼエゼエ息をしている和也がいた。

 私は和也に何か言おうとして、でも何を言えばいいのかわからなくて、口を開けては閉じてを繰り返す。

 しばらくして、息が整ってきた和也が、私の顔を見て、首をひねった。


「どうした? ていうか、なんで桜子、ルークから逃げたんだ?」


「だって、怖くて。……ルークさんに、怯えるような目で見られたくない」


「怯えるような目って……」


「私ね、ルークさんの前では普通の女の子みたいになれた気がして、本当にうれしかったの。初めてで、そわそわして……今思えば、恋に恋してるだけだったのかもしれないけれど」


 ルークさんへの気持ちは正直よくわからない。

 恋に恋しているだけだったかもしれない。


 恋がしたくて、恋ができそうな相手だったら誰でもよかった……?


 ……でも、それでも、それだけじゃない気持ちも、あった、はずだ。

 だって、ルークさんがもう私のことを優しい目で見てくれないかもって思うと、辛い。


「ルークさんに嫌われたり、怯えられたり、避けられたらって思うと、辛い」


「……ルークなら、大丈夫だと思うけど」

 和也がぼそっとそう言った。


「大丈夫って、何が……?」


「だから……あいつなら、別に、桜子が……」

 そう言った和也が途中で口を閉じた。


「……いや、何でもない」

「え、そんな途中まで言われて聞けないとか気になるんだけど……」


「忘れろ。……俺の性格が悪いのは知ってるだろ」

 性格が悪い?

 なんでいきなり和也の性格が悪いって言う話になるんだろう。


「和也は、意地悪なところはあるけれど、別に性格が悪いわけじゃないよ」

 私がそういうと、和也はかすかに微笑んで、「そう思うのは、桜子にはいいところを見せようとしてるからだよ。それより、これからどこに行くつもりなんだ?」と、突然話題を変えてきた。


 あ、そういえば、私、考えなしに森に突っ込んでいって、先のことを考えてなかった。


「……どうしよう。決めてない」

「考えなし」

 そういって和也は笑うと、「まあ、いいよ。このまままっすぐ進んでいくと、リースデーンっていう町があるらしい。結構大きな町みたいだし。一度そこに行ってみよう」

 と優しく微笑んでくれた。

「うん! 和也、ありがとう。その、いつも私のわがままに付き合ってくれて。和也がいてくれてよかった」


 和也は面食らった顔をして、私をまじまじと見る。


「どうしたの?」

 私がそう言って首をかしげると、和也が私の髪の毛に触れた。


 あ、そういえば、あの魔物のせいで、髪が乱れてるかも。


 慌てて、髪の毛を整えようと頭に手を持って行こうとしたら、その手を和也に掴まれた。


「なあ、桜子、やっぱり、俺じゃ……ダメか?」

 和也が今まで見たことがないほどに真面目な顔をしていた。

 なんだか、恐い。

 でも、和也が言わんとしていることが、分からない。


 私は恐る恐る、「何が?」と問いかける。


「だから……」


 そう言って、和也が言いづらそうに口を何度か開いたり閉じたりして、そして一度唾を飲み込むと、口を開いた。


「桜子にとって、俺って何?」


「何って、家族だよ。大事な、家族。そうでしょ? 和也は私の弟」


「でも、本当の弟じゃない。俺と桜子は、本当の家族じゃない」


「か、和也……? 突然、どうしたの? わかった。ルークさんのところから逃げたの、怒ってるのね? そうだよね、ルークさんと和也、仲良かったもんね。ごめん、私の勝手で……」

「違う! そうじゃない。そうじゃないんだ」


「じゃあ、何? 和也は、私の、家族でしょ? 二人だけの……。私、和也のこと家族だって、大切思ってるのに、和也はそうじゃないの?」


「いや、思ってるよ、大切に思ってる。俺の一番大切なものは、桜子だ」

「なら、私も一緒だよ。和也のこと一番大切だと思ってる」

「違うんだ。桜子の気持ちと俺の気持ちは一緒じゃない」

「一緒だよ!」


「違う! だから、俺が言いたいのは……!」


 そう言った和也の顔が急に迫ってきた。

 顔が近い。




 私は持ち前の反射神経で、和也の顔を抑える。


「ど、どうしていきなり頭突きしようとしたの?」

 私はびっくりして、とりあえず和也に真意を聞いた。


 私に頭をつかまれてるような形の和也はむっとした顔をする。


 私、そんな怒らせるようなこと、言った?

 まさか和也が私に頭突きしようとするなんて……。


「頭突きしようとしたんじゃない! キスをしようとしたんだよ! そろそろ空気読めよ!」


「なんでキス!? 空気読むって……和也はキスが挨拶なアメリカンファミリーに憧れてたの!?」


 まさかの和也の欧米化宣言に震えていると、和也が盛大にため息を吐いて、「そんなわけないだろ」と言った。


 じゃあ、何……?


「……桜子、前髪に、ゴミがついてる」

「え、ホント!?」

 私がそう言って、手を前髪にもっていって、目線を上に向ける。

 そしたら、目の前に影が差した。


 唇に何か、柔らかいものが当たってる。

 びっくりして固まっていると、おもむろに和也が顔を離した。


「え、か、和也、いま、さっき……」


 私に、キスしたの……?

 と言って確認するのがなんだか気恥ずかしくて、口に出せなかった。


 ただ茫然と和也を見ていると、和也が、なんと再び、私にキスをしてきた。

 

 しばらくされるがままにされていたが、はたと正気に戻って、和也の胸を押し返す。


「だ、だめだよ。和也、その、キスは、特別な人とじゃないと……欧米の方々だって、さすがに家族の挨拶に唇でのキスしないよ!?」


 私はそう言いながら、顔に血が上るのを止められなかった。

 頬、厚い。絶対顔、赤いよ。だって、キスだなんて、だって、初めてだし。


「ごめん、桜子。嫌だったか?」


「い、嫌っていうか、だって、ビックリして」

 そう言いながら、自分でもそんなに嫌な気持じゃなかったことに少し驚いた。


 それよりも、どんどん熱が顔に集まってくるの、どうにかしないと。

 きっと今私、顔真っ赤だ。


 思わず赤い顔を隠すために下を向くと、和也が、私の頭にあごを載せて、両手を背中に回して抱きしめてきた。


 新たな猛追に、息もできないぐらい固まっていると、上からクククって楽しそうな和也の笑い声が聞こえた。


「桜子が、こんなにかわいい反応するなら、もっと前からこうすればよかった」


「か、からかったの?」


「違うよ。本気」

 そう言った和也の声が、耳に甘く響いて、そのまま私たちは再び唇を合わせた。







恋愛!キスをしたら恋愛だ!これはもう恋愛ジャンルだ!

そして次のお話で最終話です!

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