サクラコ、逃げる
すみません!更新を忘れてました!
私は駆けだして、上空に逃げようとした魔物にとびかかる。
魔物の長い鳥脚を右手でつかむと、そのまま腕の力で、魔物を地面にたたきつけるように落とした。
地面にたたきつけられた魔物は苦しそうなうめき声で鳴くが、あきらめが悪い魔物がまた腕を振る。
また風が吹いた。後ろで何か木のようなものが倒れるような音が聞こえる。
さっきの風で倒れたの? この世界の木って弱いのね。
「そんなそよ風で何がしたいの? やめてよ、髪が乱れる」
そう言いながら近づくと、魔物は尻餅をつきながらじりじりと後ろに下がっていく。
もうすぐで魔物を殴れる距離になる、と思ったところで、魔物が仰向けの状態で、足をけり上げてきた。
スレスレの距離で、私はそれを避ける。
「良い蹴りだったよ」
私はそう言って、魔物のけり上げた足をつかんで、そのまま振り上げてから、地面にたたきつける。
そして、魔物の足を手放して、マウントを取ると、こぶしを構えた。
すると、魔物が空気を大きく吸い込んで、口から炎を噴き出してきた。
私は、魔物の口から出てきた火炎放射を上体を逸らして避ける。
口から火なんて、危ないなぁ。
私が、私が少し上体を逸らした隙を狙ったのか、魔物が身をよじって私がとったマウントの下から逃れようとする。
でも、逃がさないよ。
太ももに力を入れて、魔物が逃げないように固定する。
足の間で、ミシミシと何かが砕ける音が聞こえると、魔物が苦し気にうめいた。
魔物の骨、砕いちゃったかも。
だけど、どうにか腕だけ自由になった魔物が、バタバタと腕を振ってくる。
私には、特に何も感じないけれど、周りの音が騒がしい。
腕を振る度に、風の音とか、何かが壊れていくような音が聞こえる。
また風でも吹かせて木々を薙いでいるのかもしれない。
その腕を振るって風を起こすやつ、すっごくうるさい。
髪の毛も乱れるし、面倒だったから、その腕をとって骨を折った。
力なく腕を落とした魔物は、今度はまた息を吸い込んで、火を出そうとしてる。
「そんなに火を吐いたら、危ないじゃない」
私はそう言いながら、魔物のあごを抑えた。
口が広けなくなった魔物は、混乱したように目をギョロギョロと回す。
そして、魔物の喉が赤くなって、焦げたような匂いがした。
「自分の、喉、焼いちゃったの? だから、火は危ないって言った」
そう言って、手をあごから離すと、その口から黒い煙みたいなものが出てきた。
火を出すのに失敗して、やっぱり口内が焼け野原になってしまったみたい。
でも、この魔物、すごく丈夫。
さっき折ったはずの腕が、治ってきてるのか、さっきまで逆方向に折れていた腕が戻ろうとしてる。
治癒能力?
太ももの筋力で砕いたはずの魔物の腰の骨も、治ってきてるのか、固くなってきてる……。
大変だ。このままだと、長い時間苦しんじゃう。魔物が。
私も全力をださないと。
もともと、弱いものをいたぶる趣味は、ない。
私は、拳を振り上げて気を込めていく。
魔物は、「ヒッ」と声にならない声を出して、恐怖を顔に張り付けた。
なんだかかわいそうな顔してるけど、こいつは、許さない。
レイラさんと、ガンジさんと、モロゾフさんを傷つけた。
みんな無事かな。
風に吹き飛ばされているだけだったし、きっと命に別状は、ない、はず。
それにルークさんや和也にだって、危害を……。
……彼らを傷つけたことは、私、絶対に、許さない。
「レイラさんと、ガンジさんと、モロゾフさんの分」
私はそう言って、拳を振り下ろした。
ドゴオオと地響きでも起きたような音が聞こえた。
魔物のみぞおちのあたりを中心に、大きな穴が開く。
魔物は、ギョロっと飛び出しそうな目玉で私の方をみると、そのまま白目になった。
もうこの魔物に生きている気配はしない。
ああ、情けない。
和也を怖がらせた分とかルークさんの剣を壊した分とかも殴ろうと思ったのに、終わっちゃった。
私が、ハアと一つ息を吐いて、立ち上がると、魔物は光りだして、人の頭ぐらいの大きさの綺麗なエメラルド色の宝石と、大きなかぎづめに翼が残った。
私は構えを解く。
あ、なんか、思ったよりも疲れた。
というか、お腹がすいた。
久しぶりに運動したからかな。
そう言えば、保存食として作っていた、手作りのクッキーがある。
スキルで効果を見たら、疲労回復っていうのもあったし、ちょうどいいかも。
それに、レイラさん達もきっと疲れてるだろうから、一緒に……。
そう考えて、怒りで熱くなってきた頭がいきなり冷えてきた。
私は、ハッと息をのんで、ゆっくりと周りを見渡せば、何故か周りの地形が、変わってる?
周りに生えていたはずの木々が、どれも何かにむしられたように途中で砕けている。
私の周りの地面は、へこんでいて、クレーターみたいになっている。
これ、もしかして……。
そうだ! 和也は!?
それに、ルークさん、レイラさん達は!?
頭が真っ白になった。
私、頭にきて、それで……。
もしかして、これ、私がやった?
さっき、魔物と戦う時に、やってしまったの……?
「サクラコ!」
和也の声がして、慌てて振り返る。
そこには、ちょっと服がぼろぼろになっていたけれど、無事な和也の姿が見えた。
「和也!!」
私が呼ぶと、和也が、クレーターの縁のところから私のところまで滑り台みたいに滑りながら降りてきてくれた。
「和也、ごめ、私、周りのこと考えてなくて……! ごめん……! 和也、怪我は!? みんなは!?」
「いや、いいんだ。いや、ちょっと危なかったけど、まあ、サクラコのことだから覚悟はできてたし、それに、ルークが、俺や、レイラさん達も連れて安全な距離まで運んで、守ってくれたから」
「え? ルークさんが?」
私はそう言って、先ほど和也がいた場所を見ると、ルークさんが、呆然とした顔で、私のことを見ている。
目が合って、私は思わず視線を外した。
いや、いやだ。
さっきまでのこと見られた?
見られてたよね。
頭にきて魔物を向かっていって、皆が近くにいたのに、顧みずに大暴れして、周りをこんな風にめちゃくちゃにして……。
絶対に、見られた……。
私が、か弱い女の子じゃないって、ばれた。
私、やってしまった……。
ルークさんの前で、私……。
いやだ、嫌われたくない。嫌われたくない。
もう言われたくない。ルークさんには言われたくない。
化け物だとか怪力女だとか、そういうことは言われたくない……!
……嫌われたくない。
「和也!」
私はそう言って、和也の手を取った。
「逃げよう!」
「はあ? 逃げるって、何から?」
「いいから!」
そう言って、私は和也の手を握りながら、ルークさんが立っているところとは、反対側に向かって登る。
「サクラコさん!?」
反対方向に向かおうとしている私たちにルークさんが慌てたような声をかけてくる。
ごめん、ルークさん。
でも、私、いやだ。ルークさんに嫌われたくない。
今まで、ルークさんは、私のことを女の子として扱ってくれた。
時には、熱っぽい視線で見てくれたりして……私はこの世界にきてただの普通の女の子になれたような気がした。
でも、もう、きっと、ううん、絶対ルークさんは私のことをそういう風に見てくれない。
怪物だっていうかもしれない、怪力女だって!
そんな風に言ってほしくない!