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サクラコ、守られる

 ゆっくりと、魔物に気付かれないように、魔物の姿が見える位置まで私たちは移動しする。

 呼吸するのさえうるさく感じるような、緊張感。皆の空気がピリピリしてる。


 オウルデーモンロードって、そんなに、強いんだ。

 ただ名前にロードがついただけなのに……。


 そして、とうとうオウルデーモンロードの様子をうかがえる目的地の繁みに到着した。

 私は繁みから顔を少しだし、魔物の姿を見る。


 ……最初に、この世界に来た時に倒した魔物と似ている。


 頭がフクロウで、体は人間っぽいのだけど、腕のところが翼になっていて、そこには鋭い大きな爪がついている。

 それにしても、大きい。

 

 最初に倒した魔物は、2mぐらいで、茶色の魔物だったけれど、今目の前にいるのは、3,4mはありそう。そして羽の色が銀色だ。何より手のようなところに生えている爪がでかく、頭には大きな角が2本生えている。

 とっても強そう。


 ていうかあの魔物、確かに微動だにしないんだけどものすっごく目を見開いている。

 でもあれで眠ってる状態らしい。ドライアイにならないかな。


 ガンジさんが改めて和也が作った地図をみんなの前に広げて、相手がまだ眠っている状態であることを確認する。

 そしてレイラさんが、頷くと、呪文の詠唱を始めた。


「炎よ、すべてを燃やし灰にしろ。炎の女神の抱擁に、誰もが等しく地に伏せる。この世の理とともに燃え尽きて、残るは愛しい静寂のみ」

 レイラさんが呪文を唱え終わると、レイラさんの目の前に、熱を感じた。

 そして、ボフっと熱風を起こして大きな火の玉が、オウルデーモンロードに向かっていった。

 私は顔の前に右手を当て、熱風から目を守りながらオウルデーモンロードの様子を見る。


 確実に魔法はオウルデーモンロードにあたり、そして、「ギャアアアア」という痛そうな声も聞こえた。


 でも、死んでない。

 炎の魔法がやむと、体を焦げ付かせ悔しそうに「ギイイイイイイ」と泣いたオウルデーモンが、煙の中で立ち上がるのが見えた。


 そして、ルークさんとガンジさんが前に出る。

 レイラさんも、また杖を構えた。


 モロゾフさんが、私と和也の前に来て大きな盾を突き刺すようにして、壁を作ってくれた。


「もしもの場合は、私も前に出る。その時は、この盾に隠れるか。最悪の場合は逃げてくれ」

 無口なモロゾフさんがそれだけ言うと、鋭い視線を魔物に向けた。


 もしもの時のことだなんて……今まで言われたことなかった。それほどあの魔物は強いってことなのかな。


 炎の魔法で焦げ付いた魔物は、全身に火傷を負って、動くたびに痛むのか、動作がぎこちない。

 でもルークさんたちは、動きの鈍い魔物に決定的な攻撃を振るえないでいた。

 というのも、あの魔物の周りなんか、おかしい。

 風……? 魔物の周りに風が吹いている。 


 風に飛ばされないように地面に踏ん張って、攻撃できる距離まで近づけないでいるガンジさんが、短剣を手にもって、魔物に放つが、風で吹き飛ばされてしまって当たらなかった。


 間違いない。オウルデーモンロードの周りにはまるでルークさん達の攻撃を防ぐように強烈な風が吹いている。


「くそ、風魔法を常時発動させてやがる……」

 ガンジさんが、そう忌々しそうにつぶやいた声が聞こえてきた。

 あの風、魔法なんだ……?

 ガンジさんは、近づけないでいるけれど、ルークさんは、風に抗いながらも、魔物に向かって剣を振るっていた。

 でも、風で動きにくくされているようで、いつもの素早さや力強さが半減している。

 かといって、魔物の攻撃を食らうほどでもなく、オウルデーモンロードとルークさんとの一騎打ちのような様相になっていった。


 となりで、和也が呪文を唱える声が聞こえた。


「あの魔物は風魔法が使えるらしい。風魔法を発生させているのはあの魔物の翼腕。あの羽の生えた腕の部分に水分を含ませると一時的に風は発生しなくなるらしい」

「魔法で分析したの?」

 突然ぶつぶつとしゃべりだした和也にそう聞いたら、和也は頷いた。

「ああ、そんなところだ。レイラさん、あの魔物の頭上に水魔法を放つことはできますか?」

 私たちの会話を聞いていたレイラさんに和也がそう問いかけると、レイラさんは、渋い顔をした。

「できるけれど、あの魔物をずぶぬれにさせて、風魔法を辞めさせるつもりなの? でも、水をかぶせようとしても、風で防がれてしまうだけじゃないかしら?」

「いや、あの風の動きをよく見てください。木の葉があの魔物の周りをぐるぐると囲むように、舞っています。風は竜巻のようなものなんです。となるとちょうど魔物の頭上に当たる部分は渦の目のように無風の可能性が高い。ちょうど上から水をかぶせることができたら、魔物に水をかぶせることができる」


 和也の説明を聞いて、改めて魔物を見てみると、確かに風は竜巻のように渦を舞うような感じだ。


 レイラさんは頷いて、呪文の詠唱を始めた。


「水よ、無形の者よ、我の求めに応じて降り注げ。流れて押しゆく大蛇のようにひれ伏せよ」


 レイラさんがそう唱えると、水でできた球体がちょうど魔物の頭上に発生して、そして、土砂降りのように降り注いだ。


 突然の水、魔物は目を閉じる。そして、魔物の周りの風がやんだ。


 そう思った瞬間、ルークさんが、大剣を振り上げ、魔物に向かって振り下ろす。

 肩から入ったルークさんの剣が、魔物をさけるチーズみたいに縦に切り裂き、魔物はゆっくりと倒れた。


 そして、魔物は、霧のように霧散して、大きな緑色の宝石と、いくつかの羽を残して消えた。

「やったぞ!」

 ガンジさんの歓喜の声が聞こえた。

 レイラさんが、ルークさんに駆け寄って喜びを伝えていた。


 なんだか、今まで一緒にやってきたパーティーで、喜びを分かち合っているような姿に、私や和也は、入れなくて、なんとなく立ち尽くす。

 ガンジさんに小突かれて、嬉しそうにはしゃぐルークさんが、可愛らしかった。

 しばらく遠目で見てようかなと思っていると、私たちを守るために近くで盾を構えていたモロゾフさんもうずうずしてたので、

「あの良かったら、その、どうぞ」と声をかける。

 すると、モロゾフさんはすまないと言って、ルークさん達の喜びの輪の中に入っていった。


 いいなぁ。なんだか、みんなで、何か大きなことを成し遂げるのって、楽しそう。


「あいつ、ほんとすごいな、あのでかいの真っ二つにしやがった……」


 隣にいた和也が興奮したような、呆れたような声を出して、顔を見れば嬉しそうに笑っていた。


 そういえば最近仲のいい二人だ。友人の大活躍に嬉しく思ってるのかもしれない。


「ルークさん、かっこよかったね」

 私がそういうと、さっきまでの笑顔を曇らせて、ちょっと罰の悪そうな顔をした和也が

「……そうだな」とだけ答えた。


「でも、和也もかっこよかったよ。風の魔法を止めてくれたのは、和也のおかげだもの」

 やっぱり和也はすごい。

 いつも、私の知らないことを知っているし、いろいろ考えてる。

 いつも思ったままで行動してる私とはえらい違いだ。


 私がそういうと、和也はハッとしたように私の顔を見た。

「ほんと、桜子ってたまにそういうことを言うから……」

 と何か和也が言おうとしたら、ルークさんが和也に抱きついてきた。


「カズヤ! 風の魔法が消えたのは君のおかげだって聞いたよ! ありがとう!」

「やめろ、くっつくな!」

 そう言って、なんだか楽しそうにしている和也。

 二人は本当に仲がいい。


 友達の少ない和也に仲の良い友達ができて良かったなってほほえましく見ていると、ルークさんと目があった。


 そして、和也から離れて、私のところにきて、私を抱きしめた。


 え……!

 え、ええ!?

 私、いま、ル、ルークさんに、だき、抱きしめられて、いる!?


「サクラコさん、無事でよかった」

 そう言って、さらに背中に回す腕の力が強くなっていく。


 え! ルークさん、胸板が!

 ていうか、そんな、そんなわたし達、そんな、そんな熱い抱擁だなんて、免疫ないから、私、その、心臓壊れちゃう!

 私が、あわあわしていると、和也が、ルークさんの肩を引っ張って、私とルークさんを離してくれた。


 やばい、心臓が、やばい。ドキドキすごい。動悸、息切れが……!


「ルーク、悪いけど、俺たちは抱擁が挨拶みたいな文化で育ってないんだ」

さっきまでとは打って変わって、厳しい目で和也が日本の常識を教えてくれると、ルークさんが、私の肩の上に乗せていた手を慌てて離した。


「悪い、和也、それにサクラコさんも、その、なんか、いてもたってもいられなくて……。でもほんとうに無事で良かったって、それに、倒せたのは、サクラコさんがいてくれたからって思ったから。サクラコさんを守らなきゃって思ったら、いつもよりも強くなれた気がして……」

 そう言って、ルークさんは、照れくさそうに私をみて、微笑んだ。


 ……どうしよう、嬉しい。私、男の人に守られてる。

 今までの人生で初めてだ。私を守ってくれようとしてくれる人なんて……。

 やっぱり、好きかも。私、ルークさんのこと……。


 でも、私が、本当はか弱くないと知ったら、どう思うかな?

 もう、守ってくれなくなる……?

 か弱くて可愛いって、守ってあげようだなんて、そんな風におもわなくなっちゃうのかな……。


「サクラコさん? ご、ごめん、そんな難しい顔しないで。その、さっきは突然抱きしめてごめん」

 突然だまりこくった私にルークさんが心配そうにそう声をかけてくれた。

 私は慌てて首を横に振る。


「あ、ううん! 違うんです。さっきはびっくりしましたけど、全然、大丈夫です!」

「いや、ごめん、今度からは気をつける」

 そう言って、柔らかく笑うルークさんが、やっぱりカッコよくて……。


「よし、オウルデーモンロードを倒したことだし、狼煙をあげてこのクエストを終わりにしょう」

 ガンジさんが楽しそうな声でそう言った。

「狼煙?」

「そう、このクエストの目的を達成したら、青い煙を上げることになってる。今オウルデーモンの討伐クエストで外に出ている奴らにもう終わったよって知らせないとな。当初の目的はオウルデーモンだったが、オウルデーモンロードを倒したんだ。最初に目撃したやつが、オウルデーモンロードと、オウルデーモンと見間違えた可能性もあるし、一度引き上げた方がいいだろう」

 そう言いながら、ガンジさんが、カバンをごそごそして青い塊を取り出した。


「和也、火打石持ってるか?」

 ガンジさんが和也に向かってそう言うと、和也は少し遠くを見て、険しい顔をした。


「なあ、ガンジさん。クエストの魔物を討伐したら青い煙を出すんだよな? それじゃあ、赤い煙はどんな意味があるんだ?」


「赤い煙は、想定外の強い魔物が出てきたり、パーティーが全滅しそうな時だな。救援信号だ」

「……となると、あの煙はやばいんじゃないか?」

 そう言って、和也は、ある一点を指差した。


 赤い煙だ……。

 青空に赤い煙が登っているのが見えた。


 ガンジさんは、それを見て和也と同じように眉をひそめると「ああ、やばいな……」と、低い声で呟いた。


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