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サクラコ、普通の女の子になる


「ね、ね、一緒に水浴びしたの?」

 体をさっぱりさせたお二人が戻ってきたのを見計らって、私はこそこそと和也のもとに伺った。

 確認しなければならないことがある。


「一緒に入るわけないだろ。気持ち悪い。俺は顔を洗っただけ、あいつは池に飛び込んでたけどな」

 なんだか面倒そうな顔で和也が答えた。

 ルークさんったら、池に飛び込んだりするんだ。

 子供みたいで、無邪気なところも、なんだか素敵……!


 あれ、ということは、和也ったらルークさんの裸体を!? 裸体を、見たのね!?

 あ、ダメダメ落ち着いて私。そんなに興奮したら。変態になっちゃう。


「なに?」

「和也、ルークさんはかっこいいよねうん、わかるよわかる。でも、私と和也がライバルになるなんて、そんなの、なんていうか、考えてなかったていうか」


「へぇ、なんのライバル?」


「だから、それは、その……! もう、わかるでしょ!?」

「サクラコは本当にアホだなっていつも思ってるけど、考えを改めるよ。サクラコは、大アホだった」

「なんで!? ひどい!」

「もういい、もういい。言っとくけどな。俺は男が好きなんじゃないからな! 」

 え? そうなの?

「でも、和也って渡辺さんのことが好きだったんでしょう?」

「違うよ。 どこから渡辺のおじさんが出てきたんだよ」

「だって、和也、前に好きな人の話になって、その人は自分より強い人って言ってたし、そうなると、うちの道場の渡辺さんかなって……」

「……渡辺のおじさんより、強いやつ、他にいるだろう?」


「渡辺さんより強い、人……?」

 私がちょっと考えていると、和也はスタコラと先に早歩きで進んでしまった。

 なんだか機嫌が悪い、のかな?


 それからというもの、森を歩いている間もなんだか和也の様子がおかしい。

 私のことを意味ありげに見て、何か言おうとするそぶりをするのだけど結局何も言わない、みたいなことが多い。


 和也、どうしたんだろう。

 何か言いたいことがあれば、気軽に言ってほしい。

 だって、私たちは、家族なんだから……。



---------------



「見てくれ。魔物の爪痕だ。オウルデーモンのものかもしれない。まだ新しい。近くにいるぞ」

 ガンジさんが少し緊張した声でそう言って、大きな木の幹につけられた大きな獣の爪痕を私達に見せてくれた。

 これが爪痕だというのなら、相手は相当でかい。


 和也もオウルデーモンの爪痕を見て、いぶかしげに眉をひそめて、

「……最初に会ったあの魔物が、オウルデーモンじゃなかったのか」

 とぼそっと呟く。


 やっぱり、和也は最初この世界に来た時に倒した魔物をオウルデーモンだと思っていたらしい。

 あんなに弱いんだから、そんなことないってあの時言ったのに。


「どうするぅ? 魔物がいる場所わかりそう?」

 私の言うことを信じてなかった和也に呆れていると、レイラさんが、ガンジさんに確認した。


「ああ、足跡が残ってる。比較的新しい。このまま追っていけば、いずれたどり着くはず。魔物の居所が分かったら、こちらから勝負を仕掛けよう」

 というガンジさんの言葉に皆頷いた。


「でも、この爪痕、オウルデーモンにしては、でかすぎるような気がしない……?」


 不安げにレイラさんが言うと、ルークさんが、頷いた。


「確かに、大きい個体かもしれないですね。でも、大丈夫です。僕達なら倒せます」

 ルークさんの力強い言葉を聞いたガンジさんが、小さく息を吐いた。


「そうだな。どちらにしろ、俺たちがやるしかない。行こう」


 そして私たちは魔物の痕跡を追うことになった。


「サクラコさんとカズヤは、列の真中にいて。僕から離れないで」

 そう言って、ルークさんが私と和也の前に来てくれる。


 先頭をガンジさんが先導してくれて、ルークさん、それに私達、レイラさん、後ろにモロゾフさん。という布陣だ。

 ガンジさんが、魔物の痕跡を確認しながら、じりじりと進む。

 大して歩いていないけれど、周りを警戒しがらななので、なんとなく緊張する。

 それで結構体力を消耗する感じがして、他の人の顔色を見てみると、やっぱり皆疲れが見えていた。


「ちょっと、ここで待ってて」

 ガンジさんがみんなにそう言いおいて、近くの木に上った。

 そして大きな枝に足をかけると、双眼鏡のようなもので遠くを見る。


「あれは……」

 ガンジさんはそうつぶやくと、木の上からするすると降りてきた。


「いた……ここから遠くない場所にいる。この足跡を残した魔物に間違いない」

「なら、行きましょう。奇襲を仕掛ければ」

「いや、待ってくれ。違うんだ。相手はオウルデーモンじゃない! オウルデーモンロードだ」


 オウルデーモンロード?

 いまいちよくわからない私と和也以外のメンバーは息をのむように驚いた顔をした。


「オウルデーモンロードだなんて……A級モンスターじゃない」

 レイラさんが呆けたようにつぶやくと、ガンジさんが苦い顔をした。

「今まで町に報告が上がっていた魔物の被害は、オウルデーモンロードによるものか? それともオウルデーモンとオウルデーモンロード両方とも町の近くにいるのか……?」


「どちらにしろ、今は近くにいるオウルデーモンロードを私達で倒すしかないわ」

「だが、オウルデーモンロードだぞ!? 」

 レイラさんの言葉にガンジさんが食って掛かるように言うと、二人はにらみ合った。

「私たちはA級パーティーよ。倒せるわ!」

「それは、治療術師のゲイル爺さんや呪術師のホーリーがいてからこそだ。今のパーティーだと……。それにA級モンスター相手に、こんな、準備だって、できてないのに……レイラ様やルーク様に危険なことはさせられない」

「いまさらよ、ガンジ。私はもう、王の女じゃないし、ルークは勇者。王子なんかじゃないの。もう私達は後戻りできない。それに、こんな辺境の町に、オウルデーモンロードを相手に倒すことができる可能性があるのは、私達だけなのよ」


「だが……」

 そう言って渋るガンジさんの肩に、ルークさんが手を置いた。


「いけます。僕に行かせてください。僕なら倒せる」

 そういったルークさんはかすかに唇の端を上げた。


「正直、自分より弱い魔物をただ殺すのには飽きていたんです。オウルデーモンロードなんてものが出てきてくれて、ありがたいぐらいですよ」


 今までのお穏やかなルークさんじゃない顔で、ルークさんが笑っている。

 少し怖いと感じる凄みのある笑顔……たぶん純粋に、自分の力を試すことができる機会に、気持ちが高揚しているのかもしれない。


 その顔を見たガンジさんが、ゴクリと唾をのみこんだ。


 そして、「わかりました。でも、無理はしないでください。こちらが常に有利に動けるように行動します」と言って頷いた。


「となると、魔物が今どういう状態なのか、が気になるわね。何故か動かずにずっと突っ立ているのかしら? まちぶせ?」


 レイラさんがそうつぶやくと、和也が口を開いた。


「俺にその双眼鏡、貸してもらえますか。俺も鑑定魔法使えます。目に見えるものなら、もう少し詳しく鑑定できるかもしれない」


「和也、遠隔からの鑑定もできるの!? 本当に、君の魔法は……すごいね」


 ルークさんが、驚愕の表情でそういうのを涼しげな顔で受け止めた和也は、ガンジさんから、ひょいと双眼鏡を奪って木に登り始めた。


 そして、ガンジさんがさっき見ていた方角に向かって和也は双眼鏡を目に当て、呪文を唱えた。


 しばらく和也がそこでじっとしてから何事もなかったような顔して、するすると降りてきた。


「あの魔物、今寝てますね。鑑定したら、『状態:眠り』になってました。あと種族名は間違いなくオウルデーモンロード。突発的に自然発生したタイプの魔物みたいです」


「お、あ、ありがとう、和也君」

 ガンジさんがちょっと面食らったようにそう言って双眼鏡を受け取った。

「いえ、あと地図を用意するんで、安全に魔物を屠る作戦を考えましょう」


 和也はそう言って、リュックを下すと、紙きれを出した。

 そして呪文を唱える。


 すると先ほど和也が取り出した紙にすると、地図が浮かび上がってくる。


 地図魔法だ。


 和也が、魔法で出来上がった地図をガンジさんに渡すと、ガンジさんは地図を受け取りながら、びっくりした顔、というかちょっと呆れたような顔で受け取った。


「ありがとう和也君。本当に君はなんでもできるんだな。なんか困ったことがあったら、これからは真っ先に頼ることにするよ」

「いいですけど、俺、これでもジョブは商人なんで、お金取りますよ」

「ちょっとはまけてくれよ」

 と言いながら軽口を言った二人だったけれど、すぐに地図の上に厳しい視線を向けた。


「この赤い点になっているところ、さっきの魔物がいる場所だね。ん? このマーク、まさか、状態を知らせてくれてるのか?」


 ガンジさんはそう言ってから、地図上の一つの箇所に指を置く。

 そこには赤い点が記されていて、そのすぐ近くに『Z』みたいなマークがついていた。

 和也は頷く。


「たぶん、これは寝てるってこと。この地図は、現実の状態と連携してる。今は寝てるけれど、万が一相手が起きたら、このマークは消える」

 ルークさんが、感心したように息を吐いた。


「すごい、初めて見た。上級の地図だ。となると、魔物に俺たちのことが気づかれたかどうかは、この地図を見ればわかるってこと……か。なんて恐ろしく便利な魔法なんだ」

 そう言って、ルークさんが、のどを鳴らした。


「本当にありがとう和也。これがあれば、かなりこちらの有利に動ける」

 そう言いながら、ガンジさんが、魔物がいると教えてくれたところから少し離れたところを地図で指さした。


「まずは、魔物に気づかれないうちに、ここからレイラ様の全力の魔法で、先制攻撃を与える。できそうですか?」

「ええもちろん。全力を叩き込むわよ!」

 そう言って、微笑んだレイラさんだったけれど、少し眉を下げた。


「でも、多分私の魔法では、オウルデーモンロードを倒すことはできないわ」

「わかっています。おそらくそれではオウルデーモンは、倒せない。だが、多少は動きが悪くなるはずだ。そこをルーク様と俺で近接戦闘をして仕留める」


「待ってください。近接戦闘は僕一人で十分です」

 ガンジさんの作戦に、ルークさんが声を上げた。

 しかし、ガンジさんは冷ややかな顔でルークさんを見る。


「だめです。ルーク様は一人で突っ走るところがある。オウルデーモンロードを相手にして全力を出そうとする。でも、ルーク様の力にその剣は耐えられない。大事な場面でルーク様の剣が折れたら俺たちは負ける」

 そう言って、ガンジさんはルークさんが背負った大剣を見た。

 ルークさんは悔しそうに顔をゆがめて、やがて頷いた。


「わかりました……」

 ルークさんの力に剣がついていけてない、というのは、私も今までの魔物との戦闘を見ていて感じでいた。

 ここまで来るのに、少なくない数の魔物を何匹か倒してきたけれど、ルークさんは全力が出し切れないでいた。

 それはもちろん相手が弱すぎてということもあったけれど、全力を出すことで剣が壊れるのを危惧していたのかもしれない。

 というか、ルークさんの持ってい剣は、剣というよりも、厚くてほとんどただの鈍器なのだけれど、それでも刃こぼれしてるし、そろそろ限界が近そうである。


「早く、ルークに見合った剣を見つけてあげないとね」

 そう言って、レイラさんが、ちょっと落ち込んでいるルークさんの肩に手を置いてそう言った。


「モロゾフは、サクラコちゃんと和也君を守っていてくれ」


「あ、あの! 私たちも何か、手伝います! いつも戦闘だと守られてばかりで……」

 私がそういうと、ルークさんが優し気な顔で微笑んだ。

「桜子さん達は後ろにいてほしい。闘いには巻き込みたくないんだ。闘いのことは僕たちに任せてほしい」


「でも……」

 正直な話、私、多分、結構強い……。

 何か言おうと思ったけれど、でもそのことを伝えたら、ルークさんがどう思うかが気になって、口に出せなかった。

 嫌われたくない。前の時みたいに、怪力女とか、化け物女とか言われたくない……。

 でも、今は、みんなが大変な時だし、そんなこと言ってる場合じゃ……。


 私が迷っていると和也が私の口の前に手をかざした。


「ルークたちに任せよう。俺たちは戦闘職じゃないんだ。前線に行ったほうが足手まとい。それに、ルークたちでやれない相手じゃないから挑んでるんだから、大丈夫だろう。サクラコは少しは男子に花を持たせるってことを覚えたほうがいい」


「和也……」


「ありがとう、カズヤ。それにサクラコさんも。その、一緒に戦ってくれるって聞いて、嬉しかったよ。でもサクラコさんが後ろにいてくれた方が、自分の実力を出せるから、後ろにいてほしい」


「あ、私がいると邪魔だってことですよね、すみません」

 私は慌てて、謝った。

 だってよく考えたら、私って、団体戦での協力プレイとかには、あまり精通してない。今までやっていた武術は一対一の対人戦だったし、よく考えたら、こんな大きな魔物を相手にしたことなんて、ないんだし、人とはリーチも形も違う相手だと経験不足すぎて、足手まといかもしれない。


「ううん、ちがくて、なんていうかその……守りたい人がいる方が強くなれる気がするんだ」

 そう言ってルークさんはいつもの熱っぽい瞳で私のことを見てくれた。

 そんな風にみられると、やっぱりドキドキする。

 まるで、普通の女の子になれたみたい……。



 そのあと、私たちは細かい打ち合わせを終えて、早速オウルデーモンロードがいるところまで進むことになった。



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