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サクラコ、見学する

 次の日、レイラさんの体調が回復したのを確認してそのまま旅を続けることになった。


 あの時、レイラさんに魔王を倒す日まで一緒にいて欲しいとお願いされたとき、すぐに答えられずにいると、答えはこのクエストが終わってからでもいい、と言ってくれて、私と和也はお言葉に甘えて答えを保留にしてもらっていた。


 突然の話だったし、まだこの世界のこととかもわかってなくて、それに、魔王とかも正直よくわかっていない。レイラさん達のことは好きだったけれど、すぐにうんとは言えなかった。


 けれども、今までレイラさん達との間には何か壁があったような感じがあったのだけど、それからはその壁がなんとなく和らいだ感じがする。


 そしてもう一つ変化があった。

 何を思ったのか、和也が「もし迷惑じゃなかったら、俺に戦い方を教えてほしいんだけど」とルークさんに教えを請うたのだ。


 ルークさんは、驚いた顔をしていたけれど、すぐに笑顔になって「いいけど、あまり教え方は上手くないと思うよ。人に教えたことなんてあんまりないんだ」と言って、受け入れて、二人は休憩のたびに稽古をするようになった。

 レイラさんが休憩のたびに剣の稽古をする二人に、よくやるわよねぇ、若いっていいわぁと、呆れていた。


 オウルデーモンを見つけられないまま旅は数日経過してるわけだけど、稽古を通してルークさんと和也が急接近していた。

 二人の急接近に危機感を覚えた私は、二人が稽古しているところを必ずお邪魔虫のように見学させてもらっていた。

 

 ルークさんは、やっぱり強い。剣筋が綺麗だし何よりも、体幹がしっかりしていてぶれない。

 それでいてあの怪力。

 この世界の人は特別強い人がいるって、あの時のテディベアの神様が言っていたけれど、間違いなくルーさんはその特別だ。だって実際勇者と言われる存在だもの。


 それに、あの和也が、翻弄されてる。

 和也は、あの事故以降うちの道場で稽古をつけなくなったけど、それまではうちの門下生だった。

 私にはかなわないけと、でも筋が良くて、道場の中でもベテランの方に負けず劣らずの腕前で……。

 その和也がいいようにあしらわれている。


 ルークさんて、本当に強いんだ。


 私と、どっちが強いだろう……。

 動きは全然目で追えるけれど、まだ本気を出していない可能性もあるし、一つここで勝負をしたら……。


 ハッ! だめよ桜子! なんで戦闘狂みたいな考え方をしたの、今。

 異世界の私はか弱いコックさん。

 腕試ししたいとかそんなこと思ったりしないのよ!


 いけない、二人の稽古をの姿を見るたびに、そんな誘惑に駆られてしまう。

 どっちが強いかなんて、どうでもいいんだよ!

 ていうか、ルークはさんの方が強いってことでいいじゃないか!

 そうすれば、私は、念願のか弱い女の子。

 王子様みたいなかっこいい恋人に守ってもらえる。


 そう思って、色々妄想して、私は顔を下に向けた。

 

 もし、私が、か弱くないとルークさんが知ったら……どう思うだろう。

 ルークさんは私に優しくしてくれる。すっごく優しくしてくれるし、気を使ってくれる、魔物が出てくれば、守ろうとしてくれる。

 でもそれってきっと、私がか弱い女の子だと思ってるからそう接してくれているんだ。

 あの、たまに照れたような表情も、私がか弱い女の子だから向けてくれるわけで……。


 なんだかよくわからないけれど気分が沈んだ。 

 私ルークさんをだましてることにならないかな……。

 でも、それでも、私がか弱くないってわかって、ルークさんに嫌われるのはいやだ。

 照れたような笑みを向けてくれなくなるのはいやだ。

 もしかしてルークさん、私のこと好きかも? って思えるあの熱い目で、私のことを見てくれなくなるのは、嫌だ。


「くそ……。やっぱり強い……」

 そう言って、ルークさんに稽古をつけてもらっていた和也がへたり込んだ

 私は自分の考えを追い払って、和也達の様子に視線を向ける。


「カズヤも、思ったよりも強いよ。正直驚いた。どうしてジョブを商人にしたんだ? まあ、もちろんカズヤが使う補助魔法は強力だけど、戦闘系の職でもいけそうだよ」

 ルークさんが、へたり込んでいる和也を見下ろしながらそういうと、和也が生意気な顔を見上げた。

「人には向き不向きがある。戦闘職だと、まずまずの成績しか残せないからな」

「ふーん、和也は、商人の親玉にでもなるつもり?」

「親玉? そんなちんけなもので終わるつもりはない。どうせなら世界を牛耳ってやるつもりだよ。つまり親玉の親玉。商人界の魔王だな」

「手強い魔王になりそうだ。僕じゃ勝てないだろうね」

「当たり前だ」


 二人がそんな軽口をたたきあいながら笑っている。

 なんだか、二人で仲よさそう。

 男の友情というやつだろうか。


 和也は結構人見知りするところがあるのに、なんだかんだで結構ルークさんにも気を許してる気がするな。


 ……。


 ま、まさか……和也って、まさか……。


 私が危険な妄想に頭がいっぱいになっていると、、

「サクラコさん? ちょっといい?」

 とルークさんに話しかけられた。


 いつの間にか、汗を流したルークさんが、目の前で爽やかな笑顔を私に向けていて、その向こうでは地面にへたり込んだ和也が、水をあおるように飲んでいるのが見える。


 いけない、危ないっ妄想で頭がいっぱいで気づかなかった。

 私が慌てて返事を返すと、ルークさんが話をつづけた。


「これから水浴びに行こうと思ってて」

「水浴びですか?」

「うん、この近くに泉があるんだ」

「ちょっと汗を流しすぎちゃったから体を拭きたくてね。サクラコさんはどうする? ついてきてもいいけれど、レイラのいるところまで戻る?」

 そう言って、ルークさんは額に浮いていた汗をぬぐった。

 なるほど、私たちがいるところはレイラさん達がいる野営地から離れているから、戻るか一緒に行くか聞いてきてくれたらしい。


 水浴びについていくってなったら……つまり、ルークさんの裸体を……。

 あ、だめだめ、私って今度は奴は一体何を妄想して! 


「えっと、私はレイラさんのところに戻ってますね」

 私はちょっと脳裏によぎったルークさんの半裸を頭を振って追い払ってからそう言った。


「サクラコ! 覗くなよ!」

 そんな私に、和也がニヤニヤしながらそんなことを言ってきた。

「覗きません!」


 憎たらしい和也め。ルークさんの前でまるで私が人の水浴び姿を覗くようなハレンチな子だとも割れたらどうするの!?

 まあ、でも確かに、ルークさんの水浴び姿……気になる。

 たぶん結構筋肉とかついてる感じだし、見てみたいな。


「サ、サクラコさん?」


 私がルークさんの胸筋おあたりを凝視していると、ちょっと戸惑ったような声でルークさんが、声をかけてくれた。

 あ、ごめんなさい、つい。


 私は強靭な精神力で己を自制しながら、二人にバイバイして、その場を後にした。


 それにしても和也とルークさん、仲が良くなりすぎなような。

 和也はガンジさんと、と思っていたけれど、まさかルークさんに鞍替え!?

 和也のライバルにはなりたくない……なんかめっちゃ強そう。

 ご近所でも評判の幼馴染の甘いマスクを想像して身震いした。

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