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サクラコ、精製する

 川の近くにつくと下に布を引いて、レイラさんを寝かせた。

 まだレイラさんは目が覚めていないようだった。


 ガンジさんが、お医者様みたいに、レイラさんの脈を測ったりしている。


「多分、脇腹のあたりに虫刺されの痕があるから、コウカネツ虫病だとは思う。ただ結構症状が進んでる。この衰弱はひどい……。最近良く酒を飲むなとは思っていたが、酒を飲んで気を紛らわしていたか、それとも。俺たちに悟らせないようにしていたか……くそ、俺が気づかないといけなかったのに!」

 そうガンジさんが悔しそうに言って、頭を掻いた。


 どうやら、レイラさんの頬が熱かったのは、酒だけのせいじゃなく、コウカネツ虫病というもののせいらしい。


「コウカネツ虫病って? 結構重い病気なんですか?」

 私がそう問いかけるとガンジさんはレイラさんを見ながら答える。

「コウカネツ虫病は、コウカネツ虫という虫に刺されて発症する病で、一過性のものだけど、無理をすれば衰弱して死に至ることもある。症状は、体温の上昇や倦怠感、吐き気、それに、著しく体力が奪われる」

 症状的には、風邪に似てる感じだ。

「それって薬とかあるんですか?」

「毒消し薬があるからコウカネツ虫の毒を消すことはできるが、衰弱症状はしばらく続く。安静にしないと...」


 そう言ってガンジさんは、懐から、液体が入った瓶を取り出した。

 薬草を採取するときに教わった毒消し薬だ。毒消し草の煮汁で作る薬。


 ガンジさんは、毒消し薬の瓶のコルク栓を口で開けて、片腕で、レイラさんを支えながら、ゆっくりとレイラさんにのませようと瓶を口元に充てる。


「レイラ様、毒消し薬です。お飲みください」



 ガンジさんがそう声をかけ上げると、弱々しくレイラさんが目を開けた。


「大丈夫、よ。ガンジ。私はすでに毒消し薬は飲んだの。もうコウカネツ虫の毒はない」


「やはり。毒消し薬を飲んでも安静にしなければ、治りません! なぜ隠していたのですか! ……まったく、とりあえず少し休んだら町に戻りますからね」


「いやよ! 私は、大丈夫、だもの! そ、それに、オウルデーモンは私達じゃないと倒せない。勇者のパーティー、として、私達が倒さなけれ、ば」


「レイラ様!そんなこと言っている場合ではありません!」


「母上! そうです! 無理なさらないでください! オウルデーモンなら、僕一人でも!」

「だめ! 一人でなんて絶対に行かせないから!」

 そう言って、血走ったような目でルークさんを睨みつけるレイラさんの迫力にみんなが絶句した。


「我儘は、もうおやめください。あなた様が体調不良を隠していたことで、すでに迷惑をかけられていたというのに、これ以上迷惑をかけるおつもりですか?」

 モロゾフさんが静かに、けれどもはっきりとそう告げた。

「何を!?」

 モロゾフさんの突然のキツイ一言に、レイラさんが、顔を歪めて、睨む。


 しかし、すぐに瞳を伏せてうな垂れた。


「……ごめんなさい」

 そう言ったレイラさんは少し目が潤んでいるように見えた。


「とりあえずレイラ様は安静にしてください。どちらにしろ村まで結構離れてるところまで来てしまった。今から戻るとなっても、レイラ様の負担が大きい。近くで野営をして、レイラ様の様子を見よう。ルーク様、それでよろしいですか? レイラ様の容態を見て、先に進むか戻るか決めましょう」


 重苦しい空気の中、レイラさんの苦しげな息遣いが聞こえる。

 どうして、そんな無茶までしてレイラさんは、オウルデーモンを倒したいのだろう……。

 私が苦しそうなレイラさんを見ていると、ルークさんが私の方を見た。


「サクラコさん、母に何か滋養のあるものを作ってもらっても良いですか? 回復付きだと何よりなんですけど」

「はい! もちろんです! 作ります!」


 回復の効果が付くかどうかはわからないけど、レイラさんのために一生懸命作る!


「和也、カバン見せて」


 私はそう言って和也のリュックの中を覗く。

 風邪を引いた人が食べやすいものが良い。それでいて滋養もあって、消化にも良くて、風邪に効くようなもの……。


 しかしリュックの中は基本的に保存食ばかり、しょっぱかったり、固いものが多い。主食も米じゃないからおかゆも作れないし。

 ジャムとかは良さそうだけど、でもこれだけじゃ栄養が。やっぱり風邪といったら...


 と考えた時に、視界の端に葛が目に入った。


「和也、あれって葛だよね?」


 ここまでの旅の道のりでも結構繁殖していた葛が、ここでも群生していた。


「確かに、葛だな。まさか葛湯作るつもりか?」


 サバイバル好きな父に連れられて、家族で山にこもった時に、葛の根から葛の粉を精製したことがある。

 私は頷いた。


「無理だ。桜子も知ってるだろ? 葛の根から葛の粉、でんぷん質の部分を取るのは、粉砕したり、アク抜きも必要だし、時間がかかる。今は無理だ」


「大丈夫、任せて。私ならすぐに作れる。和也悪いけど、ちょっと手伝ってくれる?」


 和也は訝しみながらも頷いてくれた。


 ルークさん達に、調理に入るために少し離れた場所に行くと伝えて、葛の群生地の奥に向かう。


 葛の群生地の根元を調べて、大きい根っこを見つけて狙いを定める。

 うん、このあたりの葛にしよう。


「和也、葛の根を掘り起こすから手伝ってくれる?」

「良いけど、シャベルとかないぞ……」

という和也の話を横で聞きながら、

 私は両手をシャベルのような形にした。

 そしてその手で満遍なく叩くように葛の周りの土を掘っていくと、そのあたりの土が柔らかくなったので、葛の茎を何束かまとめて掴んで上に引っ張り上げだ。


 よし!綺麗に採れた!


「俺の手伝い必要だったか?」


 うまくいったのに何故か呆れたような響きの和也。


「和也に手伝って貰いたいのはこれから」


 私は葛を切断して葛の根の部分だけもつと、それを和也にあずける。


 そしてそのままこれを前に突き出すようにして、両手で持ってて貰うようにお願いして、私はそのすぐ下に背負っていた大きな中華鍋を置いて、その中に布を敷く。


「もしかして、桜子、自分の拳て粉砕する気か!?」

「うん、だからしっかり持っててね」


 そう言って素早く満遍なく和也が持っている葛の根に拳を当てていく。


 一瞬にして根は木っ端微塵になり、下に置いていた鍋に降り積もった。


「……早すぎて、サクラコの拳が複数に見えた」


 青い顔の和也がそういうのでの顔にも、吹き飛んだグズの根の粉末が飛んできているのを払ってあげる。


「ごめん和也、こな飛んじゃった」


「良いけど。いや、こんな無茶苦茶な調理方法は、良いわけないけど、とりあえずここまでは良いとしても、アク抜き、というか葛の根のデンプン部分を沈殿するのを待つのは短縮できないんじゃ?」


「大丈夫よ」


 私はそう答えて、鍋に川の水を入れる。するとすぐに水は茶色に濁っていく。

 中に敷いていた布の端と端を合わせて上に持ち上げる。ジャーっと水分だけが鍋の中に落ちていく。

 布の中には、葛の根の繊維質部分、そして鍋の中は、茶色の液体が残った。


 葛の根のデンプン質はこの茶色い水の中にある。

 本来なら、時間をおいて底に沈殿するのを待つしかないけど、今はそんな余裕がない。


 私は、ジャガイモを入れていた大きな革袋からじゃがいもをどかして、そこにその茶色の汁を入れた。


 そして硬く口紐を結んで、気を研ぎ澄ます。

 大丈夫、わたしならできる。わたしなら。


「ま、まさか、サクラコ……遠心分離機に……」


 和也がそういうやいなや私は革袋を持つ右手を振り回した。

 ぐるぐるぐるグルグルグルグル……。

 まだまだ足りない。もっともっと早く!


 ブンブンブンブン……!


 私の腕の回転が音速を越えようとした時に、革袋の方がダメになりそうだったので止めた。

 でもこれだけ回したらきっと大丈夫。


 私は皮袋を開けて、底をさらってみると細かい茶色の粉が沈殿してる。


 成功だ!

 でも、まだアク抜きがイマイチなので、茶色の汁を捨てて綺麗な水を入れ、また、同じように回すというのを繰り返す。

 何回か繰り返すと、革袋の底に綺麗な白い粉の沈殿を確認した。葛の粉だ!


「和也、完成した!」


 私は興奮しながら、後ろの川で鍋を洗ってくれている和也に声を架ける。


「ああ、終わったの? そう。桜子の女子力(物理)な料理、楽しみにしてる」


 和也は、やっぱり呆れた目をしていた。

 なんでだろう。思いのほかに手伝ってもらうことが少なかったからすねちゃったのかな?


 まあ、いいや。葛粉ができたんだから、むしろこれからが本番。

 和也から洗ったばかりの鍋を受け取って、ルークさん達がいる方に戻った。

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