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サクラコ、ときめく

 次の日の朝、改めてマリーさんとジャブリンさんに別れを言った。

 その際、ジャブリンさんには、最初に預けた制服を返してもらった。

 なくてもいいものだし、ジャブリンさんにお礼としてそのまま持ってもらってもよかったのだけれど、でも、この制服がなくなったら、前の世界のことがなかったことになりそうで……。

 私の気持ちに気付いてなのか、ジャブリンさんは快く返してくれて、むしろ貸してくれたことのお礼まで言われた。

 ジャブリンさんは本当にいい人だ。

 それにマリーさんからは、たくさんのジャガイモをもらった。

 本当にいいご夫婦である。


 ルークさん達との集合場所へ着くと、レイラさんが言う通り、私たちのパーティー以外もたくさんのパーティーがオウルデーモン討伐のために集まっていた。

 屈強そうな戦士達が集合場所の街の門のあたりでごった返している。

 それを町のギルドの人が誘導して、色々と場所を振り分けているようだった。


「私たちは、カキネフィールの森の一番奥まで行くことになったわ。無事にそこでオウルルデーモンと出会えればいいけれど……」

「カキネフィールの森?」

「この街の西側にある森よ。魔物が多いけれど、貴重な薬草がたくさん生えているから有名な狩場。奥に行けば行くほど強いモンスターに遭遇しやすいの。無事にそこでオウルデーモンと会えればいいわね」

 レイラさんがそう真剣な顔で言った。ガンジさんも周りの様子を険しい顔で見てからポリポリと頭をかく。


「それにしてもギルドも手当たり次第に人を集めたみたいだな。E級のパーティーもいる。万が一オウルデーモンに遭遇したら全滅しちゃうんじゃないか?」

「……そうね、ギルドは仕事が甘すぎるわ。誰か怪我人が出る前に、早いところ私たちが見つけて処分してしまいたいわね」

 深刻そうにそう言うと、レイラさんは門へと向かっていった

 私はその頼り甲斐のある背中を追いかける。


 初めての冒険……なんだかワクワクする。

 いや、危険もあるのだからワクワクしちゃいけないんだろうけれど。

 それに、こういうキャンプみたいなものだって久しぶり。小さい頃はよく和也の家族と一緒に山にキャンプに行ったな。それで、オウトドア大好きなお父さんと一緒に熊狩りをしようとか言って、夜は熊鍋だった……楽しい思い出だ。


 隣を見れば和也が口元を押さえて青白い顔をしていた。


「どうかしたの? 和也」

「いや、森をみたら、昔行ったキャンプで、熊の返り血を浴びたサクラコが、目の前でクマを捌き初めて、その肉を食わされた思い出が蘇って……うぷ」

「え? クマ、美味しかったでしょ?」

「味なんかわかんない。ただあの時のグロい映像しか覚えてない……」

 和也はそう言って、神経質そうに眉を寄せた。和也は繊細だなぁ。


「サクラコさん!」

 突然ルークさんに声をかけられてあわてて振り返る。

 すると、かっこいいルークさんの姿が目の前に……。

 う、顔が熱い! だってかっこいいんだもん!


「あの、よかったら、クエストのこととか初めて、だよね? 僕が知ってることでよかったら、教えるよ」

 イケメンルークさんの口から、そんなお優しいお言葉まで飛び出してくる。

 妄想じゃないよね? このルークさん私の妄想の産物じゃないよね? と思いながら、しおらしく「いいんですか?」と確認するとルークさんは笑顔で頷いた。


「うん!道中は、魔物に遭遇しなければ時間は空いているし、それに休憩もちょくちょくとるだろうから、その時にでも」

 

 嬉しい……ルークさんて本当に、かっこいい上に優しい!

 私をこんなにときめかせてどうするつもりなの!?


 私がときめきを隠せないでいると、和也が割って入ってきた。


「ルークさん、別にそういうのはいらな……グフッ」

「いいじゃねぇかよ、和也くん! それに、お前には俺が色々教えてやるよ、ジョブも似てるんだ。お前が唱えられそうな呪文教えてやるって」

 そう言ってガンジさんが、後ろから和也の首を左腕でホールドした。


「い、いらな...ぐ」


 とか和也は言いながらガンジさんに首をホールドされつつ、連れて行かれる。


 そんな様子を見てルークさんが、ちょっと困ったように鼻をかいて、苦笑いしてる。


「……ガンジさん、全く。変な気の回し方をする」

 ボソッとルークさんがそういうと、チラリと私の方を見て、目を泳がせた。そし慌てて口を開く。


「あ、あの、だ、だから、何か聞きたいことがあったら、声かけてね」


「は、はい」


 私も思わず顔を赤らめてしまう。

 だって、だってルークさん、顔が、真っ赤なんだもの!

 やっぱりルークさんって私のことが好きなの? そうなの? そうだよね? そう言うことだよね? そうじゃないとおかしいよね?


 えー!照れる!私にもとうとう春が!

 だって今までは、男の子と目があっても逃げられるとか、怯えられるとか、そんなのばっかだったし...

 異世界、来てよかった……。


 私がしみじみとそう思っていると、後ろから和也の荒ぶる声が聞こえてきた気がした。

 チラリと振り向くと、ガンジさんと喧嘩してると見せかけて、楽しそうじゃれついてるように見えなくもない。

 実は結構人見知りの和也があんなに素を出すなんて珍しい。

 もしかして、和也、ガンジさんのこと...?

 ガンジさんって、大人の男の人って感じで、結構かっこいいし、和也の趣味だったのかも。


 私にも春が来たのだし、和也にも春が来て欲しい。そこに愛があるなら、相手の方が男性でもお姉ちゃん応援するよ。

 私は温かな笑顔を送ると和也は何故だか心底嫌そうに睨んできた。


 やだこわい。


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