サクラコ、泡だて器になる
「桜子、調子はどう?」
キッチンで料理をしていると和也がそう声をかけてきて、キッチンに入ってきた。
「うん、順調だよ! 今は、メインを焼いている間に、サラダのドレッシングとして、マヨネーズ作ろうかと思ってたとこ!」
「マヨネーズ? 作れるのか?」
「うん、卵に、お酢に、塩に、油。材料はあるから大丈夫」
「じゃなくて、あれって、すごい混ぜるんだろ? 泡だて器とかないんだぞ?」
「大丈夫じゃないかな。フォークとかで混ぜれば行けると思うよ。ちょっと待ってて、今ちょうど混ぜるところだから」
私はそう言って、ボールにすべての材料を入れたものを抱える。右手には三又の木製のフォーク。
行きます!
カシャカシャカシャ、シャシャシャシャシャー!
「早い! 手の動きが見えない!」
和也の驚く声がつぶやき終わるころには、ボールの中には、マヨネーズがこんもりと出来上がっていた。
「ほら、ね。できたでしょう! 私ね、自慢じゃないんだけど、一分の間に、5000回以上はかき混ぜることができるんだ。でも、さっきはもっといったかも、すごく調子が良かった」
「そうだった。桜子に、泡だて器は無用の産物だった」
呆れたように笑う和也がそういうと、私の顔に手を伸ばしてきて、そのまま頬に触れた。
「マヨネーズがついてる」
そう言って、和也は、私の頬の、たぶんマヨネーズがついてたところを拭う。
「ありがとう、和也。混ぜるときに跳ねちゃったのかな」
そう言って見上げたけれど、和也はそのまま動かない。
「どうしたの? まだついてる?」
私がそういうと、ハッとしたような顔をして、あわてたように手を放した。
「いや、なんでもない。何か手伝うことあるか?」
「うん! そろそろメインが焼けるころだと思うから、このサラダと、ジャガイモと、マヨネーズを食卓に持って行って! メインは私が持っていくね!」
「わかった」
そう言って、和也は料理を持って部屋から出て行った。
なんか、さっきの和也変だったな……。
ま、いっか。
私は気を取り直して、オーブンというか、かまどみたいなところをみた。
うん、いい感じに焼けてる。
私はそこから料理を取り出す。
うーん、焼けたチーズのいい匂い!
我ながら、おいしそう!
ジャガイモのキッシュの完成だ! 最後にチーズを振りかけたから、ピザっぽいけど!
私は、ジャガイモのキッシュを器から外して、まな板の上に置き、食べやすいようにケーキを食べるときみたいにカットする。
ああ、切ったところから湯気が……! いい匂い。
それを器に盛って……!
「すみません! お待たせしました! ジャガイモとチーズのキッシュです!」
食卓のテーブルの中心に置くと、ジャブリンさん夫婦から感嘆の声を響いた。
「まあ、いい匂い! それに見たことない料理ね」
「キッシュっていって、ジャガイモや野菜、ベーコンを炒めたものを、卵と生クリームで閉じて焼く料理なんですけど、すっごくおいしいですよ。本当は土台はパイ生地が一般的なんですけど、今回はジャガイモと小麦粉とチーズを混ぜたものを土台にしてます」
それにキッシュっておしゃれだよね。なんだか女子力高そうで、私の中でモテ女子料理のトップ10入りしてる大好きな料理。
ドキドキしながら、ジャブリンさん夫婦がフォークでキッシュ切り分けて、口に入れるのを見る。
出来立てのキッシュはアツアツで、二人はハフハフ言いながら、咀嚼する。
おいしかったらいいのだけど……。
私がどきどきしながら見守っていると、二人の顔がほころんだ。
「おお、うまい! すごいなサクラコちゃん! これなら近くの料理店にも負けてないぞ! シチューを固めたのか? クリーミーな甘さが舌にとろける。それでいて、生地のジャガイモも外はカリカリ、中はモチモチで、これはたまらん!」
ジャブリンさんはそう言って、フォークを使わずに、キッシュを手でつかんで、口に運ぶ。二口目、三口目、噛み切れないチーズが糸を引く。
隣のマリーさんも、幸せそうな笑顔で、頬に手を押さえて、もぐもぐと味わってくれていた。
「本当に、おいしいわねぇ! これがいつも食べてるジャガイモだなんて気づかないよ!」
そう言って、もらえてほっとした。
私も、自分の分のキッシュを口に運ぶ。うーん、自分で作っていてなんだけど、本当においしい。アツアツでホクホクなジャガイモに濃厚チーズ。
この二つを組み合わせて不味くなるってことはないもの!
そして、ふかしたジャガイモに目を向けた。今日のジャガイモのノルマをキッシュだけでは消費しきれなかったので、いつもおなじみのジャガイモのふかしも食卓に並んでる。
でもいつもと違うのは、マヨネーズがあること!
「あの、いつもジャガイモのふかしたものは、塩をつけて食べてたと思うんですけど、今日は、マヨネーズを用意しました」
私はアツアツのジャガイモのふかしに十字に切れ目をいれる。。
簡単だけど超おいしいし、付け合せのたれで何個でも食べれる気がしちゃう。
「マヨネーズは、お好みでつけて食べてください。サラダのドレッシングにもなります!」と言いながら、みんなのお皿におじゃが様をおいた。
マリーさんは、マヨネーズに興味津々らしく、まずやマヨネーズだけを掬って口に含んでいた。
「不思議な味だねぇ! 酸味もあるし、甘味も、それに何より、なんともいえないまろやかさ」
そう言って、マヨネーズは今度はジャガイモにつけて、口に運ぶ。
マリーさんの目がカッと見開いた。
「あ、あんた! これ! このまよねーずとかいうの、やばいよ! あんたもこれ食べな!」
とすごい勢いで、マヨネーズを載せたジャガイモをジャブリンさんのお皿に入れると、
ジャブリンさんが、「なんだよ、今俺はこのキッシュでチーズとジャガイモのハーモニーに酔いしれてるところだというのに……」
と、文句を言いながらも、マヨネーズ付きジャガイモを口に運んだ。
「これは……!」
そう言って、ジャブリンさんは、ガツガツとマヨネーズ付きジャガイモを口に運ぶ。
「桜子ちゃん、これはおいしすぎる! なんというか、癖になるというか! まろやかでいて、それでいてさわやかな酸味が、後を引くというか、とまらない、とまらないよ!」
と興奮した食レポのように言って、マヨネーズでジャガイモを食べ、サラダを食べと繰り返す。
マリーさんも幸せそうな顔で、おいしいねぇと言って、サラダやジャガイモ、キッシュを食べてくれた。
ありがとうジャブリンさん、マリーさん! 本当にいい人。
なんだかすごい褒めてくれるし! うれしい。二人ともお口がうまいんだから! へへ。
私は二人が美味しそうに食べてくれたことが嬉しくて隣の和也に視線を向ける。
和也は、チーズとかの料理好きだったし、きっと美味しそうに食べてくれてる、と思ったんだけど、和也が、なんかなんともいえない顔で食べかけのキッシュを凝視していた。
「ど、どうしたの? 美味しくなかった?」
「いや、うまい。うまいよ。ただ、なんかよくわからないけれど……うずうずするというか」
「うずうず?」
「なんか……」
といって和也が興奮した食レポのようになんやかんやと料理を褒め称えるジャブリンさんを見た。
そしてまた視線をキッシュに戻して、一口キッシュを口に入れた。
「いや、大丈夫だ。なんでもない。……ていうか、お前もちゃんと食べないと、なくなるぞ」
そういえば、みんなの反応を見てると、食べ損なう!
和也の様子が気になったけれど、私もあわてて食べはじめた。
やっぱり、ジャガイモって最高! おいしい!
「マリーさんのところのジャガイモの出来がいいからこんなにおいしいんですよ!」
とホクホクのジャガイモをかみしめながら言うと、マリーさんは「ありがとう! 実家のお父さんに伝えておくよ!」と嬉しそうに答えてくれた。
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ブクマに評価に感想に、ありがとうございます!
若干日刊ランキングにかすっている、のかな?うれしいです!
ありがとうございます!