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サクラコ、強敵認定される

 朝早く起きてルークさんたちと待ち合わせしていたギルドへと向かった。

 さすがに朝早いのでギルドには人があまりいない。

 泥酔している人が転がったりはしているけれど……。

 冒険者ギルドって24時間営業なのかな。

 ギルドに着くと、奥まった場所にある丸テーブルに、レイラさんとルークさんと、他に2人ほど知らない人がいた。

 あ、やばい。遅れてしまったのかな!? とちょっと慌てて駆け寄ると、レイラさんが、こっちを見て嬉しそうに両手を振った。


「桜子ちゃーん! こっちよ!」

「はい、あのすみません! お待たせしてしまいましたか?」

「平気! 時間通りよぉ! きてくれて嬉しいー!」

 と言って、レイラさんが私に抱きついてきた。ちょっとお酒臭い。そしてどっしりとした胸の重量感がちょうど顔に当たる。

 お、おんな同士だから気にしなくていいのはわかるんだけど、なんだか恥ずかしい。

 だ、だって今までその、胸に顔を埋めたことなんてなかったし!

 レイラさんはスキンシップが多い人なのかな。この調子でルークさんにもスキンシップを、取ってるのかな。

 和也が、絶対遊び慣れてる、とかいうから……なんか気になっちゃう。


 私がわたわたしてると、隣から声がかかった。


「その辺にしておけ。彼女が窒息死する」


 お髭の素敵なおじ様だ。背中に大盾を背負っていて、かなりの大男。

 レイラさんの胸の中から解放された私はおもわず見上げた。

 すごい、大きい。


「あ、やだ! ごめんなさーい! 苦しかった? つい嬉しくって」


「えっと、大丈夫、です!」


 すると横から30歳ぐらいの細身の男の人が温和な笑みを浮かべて、やってきた。

「へー、この子が昨日ルークが言ってた子かぁ。なかなかかわいいじゃないか。ルークは意外とメンクイだったんだな」

 と言って、温和な笑顔から、ニヤニヤした笑い顔に変えて、ルークさんを肘で突いた。


「ガンジさんちょっと! そういう含みのある言い方は、や、やめてください! あとニヤつかないでください!」


「いや、だって女の子にまったく興味を持たない戦闘狂のお前が、昨日はひたすら桜子ちゃんの話するんだもんなぁ。こんな日がくるとはねぇ」


 ええ!? ルークさん、私の話してたの?

 え、でも、なんの話!? いい話!? いい話だよね!? 悪口!?


「わ、悪口ですか?」


「ち、ちがうよ! えっと、その、桜子さんの話をしてたのは本当だけど、違くて。いや違くないんだけど……悪口じゃなくて、だから、その」

 私が驚きで固まっていると、ルークさんが慌てた様子で、何か必死に弁明してくれてる。


 悪口じゃないなら嬉しいけど、そんなに必死に弁明されると逆に怪しいような…。


「もうそろそろ自己紹介とか始めません?」


 不機嫌そうな和也が場の空気をさっくりと切り裂いた。

 ルークさんが、「そ、そうだね。そうしよう!」と言って改めて黄昏の獅子パーティーの面々と向き直る。


「それじゃあ、私から改めて自己紹介するわね。私が、黄昏の獅子パーティーのリーダーで魔法使いのレイラちゃんでーす! 気軽にレイラちゃんって呼んでね!」

 と、それはもう女の私でもくらっと来そうな笑顔でレイラさんが自己紹介してくれた。

 レイラさんって、魔法使いなんだぁ! いいなぁ!

 私がキラキラした目でレイラさんを見ていると、ウィンクをされた。

 素敵……!


「私は盾戦士のモロゾフだ。よろしく頼む」

 ついで、先ほどの大きな男の人が名乗ってくれた。

 盾戦士。

 確かに、初心者のためのジョブ選びの教本に説明があった。

 仲間の代わりに魔物の攻撃を盾で受けて、戦闘を支えるというジョブだったはず。

 確かにこの分厚い胸板にマルタみたいな太ももや腕は相当タフそうだ。



「俺は、鍵師のガンジ。ルークともども、よろしくな!」

 そう言って軽く右手を上げて、快活そうにガンジさんが挨拶してくれた。

 さっきルークさんに昨日ルークさんが私の話をしていたと教えてくれた人だ。


「とりあえずは今の所のメンバーはこんなもんね。他にも二人いるんだけど、一人はぎっくり腰、もう一人は別の仕事を請けていて、今は別行動なの」

 そう言って、レイラさんが話をまとめてくれた。

 他にも二人いるって話だけれど、今の所、みんないい人そうで、ちょっとホッとした。

 黄昏の獅子パーティーの自己紹介が終わったので今度は自分の番だ!


「私は桜子って言います。えっと、遠いところからきて、初めての冒険というか、ギルドの仕事になるので、すごく緊張してますが頑張ります。私の職業は料理人です」

「料理人かぁ、いいね! あんまり料理人スキルを持った人が冒険をしようって思わないから、貴重だよ!」

 とガンジさんが、嬉しそうに言ってくれてほっとした。

 料理人ってジョブとしてどうなんだろうとちょっと思っていたけれど、思いのほかに反応がいい。よかった。


「俺は、カズヤです。商人です。昨日のレイラさんには伝えてますが、収納魔法含む初級の補助魔法はだいたい使えます」

「へー。色々器用にこなすねえ。まだ若いのに大したものだ。それよりさ、二人ってどういう関係なの? このへんでは珍しい黒い髪だし……兄妹?」

「いえ、俺と桜子はこんや」

「和也!もう!」

 また性懲りもなく婚約者発言をしようとしている和也の腕を引っ張って、黙らせる。


「私と和也は幼馴染で、姉弟みたいな感じです。ちなみに私の方が一つ上で、17歳、和也は16歳です」

「サクラコちゃんは、17歳だったのか。もっと下に見えたけど……17なら、ルークとそんなに変わらないね。ルークは18歳だっけ」

「いえ、この前19になりました」

「あ、そっか。そうだった。いやーそれにしても17歳なのはいいことだ。ルークと年も近いし。それにサクラコちゃんとカズヤ君が別に恋人というわけでもないそうだよ、ルーク。良かったな!」

「な、ガンジさん、だから、そういういい方はしないでくださいよ」

 と言って、ルークさんが顔を赤らめた。


 ルークさん、19歳だったのか。年が近いといいことっていうのはいったいなんなんだろうか。それに、私がと和也が恋人じゃないとよかったなんていうのは……。

 私が疑問に思っていると、相変わらず不機嫌な和也が声を上げた。


「さっきから、なんか桜子の話をするとルークさんの話が出てきますけど、どういうことなんですか?」

「いやー、実はさ、毎日魔物退治に明け暮れて、魔物退治にしか興味がないみたいなあのルークがさ、昨日、桜子ちゃんと会った時、まるで強敵に遭遇した時みたいに胸が高鳴った! って嬉しそうに話すもんだからって、いって!  ルーク、足を蹴ることはないだろう!」


 そうガンジさんは言って、痛そうに足のすねの方をさすった。


「ガンジさんがそんなこというからですよ! なんでいっちゃうんですか!?」

 顔を赤くさせたルークさんが、そう言って、ガンジさんを睨みつける。

 そして反応を伺うように私の方を見ると、恥ずかしそうに目を伏せた。


 え……これってまさか、ルークさん、私のこと、す、好き……?

 あれ? でも、待てよ。さっきガンジさんが、「強敵に遭遇した時みたいに胸が高鳴った」って言っていたような。

 それってただ私が強敵認定されただけじゃ……いや、深く考えるのはやめよう。

 この世界の私はか弱い。か弱い料理人なのだ。

 だから、ルークさんが騙されているうち、じゃなくて……ルークさんの気が変わらないうちに、じゃなくて、私がか弱いうちに、でもなくて、えーっと、そうじゃなくて、なんていうか、とりあえず私、期待しちゃうんだけど……。


「ちょっと、待って。俺たちをパーティーに入れてくれたのって下心があったからってわけ? だいたいルークさんとレイラさんは何なんですか? すごい親しそうに見えるけど、恋人じゃないんですか? 悪いけど、恋人がいるくせに他の女に興味ある素振りをするなんて、信じられないね」

 険しい声の和也がそう言って、ルークさんを睨んだ。


 ルークさんは突然睨まれてかなり驚いたようで、目を見開いている。

 和也、そんなに怒らなくても……。でも、確かに、恋人がいる人は辛いかなって思うけれど……。


 驚きで固まっているルークさんじゃなくて、レイラさんから大きな笑い声が聞こえてきた。


「もう! やっだー! ふふ! カズヤ君ったらぁ! 何言ってるのぉ? 私とルークは親子よぉ」


「「……え?」」

 今度は私とカズヤが固まる番だった。

 え、だって、親子って、ことは、つまり、えーと。


「レイラは、その、僕の母です」

「「母」」

 ルークさんが、なんか恥ずかしそうに告げると、私と和也は二人そろって同じ単語を口にした。


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