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サクラコ、パーティーに誘われる

 人生で初めてのナンパをされたと思ったら、痴漢だった。

 こんなの、ひどい。


 私は、ゆっくりと、しかししっかりとチカン野郎の肩に手を置いて、私の体と離した。


「あ? なんだ? こいつ、力、つよ……」

 チカン野郎は、無理やり引き剥がされて驚いた顔をした。


 そして、私との力の差を知った痴漢野郎が逃げようとするので、その腕をしっかりと握る。

 

 逃がさない。

 私の純情を弄んだあなたは、絶対に許さない!


 と思っていると、横から、別の人の手が痴漢野郎の腕を掴んだ。


「こんなか弱そうな少女に手を出すなんて、恥ずかしいと思わないのか?」

 痴漢野郎の腕を取った男の人はそう言って、痴漢野郎を睨んだ。


 彼の目線は痴漢野郎の顔をしっかりと見つめていて、今や私が痴漢野郎を逃すまいとその腕の骨を軋ませるほどのチカラで握り締めているとは気づいていない。

 痴漢野郎をギッタンギッタンにしてやろうと渦巻いていた私の怒りがすっと収まっていく。


 だって、この人、この男の人、すごくかっこいい!


 金髪で、瞳の色は綺麗なアイスブルー、日に焼けた肌。

 今は痴漢男を睨んでるから険しい顔をしているけれど、それでも分かる涼し気な整った顔立ち。

 そして細身でありつつも、引き締まった筋肉。ちょうどいい感じに熱い胸板。


 それに何よりこの男の人、私のことを『か弱そうな少女』って言ってくれた!


 私は、パッと痴漢野郎の腕を握っていた手を離した。

 

 すると金髪のイケメンは、私をかばうように前にでて、痴漢男の腕をねじり上げた。

「な、くそっ! イテッ! なんだよ! こいつ横から! ていうか、あの女か弱くねぇぞ!」

 と痴漢男がのたまう。

 いやだ、あの男、私のことか弱くないとか言い放ったんだけど。

 全く失礼な痴漢である。

 痴漢ってだけでも失礼なのに、言動も失礼だなんて最悪な痴漢野郎だ。


 イケメンは痴漢男の戯言には反応せず、そのまま突き放すように男の腕を離す。

 痴漢男は床に尻をつけた。


 そうすると、痴漢野郎の連れの男がこちらにすごい剣幕で、「この野郎! よくも俺の連れを!」と言いながらやってきた。


 けれど、イケメンの顔を見るなり痴漢の連れは、顔を青白くさせた。

「……あ、お前、まさか金獅子の!?」

 痴漢の連れが、そう言って動きを止まった。


 金獅子……?


「怪我する前に帰るべきだと思うよ」

 イケメンが、そんなことを言うと、痴漢やろうとそのツレの男は顔を見合わせてから、「す、すみません!」と言って、慌てて去っていった。


 なんだろう。あの反応。イケメンさんは、モノすっごく有名、なのかな?

 あーでも、あんなにかっこいいんだもん、きっと有名だよね。

 もしかしたらアイドル活動でもしてるのかもしれない。

 サインもらいたい。


 あ、ちがう、サインとか、もちろんほしいけれど、今はそれよりも、お礼を言わなくちゃ!


「あの! ありがとうございます!」

「いや、別に、ただ目に余っただけだから、気にしなくて……」

 といったイケメンさんは、振り返って私の顔を見るなり、目を見開いて驚いた顔をした。そしてみるみる顔が赤くなっていく。


「ど、どうしたんですか?」

 あまりにも異常な急変だったので、思わず聞いた。

 だって、顔が真っ赤だ!


「あ! あ、その、はい。大丈夫、です」


 イケメンはそう言うと、首を大きく振った。大丈夫には見えないのだけども……?

 しかし、どうにか持ち直したイケメンが、「それより、大丈夫だった? 怪我してない?」と優しく声をかけてくれた。


 クシャって感じで少年のように笑う笑顔。

 険しい顔をしていた時はすっごく大人に見えたけれど、こうやって改めて見てみると幼くみえる。

 私より一つ上、ぐらいかな? 年齢、結構近そうだ。

 かっこいい。サイン欲しい。あわよくば握手してほしい。


「はい! 大丈夫です」

「でも君みたいな女の子が、こんなところで一人でいるのは良くないと思うよ。ガラが良くないのもいっぱいいるし」

「あ、その、もともと一人じゃなくて」

「桜子! どうしたんだ!?」

 もう一人連れが……と説明しようとしたら、和也が慌てた様子で私の方に来てくれた。

 よくよく周りを見てみれば、私達のやりとりはかなり周りから注目されているようだった。

 いつの間にかギャラリーができてる。


 和也は何故か、金髪イケメンと私との間に立って、彼を睨んだ。

 あれ? もしかして和也、金髪のイケメンアイドルさんのこと、悪い人だと勘違いしてる!? だめだよ和也。その人はすごくよいイケメンアイドルなんだよ。良きメンドルなの!


「和也、あの、違うの! この人は、私を酔っ払いの人から助けてくれたの」

「酔っぱらいから?」

 私が説明をすると和也が振り返って訝しむような顔で私を見る。

 私と和也のやり取りを見ていたイケメンが口を開いた。

「……良かった。連れの人がいたんだね」

「はい、あの、でもありがとうございました! 助けてくれて……」

 それに、か弱いって言ってくれて……!


「ううん、いいんだ。でも、そのもしよかったら名前を聞いてもいいかな? 僕はルーク。黄昏の獅子っていうパーティーに所属してる冒険者なんだけど」

 そう、ルーク様というお名前なのですね……!

 あと、冒険者ってことはアイドルではいらっしゃらないのですね。

 それもそうか、きっとこの世界ってテレビとかないだろうし、アイドルはないよね。

 あまりのかっこよさに少し錯乱してしまった。


 アイドルじゃないと分かると、なんだか一気に親近感がわいてくる。

 私は改めてイケメンの目を見て、挨拶をするために口を開いた。


「私、サクラコって言います! 私も一応冒険者、です。まだ冒険したことないですけど」

「えっ! 君も冒険者なの? もしかしてお兄さんも?」

 と言ってルーク様は和也の方を見た。

 和也はさっきからずっと警戒したような顔をしている。


「そうだけど、だから何?」

 和也ったら、そんな怖い声しなくてもいいのに。

 しかしルーク様はそういうのは気にしないタチらしく、特に嫌な顔とかしないで私たちの服装を見た。


「でも、着ている服、布の服だよね。それで、冒険に、外に行くのは厳しいんじゃないかな」

 と言って、ちょっと心配そうな顔をした。


「このまま、行くわけじゃないし、あなたには関係ない」

「和也! そんな言い方しなくても!」

 私がそういうと、ものすごーく不機嫌そうな顔で和也が私を見下ろした。

 こわい!


「なぁにぃ? ルークちゃん! どぉしたのぉ?」


 突然女の人の声が聞こえて、声がした方を見てみると、顔を赤らめて、片手に酒瓶を持った、胸の大きなお姉さんが、ルークさんの後ろからのしかかるように抱きついた。

 私も和也も、思わずそちらを見て、驚きに固まる。


 だって、このお姉さん。下着……いや、水着? とりあえずなぜか知らないけれどビキニ姿なんだけど!? ビキニに、黒いマントを羽織ってるだけの格好なんですけど!?


 キレイな金髪はくるくると巻かれていて長い。瞳の色はアメジストみたいな透き通った薄紫。すごい美女だ。

 そして大きくて重量感のありそうな胸がルークさんに押し付けられている。


「いや、タチの悪い冒険者に絡まれてた女の子を助けたんだけど、その子が冒険者になりたてみたいで……」

「ふーん? それでぇ、気になっちゃったのねぇ? ルークちゃんもやるぅ!」

「からかわないでください! あと酒臭いです!」

 と言って、ルークさんが美女を引き剥がそうとしているけれど、美女は気にせず私と和也を見てにっこりと笑った。


「あら、両方とも可愛い子達じゃない! ねえねえ、ジョブは何?」

「えーっと、私は料理人です。和也は商人です」

 突然のビキニにまだ驚きを隠せない和也の代わりに私がそう答えると、ますますニマーっと笑った美女は、ルークさんから離れて私たちの目の前にやってきた。

 すごい、本当にビキニだ。ビキニにマントを羽織ってる。本当にそれだけの格好だ。


「ちょうどいいじゃない! じゃあ、私達のパーティーに入らない? 黄昏の獅子パーティーっていうの。私たちが、冒険のしかた、教えて、あ、げ、る」


 美女はそう言って、色っぽくウィンクをした。


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